22 デート当日②
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
「ちょっ……!もういい!もういいから!……やめ…」
人様の前で見せられるキスの数じゃない!
ジェイドの色気!色気!?男性って普通、色気ある!?ここにあるわ!
無理やり顔を背け、彼の胸を押して距離を取る。
「じゃあ、ここではこれで終わりね。ルフィーナは本当に無知だよね」
――馬鹿にされた。今、馬鹿にされたわ……!
でも言い返すと、何だか色々といけない気がする!
ジェイドは侍従からコートを受け取り席を立った。
エスコートの為に腕を差し出してくる。
よし、彼との仲を見せつけてやりましょうか。
他の観客たちも、飲み物を取りに行ったり知り合いに挨拶などを交わしている。
「戦闘態勢が整いすぎて怖いよルフィーナ。でも、一発食らわしに行く?」
「それは勿論!私が頑張るんだから、狼狽えて優柔不断な男性役にはならないでね。幻滅するからね」
「俺が優柔不断?聞き捨てならないけど――?」
「まぁ、期待してますわ。公爵様」
ボックス席を出て、二人でホールへ。
煌びやかな劇場に集まる貴族達の視線が、彼と私に向けられる。
情報も漏れているみたいだし、それも私が狙われているかもしれない状況。
でも、レイアスも忍び込ませているし身の危険は無いかしら。
「今回はレイアスが私の護衛なのよね?」
周りを見渡しても彼の姿は無い。
「他にも紛れ込ませているけれどね。焦った鼠が何を仕出かすか分からないし。――だからルフィーナは思うようにやっていいよ。逃げたかったら、俺に頼ってくれてもいい」
――生意気ね。王族以外じゃそこまで逃げ腰じゃないわ!それって、普通よね??
「私をそんなに臆病な人間だと思っているの?」
「違うよ。ただ、側妃は厄介なんだ。彼女の相手は俺に任せて」
でも、頼りになる。
公爵閣下の前では盛大に虐められる事もないだろう。
「いいわ、私はヘレン嬢の相手をする!彼女からしたら私は卑怯な略奪女なのよね。でもそれも 楽しそうだし。相手に殴られたりしたら最高の場面ね」
「あまり無茶はしないでね。見てる方は気が気じゃない」
◇◇◇
幕が降り、席を立ち始める人々。
だが、貴族の社交はこれからだ。
皆が立ち話をしていて、劇場の熱気が冷めないまま時間が過ぎる。
さっきのウェルカムドリンクの件はどうするつもりなのかしら。
――私としては、クロエが喜んでいた姿を思い出し、大事にはしたくないと思っているけれど。
「俺やレイアスは、とある人物に嫌と言うほど毒に耐性をつけさせられたんだ。でも、それはあくまでも毒だけで……さっきみたいな違法薬の類いはどうしょうもなくてね」
それは彼が所属していたギルドでの出来事だろうか。結構、いや私には想像もできない事をしていたみたい。
「でも、独特な香りと味で気付くように訓練されている。さっきのは、レイアスが気付いたその『違法薬』だよ」
――違法薬。特に『媚薬』はこの国の歴史に影を落とした物だ。
国民にも貴族にも中毒者が続出し、より酷いものは中毒になった人間の人格さえ壊せる代物だったらしい。
「ただの偶然じゃ片付けられないね。クロエが主催した公演で違法薬が使われ、しかも君に飲ませようなんて」
ちらりと、王族席に視線を向ける。
「誰の仕業かな。目星はついているけれど、ね。……忠告に行ってこようか。コソコソ逃げ回っても、前にも後ろにも既に逃げ場がないってね」
ゾクリと背筋に冷たいものが奔る。
ジェイドが言っているのは。私を狙って得をする人物は――。
そこで、場違いな程に甘ったるい声が掛けられた。
「ジェイド様!またお会いできるなんて、なんて素敵な夜なんでしょう!」
ヘレン・ラスマン伯爵令嬢。
今日も突然現れて、挨拶もせずにジェイドの腕を取る。まるで恋人気分だ。
しかし、今回はそんな事を気にしていられない。
ヘレン嬢の隣にもう一人居た。
