第39話「ギリシャ、オリーブとレモンと白い家のラーメン」
坂田雄一、36歳。今日のカップ麺は、地中海の光をすくうスプーンのような一杯。
酸味と塩気、青い空と白い壁――食べたあとも、風が吹き抜ける。
---
昼下がり。
強い日差しがカーテンの隙間から差し込む東京のアパート。
坂田は扇風機の前で、カップ麺のパッケージをじっと見つめていた。
「ギリシャ製・オリーブ&レモン風味チキンラーメン」
白地に青のライン、どこかサントリーニ島の建物のようなデザイン。
小さな窓から見える地中海を思わせる爽やかさに、思わずため息が漏れる。
「これはもう、“夏の味”に違いない」
---
蓋を開けると、レモンピールの欠片と、グリーンオリーブ風の乾燥具材が目に入った。
粉末スープは淡いクリーム色。
だが、湯を注いで3分、最後に付属のレモンオイルを垂らした瞬間――
空気が変わる。
レモンの酸味、チキンのやわらかな香り、そしてオリーブの渋み。
それは“港町の午後”を感じさせる香りだった。
---
ひと口すすって、坂田は思わず笑った。
「これは……うまい、というより気持ちいい」
レモンの酸味が舌をリフレッシュし、チキンの旨味が後から静かに寄り添う。
オリーブの風味が全体を引き締め、油のくどさはどこにもない。
軽やかでいて、記憶に残るスープ。
それはまるで、日差しをまとった白い町を歩くような味だった。
---
頭の中に浮かぶのは、青と白の街。
石畳の坂道。
猫が眠る日陰。
海の見える小さなテラスで、このラーメンを食べたらどんな気分になるだろう?
「日本の夏とちがって、ギリシャの夏には余裕があるんだよな」
そうつぶやきながら、坂田はスープを飲み干した。
---
【日付】9月2日(東京・晴れ、湿度高し)
【麺名】ギリシャ製・オリーブ&レモン風味チキンラーメン
【評価】★★★★☆
【感想】軽やかな酸味、柔らかな塩味。食後の空気まで爽やか。
「夏の午後、静かな旅がしたくなる」そんな一杯だった。
---
食後、坂田はカップを洗って、ベランダに出た。
遠くからセミの声が聞こえる。
でも、彼の耳には波の音が聞こえていた。
---
――旅をするように食べる、というのは、
きっと“風景を食べる”ということなのかもしれない。
世界三杯紀行、第39話、完。




