21 デート当日①
「おぉー、流石はエマ!私凄く可愛くない?」
薄い桃色の生地を重ね合わて、でも白にも見える色合い。えー、本当に可愛い。
ジェイドの翡翠色も差し色として髪飾りに使う。
うん、私の金髪にもドレスにも合う。
貴族のフォーマルなデートだ。気は抜けない。
そして、例によって公爵家の使用人が『彼女』に情報を流したらしい。エマとメアリーからの情報だ。
何かがありそうな気がする。
トラブルの予感がする。
あの程度の相手なら問題ないけれど、もっと厄介な相手が来たら……。
それにしても恥ずかしい。自分たちを主題にした演劇で更にトラブルとかね。
でもクロエの為に最大限に目立って、広告塔になってあげるわ。
この衣装と化粧の出来栄えなら可憐に見えるもの。
取り敢えず、ジェイドに縋り付いておけば問題ないはず。
ただ、侮られるのは避けたい。
男の影に隠れて何も出来ない女だと判断されれば、その後の社交に影響が出る。
まぁ、性悪女をやり込めてやりましょうか。
色々と性悪妹で場数は踏んでいるもの。
でも権力者はジェイドに全部丸投げして任せてやりましょうか!
だって、『出る杭は打たれる』が常識だから適度に媚を売って油断を誘うしか方法がないじゃない。
この世界ではそこの見極めが一番大事な気がする。
だから、王族やら高位貴族の相手は面倒なのよね。
彼等の逆鱗に触れると何があるかわからない。
明日か明後日には、辺境伯家のお義母様も王都に到着するらしい。本当に心強い。
側妃様のサロンには間に合う予定だ。
やはり物を言うのは、後ろ盾。そして経験ね。
私一人だと怯えてプルプル震える猫ちゃんだけれど、後ろに虎がいてくれれば、何度も猫パンチを食らわせてやるわ!
「ルフィーナお嬢様、そろそろお時間ですので旦那様の所に行きましょう」
エマに促される。
――旦那様。旦那様?
「ええ、間に合わなくなると困るわよね。行きましょう」
――旦那様?なにか恥ずかしい。旦那様?
私が部屋から出てきて廊下を歩いていると、階段の前で手を差し出してきたジェイド。
(そこは見惚れる場面でしょう!)
『綺麗だ』とか言う場面なの!
何を余裕ぶっているのよ。
もう。そんなに嬉しそうに笑顔を浮かべないでよ。
実は、あなたの笑顔だって見分けられるのよ?
それは本当に嬉しい時の顔じゃない。
ジェイドのセットされた前髪が彼を随分と大人に見せる。
侍従だった頃の面影なんて感じない、暗い色合いのフロックコートも似合っている。
その首元のクラヴァットに留めているブローチは蒼色で。それって私の瞳の色?
何処から見ても、素敵な公爵様だ。
「ねぇ、紳士のマナーを忘れているんじゃない?着飾った女性を前にしたら言うことがあるでしょう」
ちょっと照れくさくて、文句をつける。
着飾ったジェイドはあまり直視出来ないわ。
「だってさ、二人きりで伝えたいから。馬車の中で飽きるほどに褒めてあげるよ。――それより、本音で言っちゃうと可愛すぎる!くっそ可愛い!物凄い力で抱きしめちゃうかも」
―――甘ーーーーい!!
どうしたの!私がつらい!
