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第2話「サバンナで羊が笑う」

昼の12時。

東京、アパートの2階。冷房をつけるほどでもないが、窓を開ければ生ぬるい風が顔をなでる。


坂田雄一、36歳。無職。世界のカップ麺を一日三杯食べる男。

彼の昼食は、ただの食事ではない――次なる国への“出発”である。


「さて……今日の第二便は、南アフリカ」


彼が選んだのは、ラム風味スパイシーヌードル。

パッケージには茶色の羊と唐辛子のイラスト。何を訴えたいのか分からないが、暑い国の勢いが伝わってくる。

裏面の英語表記には、「This instant noodle brings you to the heart of the veld.」とある。


「“ヴェルド”……南部アフリカの草原地帯か。いいねぇ、ちょっと行ってみるか」


湯を注いで待つ3分。

雄一の脳内では、すでに旅が始まっていた。


金色の草原。遠くに見えるバオバブの木。

見たことがないのに、なぜか懐かしい風景。

陽炎の向こうで、羊が一頭こちらを見て笑っている――ような気がした。


「……いや、羊って笑うのか?」


現実に引き戻される。だが、そういう瞬間も旅の一部だ。


3分経過。

フタをめくると、立ち上るスパイスの香り。ラム肉風の粉末と、クミン系の香りが広がってくる。


「おお……これは“やる気”の匂いだな」


一口すすれば、ラムの脂に似せたコク。そこへピリッと舌を刺激するスパイス。

唐突だが、暑い地域の人が辛いものを好む理由が少しだけ分かる気がする。


「熱くて辛くて、汗が出る。だけど……妙に体が軽い。草原で羊を追いながら、このスープをすすってるような気分だ」


実際は、自室で扇風機の前。

部屋着はヨレたTシャツに短パン。それでも彼には、アフリカの空が見えていた。


食べ終えるころには、口の中にほのかな甘みが残っていた。

たぶん、調味料の中に入っていたドライタマネギの仕業だ。


「甘さって、異国でも優しさなんだな……」


そう呟いて、坂田は今日もノートを開く。


【日付】7月30日


【麺名】南アフリカ製・ラム風味スパイシーヌードル


【評価】★★★★☆


【感想】熱と香りで草原に飛べる味。ラムの風味は“本物”というより“ロマン”。だが、それがいい。


湯気の向こうで、あの羊がもう一度こちらを見て笑った――ような気がした。

坂田は笑い返す。そして立ち上がり、食器を片付けながら言う。


「さて……次は、北欧でも行くか」

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