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『世界三杯紀行 〜カップ麺でめぐる旅〜』  作者: 南蛇井
season1

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31/119

第31話「スウェーデン、白夜のシナモンと魚介スープ」

坂田雄一、36歳。今日のカップ麺は、静寂と光が支配する北欧の街から。

夜なのに明るい、静かな国の、優しい一杯。


午後11時。

だが、部屋の照明は最小限。

坂田は照明を落とし、窓際の椅子に腰を下ろす。


今日のカップは、珍品中の珍品。

「スウェーデン製・ディル香るサーモンシーフード・インスタントヌードル」


輸入食品店の棚で、シナモンロールの横にぽつんと並んでいた。

パッケージには白い家と、湖、そしてどこまでも青い空。

その中に、淡いクリーム色のスープ麺が描かれている。


「これはたぶん、“やさしい系”のやつだな……」


お湯を注いで4分。

立ちのぼる香りは、魚介とディル。

バターのような甘い香りが背景にあり、

どこか温かい家庭のキッチンを思わせる。


ひと口すすると、スープは塩気控えめで、

サーモンのうま味とミルキーな口当たり、

そしてディルの清涼感が絶妙に溶け合っていた。


「……これは、“静かな夜”の味だ」


坂田はスウェーデン北部、ルレオで過ごした初夏の夜を思い出していた。

白夜の季節。夜の10時になっても、空は明るかった。

人通りは少なく、街は静まりかえっていたが、空だけは、沈まなかった。


B&Bのオーナーが作ってくれたクリームサーモンスープと黒パン。

その味に、今日のカップはとてもよく似ていた。


日本の夜の中で食べているのに、

耳にはなぜか、あの夜のしんとした静けさが蘇ってくる。


【日付】8月20日(東京・真夏の深夜)


【麺名】スウェーデン製・ディル香るサーモンシーフードヌードル


【評価】★★★★☆


【感想】塩味は淡いが、じわじわ沁みる。北欧らしい清潔さと静けさを感じる。食後の心が落ち着く、静謐な一杯。


食べ終えた坂田は、スープの余韻に浸りながら、

冷めかけたコーヒーを一口飲んだ。


「……眠くならないな。白夜のせいか」


もちろん、ここは東京。

空はすっかり暗い。だが、気持ちはどこか北欧の夜にいた。


――音のない明るい夜。旅は、カップの中に続いている。

世界三杯紀行、第31話、完。

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