10 騎士様とお話する
短編と同じです。読み飛ばしても大丈夫です。
王都を離れると、どうしても主要な街や村が無いこともある。
そんな時は野宿になった。
騎士たちは野営にも慣れているらしく、食料や火の心配も無い。
暖かい時期だとはいえ、私だけが馬車で寝るのは心苦しいが。
手持ち無沙汰な私は、いつも代表して話しかけてくる騎士に声をかけた。
「貴方は、隊長とか団長とかで彼らの上の立場の人?」
「はい、お嬢様。この旅の責任を任されております」
「若いのに凄いわねぇ。部下の方々が頑張ってくれているみたいだから、少し私とお話してくれない?」
「私でお役に立てるかどうか……。特に話題に明るくありません」
濃い藍色の髪色の頭を下げる。
辺境の騎士って逞しいのね。王都の近衛騎士とは毛色が違うわ。
(これは、無駄話はしたくないのかしら?)
でも、それには気付かない振りを続ける。
「セイムズってどんな場所なの?あまり調べる時間も無かったし、本よりもそこに暮らしている人達のお話のほうが為になるわよね?あ、お喋りするなら貴方の名前も教えてくれない?」
「エダンと申します。……セイムズについてどんな事がお知りになりたいですか?」
「エダン卿ね。そうねぇ。やっぱり主要産業や主要な観光地、それに名産品かしら。美味しい特産物も気になるわ」
やっぱり食べ物が美味しい所が一番幸せに暮らせると思うのよね。後は市場など、楽しくショッピング出来る場所があると嬉しい。
「街に出れば、それなりに大きな店が沢山あります。辺境と呼ばれていますが、港もあり他国との交易が盛んな為、王都よりも珍しいものも多かったりしますよ」
おぉ、港!やっぱり外国の物には惹かれちゃうわ。
「えー、良い所じゃない!」
まだ見ぬ街に思いを馳せているとエダン卿が口元を綻ばせた。
「さっきのご家族との遣り取りもそうですが、お嬢様はだいぶ変わった方のようですね」
「そうね。基本的に楽観的で、楽しい事が好きなの。あまり物に対しての執着とか理解出来ないのよね。今が楽しくて、大切な人が側にいれば人間って案外幸せに生きられるじゃない?」
幼い頃に実母が亡くなり、すぐに義母と義妹が伯爵家にやってきた。
二人は私から色々な物を奪って貶めようとしたみたいだが……。
私の本当に大切な物はジョンとジェーンだけ。
お母様は好きだったけれど、お父様なんて最初から私のものでもなかった。
粗末な服でも気にならない。だって二人も同じ様な服装だった。粗末なご飯でも大丈夫だった。
だって三人で同じ物を食べて笑って過ごせたんだから。
「ねぇ、辺境伯のご子息には恋人がいるんでしょう?」
だから、大事なものさえ奪われなければ私が牙を剥く事は無い。自分の大切な物を守る為に、威嚇する事があってもね。
「――はい。昔からの恋仲です」
ならば。このまま私に幸せになる方法がないならば行動しなければ。私に付いてきてくれたジョンとジェーンにも申し訳ない。
――やはり、交渉あるのみ。最大限こちらの有利な物を掴むのだ。
「ねぇ、エダン卿。生き物はどんなに小さくて弱くても牙を剥く権利があるわよね?あなた達だって、どんなに強くても思いがけない反撃に傷を負うこともあるでしょう?」
満月に近い月夜の、明るすぎるといえる光の下で私は自身に誓った。
「………」
エダン卿が何か言っていた。彼らしくもない、小さな、微かな声で。
やっぱり宣戦布告の様な言葉は不快だっかもしれない。その後、彼は黙り込んでしまった。
私が彼の主に対して不遜だからだろうか。
令嬢らしくないからだろうか。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
相手の出方でこちらも決めよう。
そしてエダン卿に頼んで、一人にしてもらった。
しばらくの間、月に照らされた場所で涼んでいると――。
――ジョンの声がした。
「お嬢は本当に浮気者だ。すぐにコロコロと興味が移るし、夜に男と二人きりで話し込むんですから」
気配も感じなかった。
エダン卿が天幕に戻ってから、夜風とともにジョンの声が聞こえた。
何処かで話を聞いていたのかしら。
「何よ。ジョンの癖に生意気よ。それに浮気って何よそれ。私はシンシアみたいに何人もお付き合いしている人なんて居ないわよ」
落ち着いた亜麻色の髪に翠眼。
私は彼ら双子が何かしらの事情を抱えているのを知りながら、スラム街から連れてきたのだ。
二人はあまりにも顔が整いすぎている。
本当の名前だって教えてくれなかった彼らに適当につけたそれ。
(ジョンにジェーン。もう少しちゃんと付けてあげればよかったわね)
「毛を逆立てている猫みたいですよ?俺もジェーンも居るし、いざとなったら頼ってくださいって」
「だから、私は強いんだって言っているでしょう?まぁ、物理的には無理だけど。これからもずっとジョンもジェーンも守りながら生きるんだから。少しは主を信用しなさいよ?」
何よ。本当に守らなければいけないのは、あなた達じゃないの。主である私が貴方を守っている筈なのよ。
――本当は逆に助けられてばかりだけれど。
でも、私が守りたいの。だって二人とも私の大事なものなんだもの。
なのに。本当に生意気ね、もう。
私の大切なものは昔からずっと一緒で変わらないんだから……。
「お嬢。俺だってそこそこ強いんですよ?」
彼はクスリと微笑みながら言った。




