表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第7話「記録にない存在」

 軋む扉をくぐり抜けた瞬間、空気が変わった。


 まるで時の流れそのものが止まったように、風も、音も、動きも消え失せた空間。


 


 ここが、旧世界の図書塔ライブラ――

 失われた世界の記録を封じた、因果の中枢。


 


 塔の内部は、外から見た以上に広く、そして異様だった。


 空間の奥行きが歪み、天井は高すぎて見えない。

 無数の書架が迷路のように連なり、その一つひとつに“時間の断片”が封じられている。


 


 「ここ……どこまで続いてるんだ?」


 「全部で七層。最下層に、因果の原典があるはず」


 「最下層か……案の定、簡単には行かせてくれなさそうだな」


 


 二人は足を進める。


 図書塔の空間は、まるで意志を持っているかのように静かに鼓動し、

 その奥から――再び、あの足音が聞こえてきた。


 


 「……リノア。今度はお前にも聞こえるだろ?」


 


 「……ええ。確かに“誰か”が、いる」


 


 そのときだった。


 視界の端に、一瞬だけ“人影”がよぎった。


 アキトが即座に振り返るが、そこには誰もいない。

 だが確かに感じた。“気配”が、ある。


 


 「おかしい……ここは、観測記録に“誰もいない空間”として記されてたのに……」


 「また“ノイズ”か?」


 「ええ……でも、これは――もっと異質」


 


 バチン、と封印具が微かに脈動した。


 それは、敵意への反応だった。


 


 「来る」


 


 直後、書架の影から――それは現れた。


 


 人の姿に似ている。だが明らかに、人ではなかった。


 皮膚のように見えるものは、黒い液体が固まったような質感。

 目はなかった。口もなかった。あるのは、空洞のような“穴”が一つ、顔の中央にぽっかりと開いていた。


 


 「……なんだ、あれは……」


 


 その存在を見た瞬間、アキトの頭に強烈な“拒絶反応”が走った。


 記憶がざらつく。脳が情報を弾こうとする。

 これは、“記録”されていない。**世界の構造に存在しない、異常存在イレギュラー**だ。


 


 リノアが震える声で呟く。


 「……まさか……観測者でも認識できないものが、本当に……」


 


 その“穴”が、こちらに向いて開く。


 次の瞬間、空間が歪んだ。


 


 「くっ……!!」


 


 アキトは即座にリノアを抱えて飛び退く。

 着地と同時に、さっきまでいた場所が黒い裂け目に飲み込まれ、書架がねじれながら崩れた。


 


 「接触するな、飲まれるぞ!」


 


 「わかってる!」


 


 叫ぶ間もなく、異形は滑るような動きで迫ってくる。

 その動きは、まるでこの空間の法則すら無視するかのようだった。


 


 「アキト、あれは物理攻撃じゃ止まらない! “記憶の封印”をもう一度!」


 「そんなにポンポン使えるもんじゃねぇだろ!」


 


 封印具が脈動を始める。


 だがアキトの記憶は、もう過去の“鍵”を差し出した後だった。


 


 ――このままじゃ、次はない。


 


 そう思った瞬間、リノアが叫んだ。


 


 「私を使って!!」


 


 「は!? 何言って――」


 


 「私の中にも、“輪廻の断片”がある! アキトなら引き出せる!」


 


 言い終わらぬうちに、リノアが自ら封印具に手を重ねた。


 


 眩い光が弾け、世界が白に染まる。


 次の瞬間――異形は、悲鳴のような“音”を発しながら、空間の狭間へと消えていった。


 


 静寂が戻った。


 


 「……大丈夫か、リノア!」


 


 「うん……でも、今のは……」


 


 ふたりは、確信する。


 今の“それ”は、この世界のルールでは説明できない存在だった。


 


 アキトが、低く呟く。


 


 「やっぱり……この世界には、“記録されていない”奴がいる」


 


 リノアが、そっと答えた。


 


 「そしてきっと、そいつが……“この世界が滅びる本当の理由”」


 


 アキトは、封印具を見つめた。


 この塔の奥に、“因果の原典”があるなら――そこに、すべての答えがある。


 


 だが同時に――その先には、さらなる“イレギュラー”が待ち構えていることを、彼は直感していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