10 私の八つ当たり
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
「お義母様からお返事が来たわ。辺境伯家はお義母様とエーリク様とジェラルド様も参加するらしいの」
流石に赤ちゃん連れではイリーナも来れないわね。
社交シーズンにまた会えばいいわ。
心強い。王妃様としても、隣国と接している辺境伯とは懇意にしておきたいだろう。
側妃が隣国のエルムハイツ王国の元王女なのだ。
セイムズの地が落とされるか、辺境伯が第二王子を支持すれば隣国とのバランスが崩れ、場合によっては国が落ちる。
「お嬢様?」
部屋でクロエとジェイド、それにレイアスに辺境伯家からの手紙の報告をしていたところだ。
クロエからの呼びかけで、自分が考え込んでいた事に気づいた。いつの間にか彼女に背中を撫でられていたみたい。
「あぁ、ごめんね」
先日のこともあり、最近はクロエが甘やかしてくれる。
「ところで、ねぇジェイド。クロエとレイアスから沢山のお話が聞けたんだけれど?ヘレン嬢に結婚を申し込んで花冠を作ってあげたりしたんですって?」
「ゴフッ!!それは子供のころ……!」
「更には、公爵位を継いだ後もちょくちょくと押しかけられているらしいじゃない」
あ、お茶を吹き出したジェイドを見て、レイアスがお腹を抱えているわ。あの人、やっぱり性格が悪い。
「違います!会ったのは一回で、他は毎回居留守を使って追い返しているよ!」
「つい昨日も来ていたんですって?何故、私が知らないのかしら?でも、ここまでマナー違反を繰り返す女性を何故、誰も咎めないのかしら」
ジェイドが気まずそうに答えた。
私と視線を合わせない。
「彼女の父親が、無下には出来ない人物なんだよ。父上の元側近だから、幼い頃からよくここに出入りしていた。その事情を知っている使用人は彼女に甘いんだ」
大体は聞いていた通りだ。
その歯切れの悪い返答は彼にしては珍しい。
たが、今一番私が問い詰めたいのは彼の態度だ。
事情があるなら、堂々としてくれてたらよかったのに。
そんなに気まずそうにされると不安になるでしょう。
――こんな人だったかしら?
曖昧な態度で、女に期待だけを持たせるようなそんな人だったかしら。
諜報員として働いていた時期があるのは知っているけど、ハニートラップみたいな事をしているのかしら。
それならそれで、大まかにでも伝えてくれたらいいのに。
「クロエ、言っては悪いけれど、あなたの兄はアレね?よくもまぁ、エーリクお義兄様をクソ野郎だなんて言っていたわね」
その彼も、今では『いい父親』を頑張って立派にやっている。
ジェイドも見習えばよい。いや、父親は無理だけれど。要するに誠実になれ、という話よ。
事情があっても、少しくらいは安心させてくれたらいいのに。
「鏡を見て自分に向かって『クズ人誑し野郎』って言っていれば良かったのに」
「お嬢!だから、違うんだって!そういう意味じゃないし、今は色々と複雑な事が絡んでいて……!」
そうね。事情もわかるし、きっと何か考えもあるんだろう。
そのくらいは無条件で信頼出来る関係だ。
――でも、私がそれに傷ついたり怒ったりするのはどうしょうもないじゃない?
(これは八つ当たりだわ)
「お嬢様。もうジェイドはお気に召さないですか?……なら!こちらのレイアスなんてどうです?彼も私の幼馴染なんで、私としては大して違いが無いですよ!」
「「え!!」」
二人の表情が凄いことになってるわ。
なるほど、前にクロエが言っていた別のプランの一つがこれかぁ。
でも。彼はもっと嫌だわ。無理の無理の無理。
「うーん、しばらく辺境伯領で暮らしていたから、どちらかというとジェラルド様のほうが好みだわ。というか、レイアスは意地悪すぎて嫌い」
「なんか僕、ただの巻き添えで胸を抉られたんですけれど」
まぁ、レイアスは可哀想に思えなくもない。端から見たら。
――でもここの使用人から余り祝福されていない婚約者の私も可哀想じゃない?
この間のレイアスの疑問――何故ジェイドが私を好きなのか聞かれたわね。本当にわからない。
クロエはある意味、お互いが似ていたからよく慰めあっていて。
でもジェイドは?私は何かしてあげられたかしら。
(ジェイドは結局、命を救われた恩を感じているだけなのかもしれないのよね。それに、私はただ二人を家に連れて帰っただけなのだもの)
これ以上考えると、また落ち込んでしまうわ。
私にも彼との思い出が色々あるけれど、初恋みたいな甘いものじゃない。
花冠を貰うとか、プロポーズとか、頬にキスをするとか。そんな物語のような微笑ましい思い出がない。
そんな記憶はないのよ。初恋の人が特別だって言われたら言い返せないわ。
ジェイドの気持ちが、恋心じゃないと思ったからレイアスが私に聞いてきたんでしょう?
『あなたがジェイドに愛される理由がわからないので確かめたいだけですよ?』
(うわーーー!!苛つく!ジェイドの初恋が何よ!私の初恋だって、よくよく考えれば………!)
「クロエ、なんか寂しいからまた慰めて!あいつら追い出して今日も一緒に寝よう?相手が強敵で私が負けたと思ったら、一緒に辺境伯領に戻ろうよ」
「まぁ!お嬢様!いいですよ!私は絶対に裏切りません、あんな兄なんて捨ててもいいんですよ」
いつも通りギューッと抱きしめてくれるクロエ。
お胸がふかふか。
――何故かしら。
ずっとずっと好きだったけど、ジェイドが少しだけ嫌いになってしまった。
「全部、ちゃんと説明するから聞いてよお嬢!」
「今は癒やされてるの。クロエ以外出ていって。早く」
暫く色々言っていたが、それを耳に入れたくない私はクロエに抱きつき、首を振って拒否した。
彼はレイアスに促され、漸く出て行ってくれた。
「クロエ。私なりに、これでも結構頑張ったのよ。でも陰では、元平民って言われ続けるんだわ。これから王族に挨拶しなきゃいけないし。ジェイドの初恋の女の子と会わなきゃいけないし」
勿論、赤ちゃんを抱いた幸せそうなイリーナを見たら後悔なんてしない。
――そんな人間にはなりたくない。
無言で頭を撫でてくれる。
クロエは昔からそうだ。もしかしたらジェイドすら知らない私の弱さを知っている。
「また辛くなっちゃって、頑張れなかったらごめんね。ジェイドをまた心の何処かで諦めちゃうかも。でも、こんな私だけどクロエだけは側に居てね」
「当然ずっと一緒に居ましょうね。辺境伯領の、あの小さなお家の暮らしも楽しかったですよ。私のお料理も美味しいって言ってくれていましたよね?」
そういえば、土地も家もお金も貰っていた。
うん。それはそれで楽しそうだわ。
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