01 これから公爵家に滞在します
第二部を始めてみました。
この章から恋愛感を強めにしていこうかと思います。よろしくお願いします。
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
あの衝撃のプロポーズから、数ヶ月。
ベルンスト公爵家にやって来た私、ルフィーナ・セイムズ。これから結婚までに公爵夫人としての教育を受ける予定だ。
「うわぁ、ジェイド……。あなたもの凄く、もの凄かったのね……」
その圧倒的に大きく豪奢な邸宅を前に私の語彙が失われてしまう。
私の侍従だったジェイドが実は公爵様だと知った時も吃驚したけれど。
「ねぇ、ジェイド。何だかお屋敷の前で出迎えている使用人が……。辺境伯家の二倍くらい居るんだけれど……」
「えー、まぁこれだけ広げれば仕方ないですよね。それより、尻込みしちゃいました?珍しいなぁ」
揶揄うジェイドにイラッとさせられる。
仕方ないじゃない!私は本来地味な人間なのよ!
ジェイドの癖にーー!
先に馬車から降り、私に手を差し出してくる彼。
大丈夫よね。
だって、これまでと一緒だわ。
ジェイドと――そしてクロエ。
「お嬢様ーー!お待ちしてました!」
うん。クロエが居るんだもの。
でも止めて。お嬢様はもう駄目よクロエ。
「こらこら、お嬢様は駄目よ……。お久しぶりです、クロエ様。今日から滞在させていただく事になりました、ルフィーナ・セイムズでございます」
「もう!お硬いんだから!じゃぁ、フィーナとかフィーとか、特別な愛称を呼ばせてくださいね!」
ジェイドの手を借りて馬車を降りると、小走りで駆け寄るクロエ。相変わらずの美少女ね。
「クロエ。いつもの会話はルフィーナ嬢を部屋に案内してからだ。それに俺だって色々と愛称を考えていたんだから、お前は駄目、後回し!」
「これだから、ジェイドは器が小さいんだわ」
ほらほら、家令が挨拶する機会を伺っているじゃない。
「ようこそお越しくださいました。ベルンスト公爵家の使用人一同、セイムズ辺境伯令嬢を歓迎致します。私は、家令のノックスでございます」
初老の渋さが滲み出る彼は、深々と頭を下げ、それに続き他の使用人も一斉に頭を下げる。
「ありがとう。ルフィーナ・セイムズよ。これから宜しくね、ノックス」
「ルフィーナ嬢、早速部屋に案内するよ。堅苦しいのは無しで、ほらほら行こう!」
ジェイドが私の手を自分の腕に絡ませて先を促す。
まるで、早く私を案内したいみたい。
――ふふふ。公爵様になっても相変わらずね。
「えぇ、じゃあ案内宜しくね。ジェイド様」
「あ、クロエはお嬢様に付けるメイドによく言い含めておいて。それから、空気を呼んで一時間は俺たちの時間を邪魔しないように」
「……!ジェイドばっかり狡いわ!」
最近のジェイドの舞い上がり方が凄い。
使用人も執事長もそれとなく引いている気がするわ……。
◇◇◇
「わぁー!!随分と上品に調えてくれたのね」
ジェイドに自ら案内された部屋は、落ち着いた色合いながらも、備えられた調度品は高級な物ばかりだった。
「ねぇ、お嬢?こっち向いて」
「ん……」
最近は隙あればキスをしてくる。
まだ軽いキスだからいいけれど……!
「もう。公爵様、そんなにキスが好きなのかしら?」
「そりゃあね、ずっとずっと使用人の立場で我慢してたんだから。抑えがきかないよ」
婚約してからの彼はちょっと危険な気がするわ。
なるべくクロエと一緒にいるべきかしら。
あまり、辺境伯家の方々に迷惑かけたくないのよね。
結婚式が早まる事態なんて、お義母様が泣いちゃうわよ。
◇◇◇
「うーーん。これはどう判断すればいいものか……」
――公爵家に滞在して三日目。
私の前には顔を洗うための洗面器が置いてあるが、冷水である。氷水のような冷たさだ。
(嫌がらせ、かしら?)
クロエが選んでくれたメイドを問い詰めたくはないが……。
あの後、クロエは私に三人のメイドを付けてくれた。
アン、セラ、ミーア。
毎朝の洗顔と、朝の髪結い、お茶の時間。
それが本当に微妙な、些細な嫌がらせをされるのだ。
――髪を結う時に強く引っ張られて痛かったり。お茶が苦くて飲めたものじゃなかったり。後は朝の支度の時に……など。
(まぁ、美男子な若き公爵様の婚約者なんて嫌われて当然か)
実家の伯爵家での嫌がらせの経験があるから、全然気にはならないが。
これから私は、公爵夫人になると決意したのだ。
見過ごすのが果たして良いことなのか……。
誰かに相談するべきか。
それともメイドを問い詰めるべきか。
「お嬢様。朝の支度がありますので、すぐにご洗顔をお願いします」
メイドのアンは私にそう促す。
――三回目だし、頃合いかしら。
私は毎朝洗顔用の水を用意してくれるアンに話しかけた。
「ねぇ、アン。公爵家では冷水で顔を洗うのね?どうやったら、凍えないですむのかしら。コツがあるのよね、きっと。是非目の前で見せてくれない?私が覚えるまで、何回でも教えて?」
顔を強張らせるアンに向かってニッコリと笑う。
「ほらほら。お手本を見せてくれなきゃわからないじゃない?今すぐに、早くしてくれないかしら?私は覚えが悪いから、何度も命令しちゃうかもしれないわ」
「お、お嬢様。どうやら私のミスのようで……!」
「いいえ、ここ三日ずっと冷水だったもの。そんなに毎回ミスをする人間なんて居ないでしょう?ほら早く、顔をつけなさい?」
冷たい水に手を浸し、顔を洗うアン。
「もう、いいでしょうか……」
「うーーん。いまいち、まだわからないわ。だってあなた、冷たくて震えているんだもの。これで客人をもてなすんでしょう?もっと上手くやってくれないと、ね?もう一度よ」
手が真っ赤になり、涙目で懇願するまでやらせてみた。ブルブルと震えている。
(このくらいにしておくか。舐められるのは馬鹿のする事だけれど、虐めになるのは良くないしね)
でも、この子も私をこんな目に合わせたくてやっていたんだろうしね。ジェイドにバレたらもっと怖い目に遭うことがわからないのかしら。
「やっぱり冷水は良くないと思わない?アンが冷水が好きなら、また何度でも洗わせてあげるけれど。私は温かいお湯がいいわ」
「わ、わかりました!申し訳ありません!」
そう言って部屋から出て行った。
泣かせてしまったらしい。嫌味すぎたかしら。
私も大概性格が悪いのよねぇ。うーーん。
――反撃に出られる可能性があるから……。こちらも備えておきましょうか。
いちいちこんな事でジェイドやクロエを煩わせたくないし、あの子の独断か上からの指示かもわからないわ。
えいっ!とその冷水を頭から被る。
(うわ、冷たい……!)
――上からの指示なら必ず抗議を入れてくるか、すぐにご機嫌伺いに来る筈よね。
アンの独断なら、このまま私が風邪を引いて馬鹿を見るだけだ。
でも、メイド三人が全員嫌がらせをしているところを見ると……。
――コンコンコン。
ノックの音がして、入室の許可を求める声がする。
(やっぱり来たわね)
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