14 私の戸籍をあげますわ
主人公の見せ場ですが、特に加筆しておりません。
部屋に招き入れられると、エーリク様とエダン卿、そして儚げな美人が座って待っていた。
侍従が私だけを部屋に通そうとするが、聞いてやらない。
「この二人は絶対に私から離れません。それをご了承してくださらなければ、お話なんてここまでです」
エーリク様は、片手を上げて従者を下がらせた。
「彼女はユリア。私の幼馴染みで、聞いているだろうが私の恋人だ」
ほう。私と同じ金髪に碧眼。背格好も似ている。
「そうですか。それで、何故私を選んだのです?婚約者の私にわざわざ紹介するお相手がいらっしゃるのに」
悲劇的な声を出して言ってみる。
勿論演技だけれど、言葉の抑揚って大事よね。
「伯爵家とは合意しているんだ。君によく似た彼女……ユリアの子供を後継者にする、と」
あの父のことだ。そんな事だろうと思ったわ。
彼はユリア様のお腹を見やる。何処となくお腹を守る様に手を置く仕草が見受けられる。
口元を押さえて泣き出す彼女。
「すみません…。子供だけは、この子だけでも産んであげたいんです…。お嬢様には顔向けも出来ません。でも、私ではこの子を幸せに育ててあげられないんです」
子どもの為に涙を流す彼女。これは、本当に悲しんで悔やんで謝っているわ……。
――成る程。だから白い結婚なのね。既に彼女が妊娠しているのだから。
貴族という肩書を持った女の、その高貴な腹が必要だと。身代わりが必要なのだと。
この私の空っぽの腹に、既に赤子を宿しているように見せろと。
――跡取りのために。
あ、駄目だ。怒りが湧いて抑えられない。
なんで男ってやつは、いつもこうなの。
いつもいつも、自分勝手に女を利用して!
自分はちゃんと役割を果たしていると勝手に勘違いする。自分が彼女を不幸にしている事にも気づかない!
「クソ野郎。後先も彼女の気持ちも考えない、このクソ野郎!彼女の気持ちを考えたの!?妊娠中で情緒も不安定のなか、女を連れてきて結婚すると伝えるなんて!あんた父親になるんでしょう!?」
「お嬢!ちょっと落ち着いて!」
ジョンが止めるが、こっちは当事者なのよ。もう!一発くらい殴らせて!いや二発は殴ってやる!
「あんたなんかどうでもいいけれど!嫌になったら私は何時でもあんたから逃げ出すわ!でも、彼女は違うんでしょう!?」
思ったよりも、ユリア様が悲惨だからか。
生まれてくる子を私生児にしたくないのはわかるけれど!
――それでは彼女は母親を名乗れないじゃないの。
「それに!私を馬鹿にしてるにも程があるわ!社交界に出てこない女ならいいように利用していいと思った?没落した貴族の、そこの彼女を守れないような甲斐性なしが私の人生を左右するなんて許さないわ!何もかもが気に食わない!」
それに利用される私が憐れだからか。
(あー……。上手く交渉して優位に立とうと思っていたけど、こいつは殴らなきゃ気がすまない)
ユリア様の前で刺激的な事をしてはいけない。
わかっているけど。
でも、何発か殴らなきゃやってられないじゃない!!
両手で抱きかかえられて、優しい声で宥められる。
「ねぇ、お嬢?お嬢……。大丈夫ですよ。落ち着いて。あなたの大切な物だけを思い浮かべるんです。それさえ無事なら大丈夫じゃないですか。あなたは何も失ってません。傷つけられてもいませんよ」
私を抱きかかえ、耳元で何度もジョンが宥める。
ジェーンがジョンの上から更に被さる。
大切な物だけを守って。そうやって生きてきたのに思わず殴ろうと掴みかかってしまう所だったわ。クソ野郎呼びは止めないけどね!
「うん。ごめんね。ちょっと興奮しちゃったみたいだわ。あまりにもクソ野郎だから、つい」
相手は私よりも身分が高いのに。軽はずみだったわ。
私が落ち着いたのを確認したのか。
――コホン。
咳払いをしてエーリク様が説明した。
「あぁ、幾ら罵ってくれても構わない。私にはお似合いな言葉ばかりだ」
「――つまり」
まぁ予想通りだが。……身重な愛人まで居るとはね。
「身分のせいで彼女を妻には出来ない。更に他の女を抱きたくない。でも、産まれてくる子供は後継者にしたい。だからお飾りの妻が欲しいってわけですね?」
纏めるとこう言う事なわけ、と。
「うわ……。お嬢、やっぱりクソ野郎です。俺がお嬢を幸せにします」
「そうね、ジョン。こんなクソ野郎お嬢様が勿体ないんですけれど。三人で夜逃げプランでいきましょうか」
二人の意見にほぼ同意見なんだけれど、ユリア様が可哀想だし……。
エーリク様、そして後に居るエダン卿も気まずそうに目を逸らす。
「先ずは、一言だけ言ってもよろしいですか?」
二人が頷いたかなんて確認もしない。ただ言いたいだけだ。
「私は、貴方みたいなクソ野郎にも、辺境伯夫人の立場にも興味がありません。ずっと昔に、守りたいものを守るために生きると決めたのだから」
スラム街で偶然出会った幼い双子。
あの時の荒んだ瞳が今やこんなにも輝いている。
――私には、これだけが宝物なのだ。
義妹に何を取られても全然平気だった。宝石やドレスなんかよりよっぽど価値がある彼らの翠の瞳があれば。
これを守ると誓った。
他の物なんて要らないのよね。
「だから、私の戸籍をユリア様にあげる事にするわ!」




