スーサイド・ニュートラル
とある場所で、煙を吐く独り。
とある場所で一人の男がベンチに座っていた。彼は喫煙者で、ポケットから紙煙草を取り出して口に咥えて火をつけ、一服し始めた。
暫くすると、道路の方から男が歩いてきた。その男は煙草を吸っている男が座っているベンチに乗り上がり、男の隣にしゃがみ、男をじっと見つめた。
「...who is?」隣の男に訊いた。
「...ピーターパン」その男は答える。
「へぇ...」一口吸う。
煙を吐き、少しの間の後。男はピーターパンと名乗る男の顔を見る。
「マジかよ」
「マジだよ」
「どうやって?」
「まぁ、ちょっと色々して」
「こんなことしたら犬どもから追われるだろ?」
「それは大丈夫だ。あいつらのやり方を模倣した」
「ふぅーん」一口吸う。
「で、目的は?」煙を吐きながらピーターパンに訊いた。
懐から銃を取り出して男の頭に突きつけた。
「Kill youってことだな」
「そうか」男は、静かに煙草を吸った。
「良いのか?」煙を吐きながら訊いた。
「だって、悪いことしようとしてるでしょ」銃を傾けて訊いた。
「まぁな」煙草を吸う。
「なんでだ?」ピーターパンは理由を訊いた。
「ぼれはただ、うつつを修復するだけだ」煙と共に答える。
「リペア。だろ?」
「そ。じゃないと、彼女が生きていけないだろ」
「この世界には居ないのに?」
「そうとは限らない」
「なんで?」
「今現にお前が居るから」男は吸い終わった煙草の火を消しながら答えた。
「なるほどねぇ、一本とられた」
箱から一本取り出し、火をつける。
「探し人達は見つかったのか?」
「いや、まだ見つからない」
「そうか」
「あぁ」その返答には哀しさが混ざっている。
「大丈夫だ。まだ生きてる」励ますかのように左手の親指を立てる。
「当たり前だろ。勝手に殺すな」
「はは、わり」
二人の間に沈黙。風に揺れる木々達が世間話をする。
「てか、その吸い方やめろって。なんたら旬かよ」
「うるせー。これでいいんだよ」
「ダセェから普通に吸え」
「そうゆうおめぇも同じ持ち方してそうだけどな」
「うるせぇ」
「てか、何吸ってるん?」
「メビウス10ロング」
「なんでそれにしたん?」
「話聞いてくれる夜祭ってバーのマスターが吸ってるから」
「世話になってるんやな」
「そうだ」
「ふ。何処取っても似てるな」男の口元が綻ぶ。
「あ?」
「それ、ぼれもたまに吸ってるで。理由もほぼ同じ」
「そうかよ」
「ま、カオスボーダーだからな」
「だまれ」
「はいはい」吸い殻を携帯灰皿に捨て、夜空に浮かぶ満月を見つめる。
冷たい夜風が二人の頬を撫でる。
「最後になんか言う事はある?」
「いや、無いな」
「じゃあ、俺が言うわ」
「いや、ちょっと待て。最後に吸わせろ」
「はぁ。いいぞ」
「うい」箱から一本取り出し、火を点ける。
「んで、なんだよ」
「んーと」右手を眉間に当てる。
「えー、と」深呼吸をするように、ゆっくりと吸った。
「おい」
「待って、もう少しで出る」
ピーターパンは催促をするように引き金を下げる。
「んんんん」顎を触る。
「忘れたわ。スマソ」左手をあげた。
「クソが」
「代わりに頼むわ。なんて言おうとしたんだ?」こめかみに銃口を押し付けた。
「Peter Pan in the smoke」
思わず吸っていた煙を吐いた。
「いいねぇ。流石は、ぼれの物語だ。オルベロ」
花が揺れる。鳥が飛び立つ。風が吹く。月が辺りを照らす。煙草の灰が落ち、猫が鳴いた。
アハトンは死体を漁る。彼が着けていたネックレスを取り、そのアクセサリーを見る。
「これも貰うぜ。偽ソラホシ」ネックレスをポケットに仕舞う。
「ついでに煙草も貰うわ」転がっているロック・ブルーの箱を拾う。一本取り出して咥える。ソラホシが使っていたライターも拾い、それで火をつける。右手の中指と薬指で挟み、ゆっくり煙を吸い、吐く。
「これから。かもな」夜空に浮かぶ月を眺めながらポツリと呟く。
煙草の味が変わり、偽ソラホシの眉間で火を消し、背伸びをする。
「さぁてと。次に行きますか」
アハトンは左足の裾を持ち上げる。蝕まれたその左足は、外見が常に揺れ動き安定せず、左足を維持する事が難しい。
鋭角の一つから煙が吹き出す。鼻をつままなければ行動もままならないほどにひどい悪臭が足元から頭部へと全身を包み込む。
アハトンを包んだ煙は次第に空気に溶けていき、風が吹くとアハトンの姿は何処にも無かった。
彼が居た場所には、夢を見る男が独り。
過去の自分を殺してでも。