表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『世界三杯紀行 〜カップ麺でめぐる旅〜』  作者: 南蛇井
season1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/111

第2話「サバンナで羊が笑う」

昼の12時。

東京、アパートの2階。冷房をつけるほどでもないが、窓を開ければ生ぬるい風が顔をなでる。


坂田雄一、36歳。無職。世界のカップ麺を一日三杯食べる男。

彼の昼食は、ただの食事ではない――次なる国への“出発”である。


「さて……今日の第二便は、南アフリカ」


彼が選んだのは、ラム風味スパイシーヌードル。

パッケージには茶色の羊と唐辛子のイラスト。何を訴えたいのか分からないが、暑い国の勢いが伝わってくる。

裏面の英語表記には、「This instant noodle brings you to the heart of the veld.」とある。


「“ヴェルド”……南部アフリカの草原地帯か。いいねぇ、ちょっと行ってみるか」


湯を注いで待つ3分。

雄一の脳内では、すでに旅が始まっていた。


金色の草原。遠くに見えるバオバブの木。

見たことがないのに、なぜか懐かしい風景。

陽炎の向こうで、羊が一頭こちらを見て笑っている――ような気がした。


「……いや、羊って笑うのか?」


現実に引き戻される。だが、そういう瞬間も旅の一部だ。


3分経過。

フタをめくると、立ち上るスパイスの香り。ラム肉風の粉末と、クミン系の香りが広がってくる。


「おお……これは“やる気”の匂いだな」


一口すすれば、ラムの脂に似せたコク。そこへピリッと舌を刺激するスパイス。

唐突だが、暑い地域の人が辛いものを好む理由が少しだけ分かる気がする。


「熱くて辛くて、汗が出る。だけど……妙に体が軽い。草原で羊を追いながら、このスープをすすってるような気分だ」


実際は、自室で扇風機の前。

部屋着はヨレたTシャツに短パン。それでも彼には、アフリカの空が見えていた。


食べ終えるころには、口の中にほのかな甘みが残っていた。

たぶん、調味料の中に入っていたドライタマネギの仕業だ。


「甘さって、異国でも優しさなんだな……」


そう呟いて、坂田は今日もノートを開く。


【日付】7月30日


【麺名】南アフリカ製・ラム風味スパイシーヌードル


【評価】★★★★☆


【感想】熱と香りで草原に飛べる味。ラムの風味は“本物”というより“ロマン”。だが、それがいい。


湯気の向こうで、あの羊がもう一度こちらを見て笑った――ような気がした。

坂田は笑い返す。そして立ち上がり、食器を片付けながら言う。


「さて……次は、北欧でも行くか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