25 クロエ視点〜ジェイドとお嬢様
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
子供の頃から、私は公爵令嬢として大切にされてきた。
『将来は誰もが憧れる社交界の華ですね』
『クロエ嬢は本当に優秀で……』
『是非、当家の息子と――』
幼い令嬢たちや令息、更にはその親達から持ち上げられて高慢になっていたのかもしれない。
「クロエーー!これ見ろよ!剣術も勉学の授業も先生から褒められた!」
まるで馬鹿みたいな笑顔で手を振ってこちらに走ってくる、双子の兄。
「馬鹿じゃないの、ジェイド。私だって同じ授業を受けているんだから知っているわ。まぁ、剣術は習ってないけれど。でも自慢しに走ってくるなんて他の男の子の方がよっぽど大人みたい!」
私は双子の兄――ジェイドの子供っぽい所が恥ずかしくて嫌いだった。
――兄なんて名乗らないで欲しいわ。
まるで弟じゃない。しかも、手の掛かる弟だわ。
他のご令嬢が話している『お兄様』の方が余程格好良くて憧れる。
(皆、この顔に騙されてるだけね)
一応、厳しく躾けられているジェイドは余所ではちゃんと『公爵令息』に見えるらしい。
実際はこんな物だ。
私はいつも心の中でこの腕白で自由奔放な兄を侮っていた――。
そしてあの日。
――十三歳の時に馬車が崖から転落して、両親が殺されるまでは。
「母上、約束します!絶対にクロエを守ってみせます。俺自身も簡単に死んだりしません」
ジェイドが馬車から泣きながらお母様に言った。
馬車の中で血を流して動かないお父様。
岩に足が……潰されているお母様に、兄が言った。
私を力いっぱい引き上げながら、彼はお母様に約束して――。
お母様を安心させてあげていた。
何が起きているか分からない状況で、私は役立たずで、何もかもが残酷な怖い夢みたいな中で。
『おい、あれだ。中を確認するぞ。怪しまれないように頭を岩で潰せ』
『おい、ガキ二人は?一緒に居るって話じゃなかったか』
『見つけて始末しないと、報酬が貰えないぞ』
――どこからか聞こえてくる何人もの男の声。
聞いたことのないような、そんな残酷な言葉――!
ジェイドに口元を押さえられていなかったら、声を上げて気づかれていたかもしれない……。
私は、何も出来ないまま、今の現状すらわからないままにジェイドに手を引かれてその場を逃げ出した。
◇◇◇
ずっと隠れて震えながら二人で夜を待った。
あの人達にいつ見つかるかわからない恐怖で震えてしまう。
わからない。怖い。
見つかったら殺されちゃうの?何故?
何故私を探しているの?このまま見つかっちゃうの?
私は色々な恐怖で自分の事しか考えられなかったのに――。
「行こう、クロエ。なるべく早く街に着きたい。大丈夫だよ。……きっと大丈夫……」
ジェイドは真っ赤に泣き腫らした瞳で、まだ涙を流しながら私の手を引いて歩き出した。
「うん、私も頑張るから、ジェイドも泣かないで」
その時に気付いた。
ジェイドの脇腹が血だらけだった……!
私が気付いてあげなければいけなかったのに!
ずっと一緒に抱き合って隠れていたのに!
「ジェイド、それ……!怪我してるじゃない」
私は包帯の代わりにでも出来れば、とドレスを破いたが、身体に巻くには短すぎる。
ジェイドの血がこれ以上出ない様に、それで圧迫した。私はこんなにも無力で……ジェイドの涙も血も止めてあげられない――。
でも、彼は痛いとは決して言わなかった。
こんなにも血が出てるのに。
私が何も出来ないから、弱音すら吐けないんだわ。
(ごめん、ごめんねジェイドの方がよっぽど強い……。私は何も出来ないんだ)
◇◇◇
通行人から、大きな布を二枚手に入れて、隠れていた私のもとに戻ってきた兄。
「クロエ!布が手に入った。これを頭から被るんだ。なるべく下を向いて、顔を見せない様に。それから、嫌かもしれないが顔を泥で汚しておいて。出来れば俺みたいに頬にも詰め物を」
顔を泥だらけにして、更に顔を変えるために口に汚い布を入れているジェイド。
とても貴族の子供には見えなかった。
――ジェイドは本当に凄い。想像もしたことがなかった。
私は誰かに助けを求めたら、すぐに安全になると思っていたけれど。
それが逆に危険なことなんて気付かなかった。
お母様との会話で、親戚に――叔父様に命を狙われている可能性に気がついたの?
