16 孤独で惨めな夜、彼に会いたい夜
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
色々あったその日の深夜。
「ねぇ、ジェイド……。なんで来ないのよ」
第二王子と出会ってから、胸が痛い。
これからの彼の未来が容易に想像できてしまうから。
政争に負けた側の末路は歴史が何度も教えてくれる。
きっと、第二王子も『悪辣で権力欲が強く王家に仇なす者』として断罪された王子、と歴史に名を残すのだろう。
幼かったジェイドもクロエも権力欲に溺れた叔父に殺されかけた。
彼等の境遇を他からは耳にしても、直接的に聞いたことはない。でも、目の前で両親を殺されたという。
これはきっと碌でもない、でもありきたりな勢力争いなんだろう。軽く流せば済むだけだ。
知らなければよかった。
第二王子に会わなければ、ただの敵だと、他人の事だと思えた。
正直に言えば、会いたくなかった。
ベルンスト公爵家が第一王子の派閥だと聞いても、それは他人の事だと思っていた。
――でも、違う。
第二王子、彼も人間で。そして優しさすら持ち合わせ、もしかしたら私と同じ価値観すら持った人で。
そんな人をこれから、ジェイドと私と辺境伯家で追い落とす。
血が流れるかもしれない。それも多くの血が流れる可能性もある。
彼に罪があるのは当たり前だ。彼が旗印で、彼が諸悪の根源になるからだ。彼が望もうが望むまいが関係無いのだ。
(そういうものなの。そう納得するのよ、私)
それでも、彼自身が王位なんて望んではいないようにみえた。寧ろ諦観が見えた。
自分の未来を既に知っているのだろう。
利用される方が悪いのよ――。
でも利用される事が悪い?本当に?
無能な王は、民に、家臣に断罪される。
有能でなければ。力を持たなければ。国力を育てなければ、それだけで罪になる。
私はこの場所で、これからも生きていかなければいけない。いつも何処でも他人を蹴落とそうとしているこの場所で。
人の破滅を見て、実際に自分たちが破滅させて、そして最後には己に全て返ってくるかもしれない、この場所で。
(凄いね……。こうやって生きていく人達は、何を考えて理想に向かうの?)
――それとも他人の事だと、切り捨てて生きていくのか。
自分の為に。理想の為に。国の為に。
昔、義母と義妹に居場所を奪われた時に出会った子猫を思い出した。
母が生きていた頃には、普通に連れ帰ってきていた小さな命。
でも、その時の私にはそんな力が一つもなくて。
目を逸らして、気づかない振りをして通り過ぎるしかなかった。
そんな場面は何度もあるじゃない。
私は、貧困に喘いでいる子供も、見て見ぬ振りしてきた偽善的な人間じゃない。
今更、これから私達が首を落とそうとする王子を気の毒に思っても――。
「う……!あ、あぁっ……!」
押し寄せる罪悪感に吐き気がする。
気持ち悪い。なんで――。
強くならなければ。だって私の周りの人は皆強いもの。ちゃんと前を向いて役目を果たしているわ。
ジェイドもクロエも、私より辛い経験もしている。
そして、第二王子との関係だって思い出だって、私よりもあるだろう。
ずっと、私は強いって大袈裟に二人に語っていたじゃない。今更弱さをみせて格好が悪すぎる。
こんなのは駄目よ。
私の方が彼らに相応しくない、弱い人間だわ。
強くならなければ。もっと、もっと。
でも、彼――ジュリアス王子。あの人が。
彼の考え方が。貴族に対するその考え方が。
――その甘い価値観。……なんて愚かなの。
――周りに流されて生きるしかない彼。……力がなくて利用されているだけよ。
――結局、親に逆らえない弱い人。……惨めだわ。
(まるで私みたい)
その弱さが、昔の私と重なってしまう。義母にも義妹にも何を奪われても文句も言わないただの小娘。
――私は、弱くてただ虚勢を張って生きているだけ。
こうやって誰かの死の責任を自分で負いたくない、身勝手な人間だ。
(こんな夜にこそ、来なさいよ。ジェイド)
貴方の強さが欲しい。私の弱さを忘れさせて欲しい。
クロエみたいに分かち合うのもいいけれど。
今だけは、貴方の強さが必要なの――。
◇◇◇
――コンコンコン。
