09 やっぱりクロエが好き
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
「お嬢様、クロエ様と公爵閣下が来ていますよ」
エマに髪を梳かされている時に、鳴ったノック。
対応してくれたメアリーが私に伺いに来る。
「体調不良だって伝えて。……あ、でもクロエだけは通して。月のものが来たとでも言ってジェイドには帰ってもらって」
私の言葉を二人に伝えてくれるメアリー。私の代わりにジェイドに断りを入れさせてしまっている。
彼女たちの雇用主はジェイドなんだから、結局は筒抜けなのかもしれないけれど。
今日は気分じゃないのだ。
きっと、酷い事を言ってしまう気がする。
暫くすると、クロエが部屋に入ってきてくれた。
「お嬢様、クロエですよ?どうしました?大分落ち込んじゃってますね」
そう言って彼女は、私を抱きしめてくれた。
――昔、小さい頃に夜が怖くてお互いに抱きしめあって寝た時のように。
私がお母様の事を考えて泣いていた時、慰めてくれたように。
いつもクロエは包み込んでくれる。
彼女の優しさが身に染みる。
「嫉妬って嫌なものなのね。ジェイドは……。裏切らないってわかってるけど、なんだか、あの曖昧な態度が嫌なの」
「嫉妬ですか?ふふ。お嬢様、慰めてあげたいんですが、一回いいですか?」
「うん?いいけど、何……」
「もう!可愛らしい!何むくれちゃった顔をしてるんですか!かわいい!」
ギューッと鏡台の前に座った私を胸に抱き込む。
お胸のせいで息が出来ないほどだ。
「…………。」
――そうじゃない。そうじゃないのよクロエ。
でも、何だか気が楽になった。
陰口を叩かれたからってメソメソしすぎだったわ。
「ねぇ、私の先生のケリー嬢とヘレン嬢は姉妹らしいじゃない?二人は仲がいいのかしら」
「あまり詳しくは知りませんが、ケリー嬢は前妻の娘で、ヘレン嬢は後妻の娘だって聞いてますよ?」
私と同じなのかしら。
――同じ様な立場なのかはわからないけれど。
寝て起きたら、昨日のような――公爵家の誰もが敵に見える被害妄想は治まった。
沈み込んだ気持ちのせいでジェイドには会わなかったけれど、それもクロエが癒してくれる。
だから、聞いてみたかったのだ。
あまり物覚えに自信が無い私に嫌味も言わずに黙って待ってくれている彼女、ケリー嬢の事を。
そうよね。全員に否定されている訳じゃない。
また勝手に悪い方に考えてしまった。
「それじゃあ、ヘレン嬢の事をもっと詳しく教えてくれる?」
「あの人の事ですか?正直、私とはあまり関わらずにジェイドについて回っていたばかりでしたので……。うーーん。大袈裟に泣いて気を引いたりする迷惑女ですね」
昨日のレイアスの発言とは違う。
彼はヘレン嬢が皆に愛されているかのように言っていた。
――そして、私がどちらを信じるかなんて明白だ。
「クロエーー!大好き!やっぱり私の宝物なのよ!レイアス、あいつなんなの?本当嫌味で大嫌い!近付きたくないわ!ジェイドも嫌……なんかもう嫌」
「私もずっと、お嬢様が大好きです。そうですか、あんな奴らは嫌いでも大丈夫ですよ」
嬉しそうに笑うクロエがかわいい。
やっぱり、嫉妬なんだろう。
ジェイドが、ヘレン嬢を好きだとは思っていない。
けれど。新しい環境で、必死に頑張っているのよ私。
――多分、認めて欲しかったのだ。
子供っぽくて情けないけれど、ここを私の居場所だと。
皆に私はここに居ていいのだと言って欲しかったのだ。
だから、使用人達の言葉が辛かったのよ。
あそこに居た誰もが私とヘレン嬢を比べて。
そして、ヘレン嬢だけを認めるから。
心が黒い感情で埋め尽くされちゃいそう。
だけど、ここに幼い時からいつでも一緒に居て、いつでも味方になってくれたクロエがいる。
――私も随分と贅沢になったものだ。
大事な人が私の事をわかってくれて、認めてくれているだけでいいじゃない。
「ねぇ、なんでクロエは私の事をこんなにも好きで居てくれるの?」
「まだ甘えん坊のお嬢様ですか?私が夜を怖がっていたらお嬢様が側で、小さな手で慰めてくれたじゃないですか。寒い日は、二人で温め合ったじゃないですか。まぁ……ジェイドが居たりもしましたが」
(そうね。私たちそうやってずっと一緒に過ごしてきたわよね)
「子供ながらに、ちゃんと貴方達の面倒をみるつもりだったのにね。もう、本当にいきなり義母が来て粗末な生活を押しつけられちゃったわね。ごめんね」
幼くて拙い字で雇用契約書まで用意したんだった。
――今から考えると本当に子供の浅知恵だったわね。
ちゃんとしたお給料なんて出せなかったのに。
私の頭を撫でながら、優しい顔をする彼女。
「私達を拾ってくださった時は、まだ本当に小さい子供でしたよね。十一歳の小さな女の子が、住む場所もご飯もくれたんです」
「そうだったわね。ジェイドなんて今からは想像も出来ないくらい小さかったわね。勿論クロエも」
「そして、何もかも失った私たちに希望をくれたのもお嬢様ですよ。いつも、キラキラ輝いて綺麗だって褒めてくれていたじゃないですか。何も持たない私たちをあんなにも大切にしてくれたのはお嬢様だけなんですよ?」
そう言って、クロエはとても綺麗に笑った。
「好きになるに決まっているじゃないですか、お嬢様」
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