28 ルフィーナが目覚める前日〜ジェイド視点
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
未だにルフィーナが目覚めない。
もう三日目だった。
そんな時に王宮からの召喚があった。いつもよりも侍従に着飾られて、王の謁見の間に通された。
国王の玉座を中心に、王妃や王子達、側妃が並んでいた。頭を下げて、正式な挨拶をする。
「陛下、並びに王族の方々にご挨拶させて頂きます。ジェイド・ベルンストでございます。この度の褒賞におきましては、感謝とともに謹んでお受けいたします」
今回の劇場での惨事を食い止めた功績として国から公表し褒賞を授けられるらしい。
公爵領にまた一つ鉱山が増えた。叔父に食い潰される所だったベルンスト公爵家を建て直すには有り難い話だろう。
「この度は、ベルンスト公の働きで被害が最小限に収まったと聞く。多くの貴族に被害も出た惨事だったが、公の働きは素晴らしい功績だった。これからも臣下として国に尽くしてほしい」
アルセリア王国、国王レオナルド。
十年前の当時の弟――第二王子殺害に関与したのではと未だに囁かれている。
「有難きお言葉でございます。ベルンスト公爵家はより一層、王家のために尽くす所存です」
ただの惰性で言葉を返す。
この国が、この王が不甲斐ないから周りが迷惑しているんだろうが。
そこの売女にいい様に操られているから、国が割れるんだろうがクソ野郎。
――時間感覚が曖昧だ。
いつの間にか謁見の間を出て王宮の廊下を歩いていた。
レイアスが侍従として付いてきているのは分かっていたが、彼に声を掛けられるまで何の感情も沸かなかった。
なので気付かなかったのだ。
目の前まで、あの女が歩いて来ていることに。
「――前から側妃が来るぞ。お願いだから、問題を起こさないでね……!」
側妃。あの女――。怒りで身体が震える。
そして、その女から声を掛けられた。
「また会いましたね、ベルンスト公。この度はお悔やみ申し上げますわ」
「……お久しぶりでございます。側妃様には何事も無くて安心致しました」
(顔も見たくない。早く向こうへ行ってくれ……)
今日も、バッスルスタイルでピッタリと胸にフィットする赤い色のドレスを着ている。
劇場での理解出来ない行動も気に掛かるが、今はその存在全てが疎ましく、気に障って仕方がない。
「あの日劇場で会話したすぐ後に、そんな悲劇が起きるなんて考えもしませんでした。ベルンスト公はよくご無事で。不幸中の幸いですね」
――不幸中の幸い。……幸い?どういう意味で言っているんだ?ルフィーナがまだ目覚めていないのに幸いだと?
「あぁ、あの可愛らしかった婚約者はまだ昏睡状態なのですって?なんて残念な事でしょう」
「ご心配ありがとうございます」
持っていた扇を口元を隠しながら、艶然と微笑み言った。この、俺に対して――。
「でも、ベルンスト公ほどに立派な方ならすぐに新しい婚約者が見つかる事でしょう。あまり気を落とさないで下さいね」
「有り難いご配慮ですが、まだ……。そんな考えに及びません」
――すぐに新しい婚約者が見つかる。彼女の代わりなんて居るわけがないじゃないか。
彼女は唯一無二だ。他の女?冗談じゃない。
「わたくしから、もっと素晴らしいご令嬢をご紹介致しましょうか?やはり、今話題のベルンスト公には釣り合う相手ではなくては。相応しい女性はまだまだ沢山おりますわ」
一瞬で血が沸騰するとはこういう事なのか。
殺意が湧いて止められなくなる。憎い相手を手にかける時はこんな感情なのだろうか。
目の前の女に掴みかかろうと、足に力を入れた瞬間にレイアスが脇腹を殴りつけてきた。
流石の不意打ちに動作が止まり。
激痛に表情が崩れ、姿勢も傾いた。
「大丈夫ですか、ご主人様!――私ごときが口を挟んでしまい申し訳ありません側妃様。しかし、ベルンスト公爵閣下はまだ先日の怪我のせいで本調子では無く……」
彼女からの死角、そして一瞬の動きだったから、俺が殴られたとは思いもよらなかったのだろう。
――しかし、いつも側妃に付き従うあの護衛騎士。
彼からは丸見えだったらしい。剣の柄に手を掛けていた。
側妃は、自分の言葉が俺を傷つけたと満足したのだろう。
「まぁ、そうでしたか。ではゆっくり療養して治していただかなければ。長居をさせて申し訳なかったわ。では行きましょう」
後ろの侍女に声をかけ、横を通り過ぎる時――。
俯く俺の肩に、扇で触れてくる。
その高慢であまりにも常識の無い態度。
――明らかにこちらを挑発している。
「わたくしもこれから宮廷サロンの主催がありますの。貴方の婚約者にも招待状を送っていたのに無駄になってしまったわね」
「――!」
「はい、それでは失礼致します。主人に代わってご無礼を謝罪致します」
レイアスは俺の反論を防ぐためか、同じところにもう一発拳を食らわせてくる。
くそ、手加減を知らない奴だ!
