27 側妃の思惑は〜 ある部屋の中での会話
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
――劇場の火事の翌日。
あの劇場で火事が起きて、ベルンスト公爵とアレクセイ殿下への支持が市民に広がった。
各社の新聞は二人の活躍を一面で取り上げている。
薄暗い部屋の中では当惑して取り乱した声が上がった。
「レクシビル公爵!このままでは我々は終わりです!」
「先日の劇場の火事は側妃様の独断ですか……!」
集まった人々の顔を見回して、彼――レクシビル公爵が切り出した。四十代半ばの彼は、金髪に所々に銀色の髪が混じってきてはいるが、体格が良くまだまだ壮健さが伺える。
「最近、新たに就いたベルンスト公爵のせいで事が上手く運ばなくなった。収入源のアレの監視が大分厳しくなっている」
「ええ、前公爵の投獄さえ無ければ、今頃はこんなに追い詰められることも無く、自分の立場をもっと強固な物に出来たのに」
敢えて明かりを最小限にした部屋で密会する者たち。
いずれも現在は王家に睨まれている家の者ばかりだ。
少し前までの権勢は既に儚くなっている。
「折角、見破られない経路を確立したところだったのに……。早く第二王子を王にしなければ。いっその事第一王子を消したいが警備が手厚すぎる」
――やはりもう後がない、と溢す。
ここに居るのは隣国が戦争を起こすつもりだと知って協力を誓った者ばかりだ。彼らがこの国を属国にしたら、地位を上げ最大限の利益を保証すると約束された貴族達だった。
「オーガスタ様!約束が違います!これでは我々はただの反逆者だ!」
「どうするべきか。これから第一王子の支持を表明しても、既に手遅れだ」
その部屋に集まった他の数人の中年男性も騒ぎ出す。誰もが焦った顔だ。
「彼の治世においては当家は冷遇される。更には、隣国から違法薬の流入が明るみになってしまったら……」
隣国に利を提供して味方をし、国を不利にする行為は大逆罪だ。
更には国を乱すと禁止された『媚薬』等の違法薬の流入。これでは極刑は免れない。
ただ一人その場にいた女――側妃オーガスタが声を出した。
「狙いをベルンスト公に絞りましょう。彼を失脚させるのです。一度しか使えない強引な手ですが、彼に嫌疑をかけて拘束してしまえばいい」
「……な!どうやって?公爵を強引に捕らえるなど不可能です」
「そこは、王族殺害『未遂』などはどう?わたくしが彼と対立しているのは世間に広がっていますわ」
扇をパチリと閉じて、自分の首に当てる。
そして、周囲を見回しながら語った。
「わたくしが彼に命を狙われた事にすれば、王宮に留めるくらいは出来ます」
「あり得ない!裁判も無しに拘束なんて事をしたら、他の貴族家に反発されて終わりです」
その強引な手段に、流石の彼らも黙って聞いていられなかった。
「まぁ、普通はあり得ませんが。秘密裏に進めて最速で終わらせればいいのでは?まだベルンスト公爵家の権力が不安定な今しか出来ません」
「そんな無謀な!」
次々と否定の声が上がるなか、レクシビル公爵がそれを止める。
「まぁ落ち着きなさい。さっき、後がないと自分たちで言っていたではないか。若造を秘密裏に消す方法が他にあると?」
確かに、まだ若い公爵ならば御し易い可能性もあると男達は目を見合わせる。
「消す必要は無いのですよ?何の為の『媚薬』でしょうか。公爵にそれを使って廃人にしてしまえばいいじゃない」
だが、彼には毒も薬も成功したことがなかった。
周りは渋い顔をしている。
「普段の彼は、何故かそれが入った物に気付いてしまい手が出せません……が、拘束され独房に監禁して水も食料も限られたらどうなるでしょう?流石の彼も口にする筈」
「ですが、何処に呼び出して……」
反対勢力からの招待など受ける筈もない。だから彼らは頭を悩ませていたのだ。
「王宮に召喚すればいいのです。世間では英雄ですもの。褒賞を与えるといえば疑問に思わないでしょう?」
既に何度も失敗したのだろう彼らははこぞって渋い顔をする。そんなに上手く事が運ぶのか不安なのだろう。
「さてどうしますか?このまま証拠を掴まれて処刑台の上に立つか、彼を狙い、再び国を混乱させて逃げる道を作り出すか」
「もうどちらにしても終わりだ!このまま隣国に亡命する方が――」
一人の貴族が悲鳴のように声を上げた。すると次々と同調する空気が広がっていった。
「そうしたければそうすればいい。ただ、エルムハイツ国王は甘くないわ。貴族として迎えられるとは思わないほうが宜しいでしょう。平民として隣国へ渡るならどうぞ。そして――」
その甘い考えを切り裂くように真っ赤に濡れた口元に笑みを浮かべた。