豪奢な深い青色に、キラキラと宝石を散りばめた胸を強調するようなドレスの女性。ブルネットの髪に、ダークブラウンの瞳。
三十代半ばを過ぎても、その美貌は色褪せていない。
――側妃オーガスタ。
「ベルンスト公爵。爵位を継承してから挨拶するのは初めてだったかしら。あの幼い子供が今や公爵位に就いているなんてね?」
「側妃様に、ジェイド・ベルンストがご挨拶致します。覚えていて下さり光栄です」
彼は流れるように挨拶を返す。
成る程ね、王族席に居たのは彼女だったのか。
既に情報も入っていたのだろう。
驚きもしていない。さっきの会話で王族席を見やったのは、側妃様を警戒していたからか。
「そちらが、今話題の婚約者ね?」
チラリと私の事を横目で流し見る。
「ルフィーナ・エイムズと申します。側妃様に初めてお目にかかり挨拶させて頂き、幸甚に存じます」
私を上から下まで見やって、横を向く。
「ええ。でもわたくし、下品な人間は目に入れたくないの。下がっていてくれないかしら」
(まぁ、言い返しても仕方がない)
「でも、公爵には昔、婚約が決まりそうな令嬢が居たのでしょう?その方はずっと貴方を想っていたと聞いたけれど、何も感じないのかしら?」
ヘレン嬢に視線を向けて、側妃は美しく笑う。
「……ただの平民がどうやって公爵を落としたのかと思ったら。その顔で上手いこと籠絡したのね。娼婦みたいで気分が悪いわ」
私の手を置いているジェイドの腕に力が入ったのがわかる。私のことで怒ってくれるのは有り難いけれど。
「流石のセイムズ嬢も側妃様の美貌には敵いませんよ。うちの叔父もすっかり貴女に夢中でした。全てを擲って身を滅ぼすほどの美しさです」
「それは私の責任ではないでしょう?貴方の叔父は裁
かれ、私には関係も無い。蒸し返す様な話でも無いでしょう?」
「本当にそうでしょうか?――今更、どちらが先に声を掛けたのは知り得ませんが……。貴女は今後も次々と周りの男を破滅させるでしょう。必ず」
――やばいって!言い過ぎよジェイド!
周囲の目がある以上、本格的に敵対していると噂されるのは明らかだ。
(ここは仕方がない。話を切り上げてもらおう)
話題を変えるために、本来は無礼だけれど声を上げた。
「まぁ、私は今度のサロンを楽しみにしているのです!辺境伯夫人も参加に好意的で、是非ともにと仰っております」
「あら、彼女も来るの?珍しいわね」
「勿論、僕も参加させていただきますよ。あと、側妃様の取り巻きは随分と質が下がったようだ。挨拶も出来ない愚かな人物を周りに置くと、自分もそう見られることになりますよ?」
「……!ジェイド様、そんな……私達は昔馴染みでしょう?」
声を掛けられても見向きもせずに会話を続ける。
「しかも許可もなく名前を呼び、軽々しく男に触れる娼婦をお連れになるなんて、お名前を傷つけますよ。お気をつけてください」
さっき私が言われた言葉をそっくりそのまま返すとは。
――実は凄く怒っているのかしら。
いえ、最初から怒っていたのね。頭が痛い。
ヘレン嬢はあまりの言われように涙を流す。正論だけど手厳しいわね……。
「そうね。それを連れた男性に指摘されるなんてみっともない事をしたわ。では御機嫌よう」
先に一人で立ち去ってしまう側妃様。
残されたヘレン嬢は、キッと私を睨む。
「こんな場所でここまで侮辱を受けるなんて。酷いわ……」
いえいえいえ。私は何も発言出来てない。
「えーと、御機嫌よう。ラスマン嬢。彼、ちょっと機嫌が悪いみたいで御免なさい……」
「彼女のせいにしないで欲しいな。分不相応な女が勝手に周りに妙な言葉を囀り、泣いた所で何になると?――行こうか、ルフィーナ」
全部。ジェイドが終わらせてしまった。
振り返ると、ヘレン嬢は足早にその場から立ち去るところだった。
あれ?私の見せ場は――?
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