彼が深々と礼をして側妃が立ち去るのを待つ間。
俺はあまりの痛みに顔をあげられないで、自分の情けなくも無様な姿に拳を握るしか無かった。
ここで動くべきでは無い。
そんな事はわかっている。
だが。側妃への殺意だけはどんどんと心に溜まっていき溢れ出しそうだ。どうしても我慢出来ない――。
◇◇◇
「ジェイド!君ってそんなに馬鹿だった!?王宮で王族に掴みかかったら、幾ら公爵でも拘束されて罰せられても当然だ!」
帰りの馬車の中でレイアスが悲鳴のような声を上げて俺に掴みかかる。
――そう。明らかに悪手だった。
行動するなら気付かれないようにしなければ。クロエやルフィーナにも累が及んでは意味がない。
「あぁ、あの場で止めてくれて感謝するよ。手を下すなら人目につかない所だな」
「違うって!――いや、違わない?……でも、今この状況で側妃が死んだら疑われるのは君だ!周りの人を巻き込むのを望んでるの!?」
その通りだ。冷静になれ。
手が出せない。ルフィーナをあそこまで馬鹿にされても俺では手が出せない。
どうしようか。どうやってあの女を破滅に追い込んでやろうか――。
叔父を唆したのもあの女だった。
当時のベルンスト当主の父が邪魔だったのだろう。
それで、次男で父に劣等感を抱いていた叔父に声を掛けたのだ。
享楽的で短絡。高い自尊心を持ち、そこを突けばさぞや楽に操れたことだろう。
俺が浅はかな行動に出てしまえば、彼女達が不幸になるのに。
(いっその事、邪魔者を全てを葬ってしまおうか)
その方が、有意義に自分の命を使える。
ルフィーナとの未来なんてあり得ないならば。
そんなに、俺に『役割』を与えたいなら希望通りに動いてやろうか。
そんな事を馬車の中で延々と考え続ける俺に現実は更に追い打ちを掛けてくる。
「失礼します!馬車から降りてください、公爵閣下。第一王子殿下から王宮に留まるようにとのご命令が出ております」
いきなり近衛騎士に馬車を止められ、そう告げられた。馬車の周りには十人程の近衛騎士がいて、騎乗して取り囲んでいる。
「一体何だ?俺を騎士たちで囲み、馬車を止めるほどの何かが起きたのか?」
声を張り上げて彼らに問う。第一王子からの『命令』?
アレクセイがこんな事をする筈がない。
「ジェイド、これって……」
不穏な気配に流石に狼狽えるレイアス。このまま、王宮に行けばそのまま出てこれない可能性もあるな。
彼の耳元に囁く。
『準備していた物を彼女に渡してくれ、それと鴉に連絡を』
レイアスが理解してくれたのかどうかの確認も出来ない。そのまま促されて、違う馬車に乗せられる。
「現在側妃様が何者かに毒を盛られた可能性があり、王宮に居た全ての方に、容疑が晴れるまで滞在していただく所存です」
――それは罠か。それとも邪魔になると判断されて拘束されるのか。どちらにしろ、俺自身が拘束されて動けなければ出来る事がない。
やはりどんどんと事態が悪化していく。
そしてそれは思いも寄らない所から来るらしい。
いつも、読んで下さる方、ブクマしてくださる方、評価してくださる方、リアクションしてくださる全ての方に支えられています。
ありがとうございます!本当に励みになっています。