「はっ!クロエの演技指導?つよつよ俺様、でも実は溺愛?俺様の要素消えてるわ!」
「ふ、はははは!――そう思っておいていいよ。相変わらず可愛すぎる、俺のお嬢様」
確か、クロエも劇場で合流するばすだった。
主演俳優と会えると喜んでいたわね。
「行きましょうか、旦那様?」
彼が少し咳き込んだのに気分を良くして、私達は劇場に向かった。
◇◇◇
『ベルンスト公爵が来ているぞ。隣にいるのがあの……』
『下手な事は言わないほうが賢明だ。辺境伯と公爵に随分と可愛がられているらしい……』
やはり、何処かから囁き声が聞こえるがそれは織り込み済みだ。
(クロエ!凄いじゃない!こんなに大人気な劇場で公演しているなんて)
驚き過ぎて言葉もない。
今、話題になっている人気劇作家と人気俳優だ。
席は殆ど埋め尽くされている。
公爵家のボックスシートに通されるとウェルカムドリンクを渡される。
フルーツを浮かべている美味しそうなそれを飲もうとしたら、ジェイドに止められた。
「飲んじゃ駄目だよ。きっと何か入っているから止めておいて。喉が渇いたらレイアスに用意させるから」
「さっきの給仕の身柄を確保しろ。劇場の支配人に話を聞いて来い。今、最優先はルフィーナの安全確保だ」
「了解してますよ、部下が既に捕らえに行ってます」
――気付かなかった。
いつの間にか、劇場の使用人の服を着ている!
レイアスは小さくウィンクをしてくる。
「――実はレイアスって性格悪いだけじゃなくて有能なの?」
「じゃなければ、俺が信用するわけないでしょう?」
成る程。
下がった好感度が……1くらいは上がった。
「王族席には側妃も来ているね」
「そこまでは予想して無かった……!」
ヘレン嬢とのトラブルは予想していたけれども。
側妃様もか――。
◇◇◇
しかし舞台のストーリーは、ジェイドも知らなかったらしく。両手で顔を隠して縮こまっている。
――えー、悶えてる!かわいいわ!
どうしてこうも格好良くて可愛いのか。
生まれつき、あざとい双子なのか。
まあ、私も恥ずかしくて逃げたしたい、同じような感情もあるけれど。
設定が妖精だからあまり現実味を感じなくて済んでいる。
でもジェイドはほぼ実話に近いものがあるわねぇ。
これは確かに恥ずかしいかもしれない。
――でもでも、これじゃあ駄目なのよ!
暗いけれど、目を凝らしてオペラグラスで覗ける位置が大事。
見た所、結構私達を気にして見てきている。
そして、ざっと会場を見回すと、さっきヘレン嬢を見かけた。
やはり来ていたらしい。
更には、王族用のボックス席に誰か男女が居る。
「誰が毎回、私の行く場所を教えているのかしら……」
「あぁ。それはこっちで把握しているから大丈夫だよ」
「じゃあやっぱり見せつけなければ!」
そう。今回最大の目的。
クロエの為の広告塔になり、社交界の話題作りをしつつジェイドとの中を実際に見せつけるのだ!
しかも舞台ではクライマックスで愛を告げている。
「ジェイド。社交界の話題になるように、最高にロマンチックな言葉で私を口説きながら強引で優しくキスしなさい」
「お嬢ーー!!クロエよりもキツイ演技指導!何で演技だと予告されてそんな事しなきゃならないの。もっと、もっとね。色々考えてたんだよ!俺!」
これじゃあちょっと可哀想かしら。
でも、元主人としてはどうお願いしたらいいの?
最近のジェイドがおかしいのだもの!
「ん。キスしなさい、ジェイド」
目を瞑り、彼に顔を寄せる。
溜息をつかれた気配。
そんなに駄目かぁ……。彼女と遭遇する前に一発食らわせておきたかったのにーー。
「我儘なお嬢様。それじゃあ誘惑なんて出来ないですよ?」
――確かに。私も上から目線の女王様は好みじゃないわね……。これは却下だわ。
「じゃあ――」
少し考える。どうしようかしら。
「会場中に、貴方の愛を見せつけてくれる?誰にも貴方に手が出せないように」
身を寄せて、上目遣いがいいとアドバイスをされた。
エマとメアリーに。
「俺の愛はちょっと激しいですよ?耐えられますかお嬢様?」
ちょっと!――彼、自分の唇を舐めたわ今!何その仕草!




