26 目が覚めると
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
悲鳴が聞こえる。
『助けてくれ!』
『だれか、ここを開けて!』
『熱い、熱いよ!助けて!ここから出して!』
男性の声も、女性の声も、子供の声も全てが助けを求める言葉を発している。
――何も出来なかった。誰も助けられなかった。
誰も彼もが必死だった。
熱気に肌が焼かれる。
恐ろしい火の海だった。感じたこともない熱さだった。
何かが焦げた臭いがまだ残っている気がする。
耳に残る声がつらい。
でもそれ以上に――。もう会えないかもしれない。
それが一番の後悔だった。
◇◇◇
何処かで懐かしい泣き声が聞こえて、目が覚めた。
「クロエ……。また泣いちゃった、の……?」
声が枯れて、上手く声が出てこないな。
どうしたんだっけ……。
「お嬢様……!お嬢様……!良かった!」
ポロポロと涙を拭いもせずに、身体を起こそうとする私を助けてくれる。
「あれ――。私、どうしたんだっけ……」
身体中が痛くて、あまり動かせないみたい。
起きたばかりで記憶がはっきりしない。
(倒れたんだっけ?何で――)
――その瞬間に突然、頭の中に浮かぶ映像。
一瞬で目の前が火の海になった――。
「あ!あぁぁ……!火事は!?ジェイドは!?レイアスは無事なの!?あの人達はどうなったの!?」
まだあの悲惨な場所から逃げられた実感がない。
ここが夢の中の様に感じる。
本当の私は死んでしまったんじゃないのか。
「大丈夫です。何もかも大丈夫です!ジェイドとレイアスは無事です。……お嬢様が無事ならなんでもいいんです」
クロエがギュッとしがみついて来る。
それは幼子を落ち着かせるような態度で。
何か怖いことがあった時に安心させるようなそんな態度に――何処かで納得してしまった。
――私は本当に助かったんだ……。そして。
(きっと彼らは助からなかったんだ……)
「お医者様を呼んできます!」
エマが部屋から飛び出していくのが見えた。
罪悪感が押し寄せてくる。何も出来なかった自分が生き残った。
――あの時は必死だった。
――誰もが、助かろうと必死だった。
私は生き残った。絶対に生き残ろうと頑張って。
クロエとジェイドを泣かせないように、死んでは駄目だと必死で掴み取った命だった。
でも。
(私だけが生き残ってしまった)
あの無邪気に笑う子供たちに背を向けてまで。
本当にあの時に何か出来なかったのか。
――何も出来なかった。レイアスに言われた通りに私に出来る事は何もなかった。
彼のあの時の言葉は痛烈で、でも私を救ってくれた。
昔から私に出来ることなんてなかったじゃない。
誰のせいでもない。
男性も沢山いたじゃない。
きっとあの子達の親も近くに居たわ。
助かったかもしれないじゃない。
弱い私が幾つもの言い訳を並べる。
そうして自分を正当化して、罪悪感から目を逸らす。
必死に現実から、それを受け止める事から逃げようとする。
それでも。
(レイアスが居てくれたお陰で。私だけ、ジェイドがつけてくれた護衛が居たって理由だけで――)
「私だけ生き残ってしまったのね」
胸に広がる罪悪感が止まらない――。
――パンッ!
その時、頬に痛みが走った。
……クロエに殴られた?想像もしていなかった事に少し呆然としてしまう。
「お嬢様!……生き残ってしまった?――違います!生き残れたんです!そんな考えは彼らに失礼です!誰に対しても失礼な考え方なんですよ!」
こんなに私に対して怒った彼女は初めてだった。
「必死に、何度も泣きながら、後悔しながら生きていくんですよ。私達はそんな事しか出来ない。でも私は誰よりもルフィーナが無事で良かった!」
あぁ、本気でクロエが泣いている。
幼い頃に同じ経験をしたのだろうクロエの前で言っていい言葉じゃなかった。
「ごめんね、ごめん。クロエに会いたかったから頑張ったんだよ。そう、クロエとジェイドにもう一度会いたかったから必死に生き残ったんだった」
私もクロエにしがみついて泣いた。
もう一度会いたかった。
もう会えないと思ったんだ。
そう思ったら、私が死んだ後の二人が心配になって。
ずっと側にいて、何度も伝えた言葉を――。
まだまだ言い足りないことに気付いたんだ。
これからも何度も伝えたいと思ったんだった。
「クロエ、大好きだよ。大好き。大好き」
「私も大好きです。目が覚めてくれて良かったです。また伝えられて良かった!」
何度伝えても、大切な人には伝えきれなくて後悔するんだ。もう一度会えて良かった。
私達は昔のように、子供に返ったようにお互いに抱き合って涙を流した。
――そう。生き残って、大切な人にまた会えた。
今はそれだけでいい。
それで十分だ。
痛みは心に残って、まだまだ治らないけれど。
クロエとジェイドの前で言ってはいけない言葉だった。
◇◇◇
――あれ?そういえば。
「ねぇ、クロエ。ジェイドは何処に行ったの?」
珍しい。
普段の彼なら、直ぐに飛んでくるのに。
彼の顔を見て安心したかったのに、ここに居なかった。
何処かに出かけているのか。
「それは……。ジェイドは今――」
何気なく聞いた彼の居場所を、彼女は言い辛そうに言葉を濁した。え、本当に珍しい。
「それについては、僕が説明するよ。――おはようルフィーナ様。お互いに無事で良かったね」
少し軽薄そうな声。これは。
「レイアス!良かった、無事で良かった!ありがとう。全部貴方のお陰だわ。ずっと性格が悪くて嫌いだと思っていてごめんなさい!」
いつの間にか、部屋の中に入っていた彼の姿を見てまた涙が出そうになった。
レイアスも無事だった。見た所、大きな怪我は無い。
良かった。本当に良かった。
「――あんなに頑張ったんだよね、僕。相変わらず嫌われてるのか〜……」
「だから、もう嫌いじゃないってば」
あの時、彼に怒鳴られたから現実を知った。
それは正しくて傷つきもしたが、彼の言う通りだった。
私が助かったのは全て彼のお陰だった。
お互いに死線を潜り抜けた仲間――と言ってしまえば格好つけすぎね。
でも、ジェイドが信頼する気持ちがわかったわ。
「もう!一緒に脱出した時から身内枠よ。本当の従兄弟くらいに思ってるわ」
「有り難いのかどうかわからない立ち位置……」
それは家族枠は既に埋まってるから、仕方ないでしょう。
「それで、ジェイドの話に戻すけどね。――今、側妃の暗殺疑惑で王宮に拘束されている」
それは起き抜けには厳しい話だわ――。
普通はもう少し、休みたいじゃない。
傷ついた心を癒したいのに……。
「目が覚めたら、婚約者が暗殺疑惑で拘束されていましたーー!?」
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