03 お嬢様、美少年と美少女を拾う
【短編】『白い結婚!?それなら、私の戸籍をあげちゃいます!』の連載版です。大幅加筆しております。
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです
「うわー!!死んじゃった!?目を開けないわ!早くお医者様に!ジャック!ジャック!この子を伯爵家に運ぶわよ!目の前で死んじゃったなんて一生引き摺るわ!」
猫を追って入った薄暗い細道。
汚い襤褸切れを被った男の子が私の目の前で倒れて動かなくなってしまった。
ぐったりとして、よく見れば腹から血が滲んでいる。
慌てて、御者のジャックを呼ぶ。
そんなパニック状態の私の耳に、か弱い声が聞こえた。
「お嬢様、お願いします。お兄ちゃんを助けてください。何でもします。唯一の家族なんです。お願いします……」
男の子の隣りにいた、声からすると幼い女の子が私の足元に縋り付く。
兄妹なんだろうか。雰囲気はよく似ている。
彼と同じ襤褸を被っていて顔はよくわからないが。
「大丈夫よ。お医者様じゃないから私は治せないけど、きっと大丈夫。すぐに運びましょう。あなたも一緒においでなさい!」
ジャック!遅い!漸く来たわ。
「もう!美少年が死にそうなのよ!早くうちに連れて帰ってお医者様に診てもらうわよ!」
「美少年って。ただの小汚い小僧に見えますけどね。了解です、後で旦那様に叱られても知りませんからね。この間、猫を拾った時に散々怒られたでしょう」
――ふん、とんだ節穴ね。私の感覚が訴えているのに。
この子達はとんでもなく美形だと。将来はとても美しく素敵な大人に成長するだろう。
子供を、死なせては駄目なのだ。
ジャックは少年を担ぎ、馬車に乗せる。
私は少年の妹と思われる子も無理やり乗せた。
「心配しないで。私はシーベルト伯爵令嬢のイリーナよ。これまで、犬も猫も沢山助けてきたのよ!今回だって大丈夫な筈だわ」
安心させるつもりが、目の前の子が顔を曇らせてしまった。あれれ、犬猫と同じ様に語っては駄目じゃない、私!
「あ!違うのよ、お兄さんが犬って思ってる訳じゃなくて……」
目の前の女の子の様子に口を噤む。
大事な家族が血だらけで倒れてしまったのだ。今は何を言っても慰めにもならないだろう。
「よく頑張ったわね。辛かったでしょう?お兄さんが傷ついているのを、ただ見ているだけしか出来ないのも辛いものよ」
彼女の肩が小刻みに震える。
まだ見知らぬ他人の前では泣けないわよね。
見て見ぬ振りをしてあげるしかない。
私には、彼女たちの悲しみも苦しみもわかってあげられない。
彼女が声を押し殺し泣いているのを、馬車の窓を見てやり過ごした。
「左の脇腹に酷い出血がありますが、臓器は傷ついていないようです。一ヶ月もすれば元気に動き回っているでしょう。少し傷口が化膿しているようなので、化膿止めの薬と、塗り薬を出しておきます」
そう言って、お医者様は部屋を退出して行った。
綺麗に身体を拭かれた男の子は、やっぱり驚く程の美少年だった。
亜麻色の髪。やはりそれは艷やかで、とてもスラム街の子どもには見えない。
「ほら、もうお兄さんは大丈夫みたいよ。ちょっとは落ち着いた?」
伯爵邸に着いてから、無理やりお風呂に入れられた子も、なんとやっぱり美少女だった。
――良かった。連れ込んだ事を知っているのが、ジャックとお医者様と乳母のスージーだけで。
(明らかに訳ありよね。どうすればいいかしら。今更、放り出すことはしたくない)
でも、お父様――伯爵に知られるとどうなるかわからない。
目の前でベッドに寝ている美少年。似た容貌の美少女。お父様に知られたら、何処かに連れて行かれてしまうかもしれない。
後で二人に注意して、目立たないようにしてもらおう。私に興味がないあの人ならばそこまで接触する機会もない筈だ。
うーーん。大丈夫かしら。
でも、こういう時はこの子達の面倒を見ることだけを考えましょう。
もしバレたら、私の我儘で私に付ける使用人を拾ってきたってことにしましょう。
「大丈夫よ。今日から私があなた達を守るわ!あなた達二人の名前は?」
「それが……。名前は……あの……」
少女は足元を見ながら、気まずそうにしている。
でも、答える様子は無い。
うん、言えない事情がある、と。
きっとこの子達は複雑な事情を抱え、頼る寄る辺もなく困っているのね。
じゃあ、ほんのちょっとの親切をしてあげましょうか。
「じゃあ、兄はジョン。あなたはジェーン。暫くは私の使用人ね。仮だからいつ辞めても構わないわ!」
あ、でも契約書が必要ね。ちゃんとしてあげないと、この子達が困ったことになるかもしれない。
「大丈夫!ちゃんと契約書も用意するし、不当な扱いはさせないって約束するわ!」
――これが、この時はまだ伯爵家で居場所のあった、幼い私の最大限の誠意だった。
「それじゃあ、あなたもお腹が空いているだろうし、美味しいものでも食べましょう!お兄さんがいつ起きてもいいように胃に優しい物も頼んでおきましょうか」
お腹が減ると余計に気持ちも沈むものだ。
安心させてあげられるように、笑顔で彼女の手を引いて食堂まで連れて行った。




