24 劇場の火事〜ジェイド視点
少しつらい展開が続くので一気に投稿します。
苦手な方はお気をつけ下さい。
扉を開けると、煙が充満して息が出来ない程だった。
しかし、まだここまでは火の手が回っていない。
早く彼女の所へ行かなければ!
袖口で煙を吸わないようにして、前へ進む。
そこで見慣れた姿がこちらに向かってくるのが見えた。
「レイアス!良かった!彼女は無事か!」
使用人通路を走っていると、前方からルフィーナを抱きかかえたレイアスと遭遇した。
――良かった。レイアスを彼女に付けていて本当に良かった。
「火傷でボロボロだよ、僕の方は。ルフィーナ様は大丈夫だ。煙で少し気絶しているだけだと思う。早く医者に連れて行こう」
彼の上着を頭から被せられていて、見た所酷い火傷は無さそうだった。
「ありがとう、レイアス。お前が居てくれて良かった」
他の観客は今頃どうなっているのか。
何十人も入り口に殺到しては悲惨な事になっているかもしれない。
消火は間に合うだろうか。
――クロエが悲しむだろう。
現場を目撃したルフィーナはそれ以上の傷を負っただろう。
これが偶然か?
たまたま同じタイミングで側妃と劇場で出会い、彼女が帰ったタイミングで火の手が上がるのが?
――罠か。忠告か。それとも宣戦布告か。
どれであれ許し難い。
レイアスが居なければ、彼女は助からなかったかもしれない。
「取り敢えず、早く外に出て避難して!僕は状況把握の為に部下と合流する。何か証拠でも残ってりゃいいけど、難しいだろうな」
彼の身体には所々焼け爛れた皮膚があり、服も酷く汚れて穴だらけだ。
「お前も一緒に医者に行こう。これじゃあ、証拠なんて期待できない。それよりは公爵家の者を派遣して消火活動に当たらせるぞ」
外では市民が水をかけて消そうとしている。
保安隊も出てきているだろう。
「この機会に第一王子殿下の株を上げておく。すぐに公爵家の兵士、騎士、使用人を呼んでこよう。殿下も動いて下されば完璧だ」
――こんな思考しか出来ない自分が嫌になるが。
あの女は許さない。
徹底的にやってやらなければ気が済まない。
(本当に無事で良かった……!)
しかし、それも彼女を失っていたなら……。
復讐心すら抱けず、心が壊れていたかもしれない。
「行くぞ、レイアス!」
「了解、ジェイド!今回の僕の活躍を忘れないでよ!」
「ああ。一生恩に着るよ」
冗談めかして言っているが、こいつも早く医者に見せなくては。
歩き方がぎこちない。
「本当にお前が居てくれてよかったよ、レイアス」
「まぁ、有能な僕だし?当たり前じゃん」
◇◇◇
公爵家の人員も、王家からの救助要員もすぐに現場に到着した。
その火事による混乱は、アレクセイ殿下が来た事で市民が奮起して、更に団結された。
この活躍で第一王子の人気が高騰した。
市民は彼に、この国の未来を見て。
それを支える若き公爵に信頼を寄せた。
――それでも。
翌日の新聞に載った死者の数は五十人は軽く超えた。
劇場と火事は切り離せない。
しかし、これは紛れもない悲劇だった――。
◇◇◇
あの火事から二日。
クロエはルフィーナの側から離れようとしない。
両親を失った直後に戻ったかのように彼女に依存して離れなくなった。
そのルフィーナもまだ目覚めていない。
煙を吸っている以外は外傷が無いらしい。
しかし、内臓は分からないと言われた。
喉が火傷している様子が見られないから、きっと大丈夫だと声も掛けられた。
劇場前には沢山の花が添えられ、皮肉にも『その場で婚約者の為に活躍した公爵』と話題を集めた。
さらなる悲劇のロマンス。ここで、彼女が死ぬのを望んでいるのか?
それとも、女性が求めるハッピーエンドか?
新聞の自分勝手に脚色された話を見て吐き気がする。
俺自身は、まるで自分が生きている気がしない。
何もやる気が起きないのだ。
何もかもが後悔しかなかった。
――両親の復讐を諦めていれば。
――彼女を婚約者にしなければ。
――そもそも、あの時に彼女の人生に関わらなければ。
「ルフィーナ、ごめん。俺は、どうしても君を手放せなかった……。こんな事になるなら、もっと早く君の前から消えたのに――」
彼女のベッドの横に座り、手を握る。
「ごめんね、こんな目に合わせて」
丸二日離れなかったクロエは憔悴しきっていたので、部屋に戻らせた。
「俺は、俺は……。ルフィーナもクロエも居ればよかったのに――」
なんて皮肉なんだ――。
現実はそう上手くいかないのに。
そんな事、両親が死んだ時に学んだのに。
このまま彼女が死んでしまったら……どうしようか。
側妃を、レクシビル公爵を斬り殺して全てを終わらせようか。
隣国との戦争?
どうせ何度も繰り返されている歴史じゃないか。
今回、必死に止めても無駄だろう?
それを望んでいる人間が多いのだから、結局は無駄なんじゃないのか。
誰が国王になろうが知ったことか。
アレクセイが従兄弟だからどうした。あの時に助けてくれたのは一人だけだった。
小さなルフィーナだけだったじゃないか。
あの時、誰が他に助けてくれた?
叔父への復讐の為に彼らを頼ったばかりに。
いや、それ以前に公爵位なんて俺に必要だったのか――。
父の死に際、母の言葉とその最期。
それを忘れることが出来なかった。
叔父に、この地獄を見せてやろうと誓った。
しかし自分の欲を優先したばかりに、今、大切な物を失うのか。
周りに、自分の立場に、権力に振り回されて失ってしまうのか――。
ねぇ、お嬢様。
クロエの書いたお話は優しかったね。
妹の優しさが沢山詰まっていた。
「自分の欲を優先して、妖精を利用した男に幸せが訪れるなんてね」
他人を利用しようとした男に幸せなんて訪れるわけないじゃないか。
復讐心で身内を投獄した男に幸せなんてあるはずも無かったのに。
でもそんな優しい物語に浸っていたかった。
ただ二人の優しさを守りたいだけだったのに――。
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