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たった一人の幸せ

作者: 小雨川蛙

 

 耳にした言葉はたったこれだけ。

『お前の願いを叶えてやろう』


 覚えている光景はどこまでいっても続く死体の山

 父も母も、友も、好きな人も、嫌いな人も、皆、死体。


 叫んだ祈りはただ一つ。

「私は人に殺されたくない」


 誰かが叶えてくれたんだ。

 私の祈りを。


 だから、私は此処にいる。

 白い空間。

 何にもないところ。


 お腹が空いた。

 喉も渇いた。


 けれど、怖くなかった。

 私の願いは確かに叶ったのだ。


 だから、私は叶えてくれた誰かに言った。

「ありがとう」

 ・

 ・

 ・

 その光景を悪魔と天使が見つめていた。

 悪魔はこの場所に少女を連れてきた。

 きっと苦しむだろうと思って。

 そして、天使は彼女が死ぬのを待っていた。

 天国に連れて行くために。

 悪魔が舌打ちする。

 そんな悔しげな悪魔に天使が言った。

「世も末ですね。あなたが感謝されるなんて」

 その言葉に悪魔は苦々しげに答える。

「同感だな」

 答えを受け取り天使は蔑みの笑いを返し、そしてぽつりと言った。

「神様はなんで人間をこんな残酷に作ったのでしょうか?」

 悪魔は相変わらず腹立たしそうだったが、声はいくらか明るくなって答えた。

「悪魔にそんな問いを投げかけるな」

「……同感です」

 そう言って、二人は少女が死んでいくのを見守っていた。

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― 新着の感想 ―
 雰囲気が好きです。  最後の天使と悪魔の会話がいいですね。ときどき同じ事を私も考えます。 絶望的でもあり、何か希望を感じる話でした。  ありがとうございました。
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