「彼の国の機密を知った平民の末路も想像しておいたほうがきっといいですわよ?覚悟があるのと無いのとでは全然違いますから」
そこでオーガスタは唇を指で触る。部屋の中の蝋燭の揺らめきが怪しく彼女を映し出す。
「しかし、本当に亡命するおつもりなら手土産を用意しなければ。妹の方は他にも色々と使い道がありますわ。王妃の姪で、ヴェンダース公爵家の孫娘ならば多少はね」
「だが、そこ迄の動きを見せるとこちらが捕まる可能性が高い。第一王子もヴェンダース公爵も居る」
慎重な口振りでレクシビル公爵が反論する。
それに同調する者も頷く。
「ですから、まずは邪魔なベルンストを狙えと言っているのです。亡命するにしても、彼が今最大の壁で立ちはだかる者ですわ」
「だが。下手な事は出来ない中でそんな強引な手を使う事自体危険だ。もう、薬の流通経路を調べられている」
他の男も公爵に同意するように声を上げた。
慎重な意見も多い。
「そう。もう後がないのですよ、我々は。既に警戒されている私達は監視されて動けない。ならばやはり使う手段は限られている」
「有難いことに第一王子のアレクセイは国王から疎まれている。またバランスを崩せばいい」
優秀さ故に、凡庸な王に疎まれる王子。
愚かな国王の下では私腹を肥やしやすく、ここに居るのはそれ故に自由に権勢を振るってきた者達なのだ。
優秀な彼の治世では、少なからず血が流れる事が予想される。それも我々の血だ。
「上手くいけば、御の字。ベルンスト公とその妹、同時に罠に掛けましょう。妹の方は一応の保険で使えばいいですわ。まだ後戻りが出来るなんて甘い事を仰るかしら?」
彼らは皆、同じ事を考える。
――退路。
そんな物が何処にあるというのか。
今更全ての証拠を消せるとは思えない――と。
首を振ってレクシビル公爵はその言葉を否定する。
「退路なんて既に無いではないか」
「そうなれば貢ぎ物を持ち隣国に亡命するしかありませんわね。命だけは保証されるかと」
「それが、公爵の妹だと?」
女は美しく、しかし凄みまで感じる様な笑顔で言った。
「後は第二王子かしら。この国の王の血を継いだものを手土産に。いづれは利用出る可能性もあるので無下にはしないでしょう」
「自分の息子を差し出すというのか?」
「それは最終手段にしておきたいですわね。まずは、邪魔なベルンストと第一王子の排除を目指しましょう。人質でも、違法薬でも毒殺でも暗殺でも。打てる手は全て使わないと」
静まり返る部屋の中――レクシビル公爵が結論を告げる。
「時間がない。まずはベルンスト公を狙うのが無難か。王宮に呼び出す理由にも矛盾は無い」
「ええ、そうですね」
「彼を中毒にして、妹を確保する。あぁ、そういえば可愛がっていた婚約者もいましたね。彼女達を確保してしまいましょう」
全員が頷き合った。これで方向性も決まり、更に後戻りができなくなる。何もしなければここに居る誰もが同じ道を辿る事になるのだ。
「わかりました。では、『王族殺害未遂』の件は全てお任せ出来るのですか?」
「ええ。死なない程度に倒れるだけでも問題ないでしょう。そこは任せて下さいな」
側妃の言葉を信じて、静かに部屋を去っていく男達。
◇◇◇
その場に残ったレクシビル公爵は、側妃オーガスタに問いかけた。
「――それで。貴女は満足するのか?」
レクシビル公爵は側妃オーガスタに問う。
オーガスタの狙いが、権力では無いことを知っている唯一の人物だった。
「いいえ?一番憎いのはこの国自体ですもの。全て壊してしまいたいわ。でも、その次に憎いのも隣国のエルムハイツなの。わたくしを簡単に売り払ってくれたのだもの」
「結局は貴方の復讐に巻き込まれてしまった訳だ。我々は」
目を固く閉じて、レクシビル公爵は頭を振る。
それは諦観にも見える仕草だった。
「わたくしは、彼が殺された時に全てに復讐すると誓ったの。国王に、国に、私を人質に差し出した母国にも」
――女は美しい、まるで悪魔の様な笑顔で昔の話を語った。いつも連れている侍女にワインの入ったグラスを要求する。
その侍女と背後に控える護衛騎士はオーガスタの母国の者だった。
「当時は次男で、何の権力も持たない貴方に聞いたでしょう?わたくしと一緒に、自分を馬鹿にする周りの全てに復讐しないか――と」
怪しく危うげに、そして凄絶なその暗い瞳で嘲笑う。
そう。その口車に乗せられて破滅に向かう者達。
何が間違いだったのか――。
誰にも答えは分かりきっている事だった。
それは、全て結果論。
これから彼等の辿る道が答えだった。
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