私は彼について行くしか出来ない。
あんなにも、ジェイドの事を駄目な弟みたいにしか思っていなかったのに……。
◇◇◇
街の裏通りを歩いている時に、遂に力尽きてしまったのか兄が倒れてしまった。
「ジ……!お兄ちゃん!」
――どうしよう!誰か!誰か、助けて!
ジェイドが死んじゃう。嘘だ、どうしよう!
「だれか――!お兄ちゃんが……!」
周りの人に助けを求めても、こちらを見向きもしてくれなかった。
汚い子供にしか見えない私達を誰もが無視した。
――これが現実なんだ。
公爵令嬢じゃない私には誰も見向きもしてくれなくて、誰も助けてくれない!
ジェイドが死んじゃう。私じゃ助けられない……。
そんな時に、金髪碧眼の小さな女の子が声を掛けてくれた。
「あら、あなた達。まだ子供じゃない。どうしたの……って怪我しているじゃない!え!死んじゃうの!?」
私が倒れているジェイドにしがみつき、傷口を必死に押さえながら泣いていると、そう声を掛けてきてくれた女の子が居た。
「大丈夫よ。お医者様じゃないから私は治せないけど、きっと大丈夫。すぐに運びましょう。あなたも一緒においでなさい!」
貴族か裕福な商家の娘か。
幼いその子は小綺麗な格好だった。
「心配しないで。私はシーベルト伯爵令嬢のイリーナよ。これまで、犬も猫も沢山助けてきたのよ!今回だって大丈夫な筈だわ」
すぐに馬車を呼んで、私達を医者に見せてくれるという。
本当に?大人に――誰に助けを求めても見向きもされなかったのに、私よりも幼いこの子が?
「よく頑張ったわね。辛かったでしょう?お兄さんが傷ついているのを、ただ見ているだけしか出来ないのも辛いものよ」
――涙が溢れて止まらなかった。
そう。私、頑張ったの。頑張ったけれど何も出来なかったの。頑張ったけど無力でジェイドの足を引っ張ってばかりだったの……。
私より小さい子に慰められて、自分でも嫌いになっていた何かが救われた気がした。
気まずそうに窓の外を見る可愛らしい女の子。
(本当にありがとう……)
心の中で何度も何度もお礼を言った。
◇◇◇
「う……」
昔の夢をみていたようだ。
まだ、お嬢様が目覚めたという報告は来ていない。
目が覚めてしまった。
すぐに現実が押し寄せてくる。
――私が演劇なんかに誘ったから……!
私の涙が止まらない時は理由も聞かずに抱き締めてくれたじゃない。
夜に悲鳴を上げて飛び起きた私を小さな身体で抱き締めて、宥めてくれたじゃない、お嬢様。
(私の前から居なくならないで)
両親みたいに突然――。
「うぅ……!ごめんなさい、私のせいで……!」
最近はジェイドと仲良く過ごして色々な表情が可愛らしかったのに。
勿論、ずっと私のことだって大切にしてくれていたのに。
私達は似た者同士だった。
夜が怖くて、お互いに孤独で同じ様に慰めあっていた。
お嬢様だって、夜を怖がっていた。
医者から偶然に母親の寿命を聞いてしまって、幼い頃はいつも夜が明けるのを――朝が来るのを怖がっていた。
そう。私達は本当にそっくりで……。
本当の妹みたいに思っていたのに。ルフィーナ。
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