09 私の楽しい馬車の旅
乗り込んだ馬車の中。
「見事な『ざまぁ』でしたね、お嬢様!色々な小説でお教えした甲斐があります!」
一緒に連れてきたジェーンに褒められた。
ちゃんと『ざまぁ』出来たかしら。
あんな事では物足りない……が、これからの実家がどういう状況になるのかは想像すると楽しい。
一家離散?まではいかなくとも、まぁギスギス過ごせばいいのよ。
「全部、ジョンが調べてくれたことだけれどね。最後に一発食らわせてやったのはいいタイミングだったかしら。本当ならもうちょっと盛大にいきたかったけど、時間が足りないし。集めた情報が勿体なかったわ」
また使う機会もあるか。うん。
義母と義妹が地面に手と膝をつき、この世の終わりみたいな顔をした所を見てみたかったかなぁ。残念。
「しかし、お嬢様。辺境伯子息はちゃんとした馬車も護衛も送ってくれましたね。でも、あれですかね、着いたら屋根裏部屋生活とか始まるんですかね?」
ジョンが私を揶揄いながら人差し指を真上に立てる。
ションとジェーンのお揃いの綺麗な亜麻色の髪が揺れる。
彼らの珍しい翠眼もお気に入りなのだ。キラキラと輝き美しい。
「馬鹿を言わないでちょうだい。折角交渉出来る立場に就いたのよ?白い結婚にはお互いに納得する契約書!これが定番でしょう!最大限に毟り取ってやるわ」
「「わー、さすがお嬢様」」
「勿論、あなた達の待遇改善も入れてあげるわ」
「「さすがお嬢様!」」
やっぱり双子ね。声がぴったりだわ。
「でも、どうしても耐えられそうになかったら一緒に逃げ出してくれる?私も貴方達も成人になったし、便利なジョンも居るし。何とかなりそうだと思うのよ」
「勿論ですよ。多才な俺が居れば大丈夫!その時は一緒に逃げましょう。というかお嬢〜今すぐに逃げましょうよ〜」
「私だって、お嬢様の身の回りや家事全般出来ます!最近ジョンばっかり褒めてるぅ」
泣きつくジェーンの頭を撫でてあげる。
可愛い奴め〜!
そして羨ましそうに見てるジョン。
お前も可愛い奴だ〜!
「まぁまぁ。私も、これでも一応貴族だから家の為の義務もあるのよね」
これからの日々に思いを馳せつつ、逃げ出す可能性もマウントを取る算段も立てながら馬車の外を見る。
――自由って素晴らしい。母の居ない実家の、なんて無価値だった事か。
ジョンとジェーンが居たから私はやってこれた。
(さて、交渉はどうなるかしら?)
相手が最初から交渉テーブルに付いてくれているんだもの。いえ、無理にでもその場に座らせるわ。
(きっとなんとでもなるわね)
初めて見る景色を眺めながら、そう思う。
不安と期待が入り交じる中に存在する落ち着かない好奇心。
これから新しく行く場所はどんな所だろう。
何があるのかしら?
私が見たこともないような、そんな素敵な物もあるのかしら。
どうしても想像すると楽しみになってしまう。
私は結局、弱者だから油断しては駄目だ。
守る物のために戦おう、そう気を引き締めた。