初めて、深夜に彼の寝室をノックしてみる。
寝ているならそれでいい。
諦めて部屋に帰るだけだ。
しばらくして、彼が扉を開けてくれた。
「誰かもわからずに開けちゃ駄目じゃない?公爵様」
「ノックの音と足音でわかるんですよ、お嬢様」
彼の顔を見て、安心して泣きたくなる。
前日まで、嫉妬して怒っていた事すらも忘れて。
「ジェイド、部屋に入れてくれない?ちょっとね、今日は色々あって……」
彼は無言だったけれど、すんなりと部屋に通してくれた。
街での出来事も報告を受けているんだろう。
「眠れるようにミルクでも入れてこようか?それとも何か話したい?」
それでも、素知らぬ顔で私に話しかけてくれる。
私はどうしたいんだろう。
でも無性に彼に会いたかった。
「ジェイドは強いよね……。凄いなぁ。私は弱くて駄目になることばかりなの。だから、ジェイドに頼りたくなったのかしら……」
自分の素直な気持ちを言葉にする。
間違っていない。彼の芯の強さが羨ましくて。彼に頼ってしまいたくて。
悲しいことなんて忘れてしまいたくて。
「珍しいね、お嬢様。俺に頼ってくるなんて一回も無かったのに」
そう言って私を抱きしめて、頭を撫でてくれる。
でも、そうね。なんでだろう。
「今日はジェイドじゃなきゃ駄目みたい」
彼に色々な所にキスを落とされるけど、それすら心が癒やされる。
「私って、本当は弱くて情けなくて何も出来ない人間なのよ。そして、すぐに何かに同情する傲慢な人間なの」
――何かを成し遂げられる人なら良かった。
でも、実際は何も出来ない。ただ、自分の弱さに失望して泣くだけだ。
「お嬢、ルフィーナ。俺はどんな君でも愛しているけどね。弱っている君なんてとても愛らしいけど。寧ろ泣いてるルフィーナが可愛すぎるけどさ」
翡翠の瞳が私を覗みこむ。
――あぁ、大好きな彼の瞳だ。
「俺は君のものだよ。君が使える力だ。それでも自分が無力だと思う?」
――彼に甘やかされて。でも、それを素直に受け取っては私は駄目になってしまう。
「違うよ。ジェイドは道具じゃない。でも、ありがとう。何だかね、無性に悲しくて辛くて。貴方が一緒に居てくれたら心強いかもしれなくて」
第二王子の事はジェイドにもクロエにも相談出来ることじゃない。私が口出ししていい問題じゃないからだ。
心の中に蓋をして、もう見ないふりをするしかない。
でも、一緒にいて欲しい。
でも、いくら婚約者でもそれは駄目なことくらいわかってる。
「じゃあ、眠くなるまで話していようか?ずっと抱きしめてあげてもいいけど?」
軽い調子で聞いてくれる。――うん。大好き。やっぱり大好きなんだ。
ねぇ、私も思えば貴方が初恋なんだよ?
今日はジェイドの初恋の女性に会ったけど、彼女のどこが良かったの?
性格の悪さ?私も性格悪いから、そこなのかしら。
「うん。じゃあ、今晩はずっとくっついていようかな。変な嫉妬してごめんね。ジェイド成分が減りすぎたわ。だから弱っているみたい」
「俺の方が弱っていたよ。頼ってきてくれてありがとう……。何もしないから、クロエみたいに俺にも沢山頼ってよ」
彼の声が少し揺れている。珍しい。
でも、きっとこんな夜もある。お互いに慰め合える夜があってもいいじゃない。
「いつも頼っているんだよ……。貴方の強さが心地よくて甘えちゃうから、怖いだけ」
「いいから、溺れちゃってよ。ルフィーナに出来ない事を俺がして、俺に出来ない事を君がすればいいじゃないか」
――そうね。
貴方はそれだけで価値のある宝石。
私はそれに惹かれただけの凡人だから……。
偶には、宝石に憧れて溺れてもいいかもしれない。
この魅了される輝きに、素直に溺れたい。
「ジェイド。なんで貴方はこんなに強く輝いていられるの?」
「ははは。お嬢は自覚がないんだね。俺は強くないよ?ただ、大切なものは自分で守りたいんだ。もう、後悔だけはしたくない」
ジェイドも人間だ。痛みを感じないわけじゃない。
「そうだね。貴方が出来ない事を私が。絶対に出来るようになるからね……」
いつも、読んで下さる方、ブクマしてくださる方、評価してくださる方、リアクションしてくださる全ての方に支えられています。
ありがとうございます!本当に励みになっています。




