19 それは突然のニュースで
ここから後日譚です。
その後。
私は自分で名前を変えた。
『ルフィーナ』って名前はどう?
イリーナと音が似ているし、やっぱり違う名前で呼ばれてもすぐに反応できなくて不便だったのよね。
今は、お金持ちな平民生活を満喫中だ。
一軒家があり、目の前には大きなお庭。これはガーデニング力が試されるわ。
「ルフィーナ!」
この声は。
「あ、イリーナ様。それにエダン卿まで!お久しぶりです。あ〜〜可愛い子ちゃんも連れてきてくれたんですね?」
三ヶ月前に無事に男の子を出産した(元)ユリア様。
子育ても大変そうだが、次期辺境伯夫人として色々と勉強中らしい。
母親になったからか彼女からは儚さが消え、芯の強さと逞しさすら伺える。
可愛らしい赤ちゃんを抱いた彼女は、幸せそうで。
きっと大丈夫だと信じられた。
ちゃんとそうやって、クズ野郎を上手く操縦してくれたら安泰だ。うん。
「お久しぶり。それよりもルフィーナあなた、今大変な事になっているわよ?新聞を見ていないの?」
「いや~、毎日はちょっと……。興味ないことはしないんで……」
――新聞?何か大ニュースがあったのだろうか。
別に社交界のゴシップとか、流行とかどうでもいいのよね。
「その様子では、まだ知らないようね。若き新公爵が誕生したって話題よ。なんでも両親を殺した叔父に証拠を突きつけて監獄に入れたって」
それは確かに凄いニュースだ。
社交界も新聞も大賑わいだろう。
それから彼女は『どうしようかしら』とエダン卿と目配せをし合っていた。
何事かしら?
「昨日ね、ある高位貴族の方が辺境伯に頼みに来たのよ。あなたを養女に迎えてもらいたいって」
「へ?……私?」
「それと、これよ。その方が渡してくれたの」
後ろに控えていたエダン卿が恭しく私に手渡すその手紙。
「こちらをどうぞ」
――何この豪華な封筒は?金の飾り模様?
それに……この模様は王室のものでは?この深みのある青は、王族が使う色では……。
「これは一ヶ月後に開かれる王室の舞踏会の招待状。あなた宛よ、ルフィーナ」
(ひぇっ!)
意味が!意味がわからないわ!
助けを求めたいが、この場にジョンとジェーンは居ない。二ヶ月程留守にすると出かけてしまったのだ。
ど、どうしたら?何で私?知らないうちに何かやらかしたのかしら!?
――いや。違う。
「とにかく辺境伯家へ行きましょう。今日はあなたを迎えに来たのよ」
「えぇ。もう何も考えないで取りあえず、一から説明を聞きに行くわ……」
今は縋れる相手に全力でしがみつきましょう。
そしてその相手は(元)ユリア様とエダン卿と小さな可愛い子ちゃん。ぷにぷに、はぁこれが癒やし。
物凄く混乱した頭で『こんなエプロンドレスで貴族の家に訪問して大丈夫かしら』なんて何処か現実逃避してしまう。
仕方がないじゃない。ここ半年以上、心から楽しんで生活していたのだもの。
港町も大通りも色々と出歩いて、完全に街娘と言えるくらい馴染んだのよ。
――それなのに。
(ど、どうすればいいの?王室の舞踏会?デビュタントさえしてないのに、そんな大舞台にいきなり!?)
絶対に失敗するわ。きっと何処かで足を引っ掛けて転んだりするんだわ……。
(ああ、サボりたい。思い切り仮病でも使って逃げたい)
「さぁ、行きましょう。奥様、お嬢様。お手をどうぞ」
エダン卿が差し出した手を取り、辺境伯家の馬車に乗せられる。
(こうなったら仕方がない。まずは、私を養女に?そこから説明してもらいましょう)
◇◇◇
「お久しぶりです、えー……と、……エーリク様?」
名前を思い出すのに時間が掛かってしまった。
バレたかしら?いやいや。どうでもいい。
「ルフィーナ嬢、と名前を変えたんだったね。久し振りだ。全然変わらない君の様子に安心したよ」
え、これ嫌味かしら?考え過ぎ?いつもの二人が居ないから、こっちも嫌味の三倍返しが出来ないわ。
「まぁ、エーリク様こそ、相変わらず辺境の地には勿体ないほどの貴公子で。王都では貴婦人達に囲まれてしまうくらい素敵ですわ」
わかってくれただろうか、この嫌味を!
顔色一つ変えないから、通じていないのかもしれないわ。友人の旦那様だから程々にしないといけないわね。
「ルフィーナ……。顔に出てないだけで意外と傷ついているから止めてあげて?」
イリーナ様が私に小声で話しかける。
成る程、ちゃんと彼にも嫌味の拳が効いていたようだ。満足だ。
「はははは!君が例のご令嬢だな!エーリクをやり込め、啖呵を切ったと聞いている」
部屋に男性の大声が響いた。
「次男のジェラルドだ。よろしく頼む。この通り無作法者だから、気楽にお願いするよ」
立派な体躯をした、真紅の髪で黒い瞳の男性が挨拶してくれる。
(……合格……!)
恥ずかしながら、内心のルフィーナが親指を立てる。
だって、あの逞しい胸。何あれ?
腕も凄いわ。腹筋も……?腹筋も凄いのかしら?
この辺境に来てから、男性の力強さの魅力に気づいてしまった。
――駄目だ、そうじゃない。またジョンに浮気者呼ばわりされる。
「よろしくお願いします、ジェラルド様。啖呵だなんて立派なものじゃないんですよ。怒りに任せて、少し現実をお教えしてあげただけですよ?」
「それを言える女性がどれだけ貴重なのかあなたはわかっていないんだ。あの後、兄貴を思い切りぶん殴ってやったよ!本当に済まなかった」
「あら、殴ってくれたのでしたらこちらが感謝するだけですわ。謝らなくて大丈夫ですって。今は自由に幸せに生きてます」
それを聞いて大声で笑う彼。その隣でイリーナ様にポンポンと肩を叩かれているエーリク様。
(兄弟仲がいいのね。確か、三男もいたかしら)
イリーナ様も前回と違い笑顔で溢れ、可愛い赤ちゃんの声も聞こえる。
前回ここに滞在した時よりもとても素敵だわ。




