プロローグ:滅びの果てにて
――世界は、また滅んだ。
赤く焼けた空。ひび割れた大地。崩れゆく都市の輪郭。
瓦礫の中に横たわる人々はもう動かず、遠くで鳴り響く警報だけが、まだこの星が生きていると主張していた。
少年はその光景を、ただ黙って見つめていた。
その名は、アキト。
人々が滅び、文明が崩れ、神々さえ死に絶える様を、彼はこれまで六度見てきた。
人類の愚かさによって、あるいは外敵の侵略、感染症、自然災害――原因は世界ごとに違う。
だが結末は、いつも同じだった。
滅亡。
すべてが終わるその瞬間、なぜかアキトだけは死ねなかった。
何度も何度も、別の世界へと転生し、記憶を持ったまま“最初”に戻される。
かつてはそれを“使命”だと思った。
世界を救うために自分だけが記憶を持っているのだと。
だが、どれだけ足掻いても、誰を救っても、滅びの運命は変わらなかった。
そして今――六度目の終末を見届けた彼は、確信していた。
この世界は、救えない。
「……もう、いいよな」
アキトは瓦礫に腰を下ろし、ゆっくりと目を閉じた。
熱風に髪が揺れ、遠くでまた何かが崩れる音がする。
胸の奥は空っぽだった。
怒りも、悲しみも、悔しささえ、とうの昔に置き去りにしてきた。
あとは、静かに終わるだけ――そう思ったそのとき。
――風が、止んだ。
静寂の中、微かに響く誰かの足音。
それは、まるで世界が滅びたことすら知らないかのように、ゆっくりと、確かにこちらへと近づいてくる。
アキトが目を開けると、そこにはひとりの少女が立っていた。
白銀の髪に、深紅の瞳。薄汚れた服を纏いながらも、どこか神秘的な雰囲気をまとうその少女は、微笑んでいた。
そして、こう言った。
「やっと会えたね。アキト」
アキトは動けなかった。
初対面のはずの少女が、まるで旧友のように名前を呼ぶ。
「……誰だ、お前」
そう問いかける声は、思いのほかかすれていた。
少女は少しだけ寂しそうに微笑み、まるで告白するように言った。
「七度目の世界。今度こそ、終わりを止めに来たの」
その言葉に、アキトの胸がわずかに疼く。
少女は、確かに言ったのだ。
“終わりを止めに来た”――と。
それは、何度滅んでも変わらなかった運命に、たったひとつの“可能性”を投げかける言葉だった。
――この世界は、本当に最後の世界かもしれない。
――そして今度こそ、本当に救えるのかもしれない。
アキトは、もう一度目を閉じた。
焼けた世界の中、少女の瞳の中に映る光が、確かに“始まり”を告げていた。
これは、何度も滅んだ世界で、
たった一度だけ抗おうと決めた少年の、最後の選択の物語。
――「七度目の滅亡世界、今度こそ救います。」