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エリス・ミドル  作者: 飴色茶箱
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2010年12月26日 グランプリレース有馬記念

2010年12月26日


「あああぁ~ブエナビスタぁぁ・・・負けちゃったよぉ」鮮やかなミルクティーベージュの髪を乱してCECIL McBEEの黒と白のガーリーテイストなファッションに身を包んだ春日優季菜は悔しい気持ちを全身で表わしながら、叫ぶ。そして両手でガンガンと手すりを叩いている。


「がはははは、俺はちゃんと取ったぜ!馬連でヴィクトワールピサ、ブエナビスタの組み合わせで!まあ、ガチガチの本命だけどな!終わりよければすべて良しってわけだ!はははは!」

師匠の元太が負けた優季菜に自慢するように豪快に笑いながら言ってのけた。


「う~ん、最終コーナー。いい手ごたえだったんだけどなぁ」優季菜は残念そうに呟いた・・


「もうすこしだったな」ノートパソコンでなにやらデータを打ち込みながら陽一は言った。


「そういう、陽一はどうだったの?」少し顔を引きつらせながら聞いた。


「取ったよ、でもあまり、儲けはないね・・ヴィクトワールから上位人気四頭のBOXだったから・・30万くらいかな」テンション低めでさりげない勝ちを表現する。


「優季奈ちゃんはなんで、ブエナビスタにしたの?」陽一が不思議そうに聞いてきた・・


「だって、最後のグランプリぐらいは自分の好きな馬に賭けてみたいよぉ、損得抜きでね♡」


「それは、わかるねぇ!」元太は大きくうなずいた。


「え~ん・・・ブエナビスタは今年も二着かぁ・・・」

優季菜はがっかりした表情をつくった。




 この三人で競馬の馬券チームを組んで二年目が終わった。

競馬歴30年の元太、近所では競馬狂として有名な八百屋のオジサン・・そしてもう一人はデータによる分析が得意で証券会社の委託社員の陽一。


チームの必勝パターンは陽一のデータによる分析の上で、その日の天候、馬場状態、騎手の関係をアドバイスする。


そして優季菜はパドックでずっと馬を眺めている・・


優季菜には、馬の調子をほぼ正確に読める目があった。

調子が悪そうな馬を外すだけで勝率が格段に上がった。


「よーし、まあでも今年はプラス400万だよぉ~元太、陽一ありがと!」


「いや、礼には及びませんよ。私は1800万プラスです」陽一は答えた。


この馬券チームは個々がそれぞれ、情報を提供し、馬券を買うのは自分の自己判断にしている。


「がははは、俺も今年は大分プラスだったな・・財布から金が消えることがなかったからなぁ」元太も陽気に答えた。


「大分プラスって何?もう~ちゃんと収支ぐらい計算しないと駄目ですよ!師匠・・」優季菜は笑いながら言った。


「まあまあ、いいじゃないかい、三人でいい年が迎えられそうだしな」と元太が返す。


「じゃあ、これから打ち上げと行くか・・・焼肉でもどうだ?行くだろ二人とも!」元太が二人に促す。が、優季菜はすぐに断った。

「ごめーん師匠、ちょっとこれから用事があるんだごめんね!」優季菜は両手を合わせて笑いながら謝った。


「あっ彼氏とデートか?まったく冷たいね。優季菜ちゃんは・・まあしょうがねぇ、来年もみんなよろしく頼むぜ・・じゃあ、来年また・・金杯で集合だな」元太は残念そうに言った。


「そうですね、今日はもう切り上げましょう。また来年も会えるわけだし・・元太さんも優季菜ちゃんも、よいお年を・・」陽一が言う


「はい!お二人とも、よいお年を!」優季菜も続けて挨拶した。


そういって、三人は別れた・・競馬場での仲間・・その関係が優季菜には心地良かった。


優季菜はおせち料理教室というのをみつけて夜は受講の予約を入れていた。

思い立ったらすぐ行動するのも彼女の良さでもあった。




「すみません、」競馬場を後にしてJR船橋法典駅に向かう途中、優季菜は後ろから声をかけられた。


振り返ると初老の男性が笑顔で近づいてきた。


(なんだろうナンパかな?でも、結構感じのいいオジサマ❤しかも、お金持ってそう・・)


「はぁ~い。なんですかぁ?」と優季菜は初老の男性に向かってノリノリな感じで聞いた。


「実は競馬場で、貴方たち三人のやりとりを聞いていまして・・皆さんプロの馬券師なんですか?」


「違いますよぉ~♪私以外はちゃんと本業を持っていますよ。」


「じゃあ、お嬢さんは今はお仕事なにもしてないのですか?」丁寧な喋り口で聞いてきた・・


この人の目的はなんなんだろう・・何かの勧誘?

警戒しつつも優季菜は答えた「う~ん、お仕事は、今はしてないんですよ~」

(でも悪い人じゃなさそう。それに、凄いオーラを持ってる感じ・・)


優季菜は人を見る目だけは自信があった。


師匠の元太と陽一を引き合わせたのも自分だ。

二人とも競馬場でいつも見かけて、そして負けているようには見えなかった。


優季菜は自分の能力が大したことないこと・・そして他人の力を利用した方が効率がいいことを今までの経験から学習していた。



「それにしてもギャンブルで勝つなんてすごいですねぇ。競馬の還元率は単勝で7割とも言われています。普通にやれば負けますよね?」初老の男性は不思議そうに聞いてきた


「普通にやれば、負けますよぉ❤❤でも、少しデータとかを使えばすぐに回収率は100%を超えるんですよぉ♡」優季菜は楽しそうに答えた。


「例えば、逃げ馬でひとつ前のレースで人気なのに逃げ切れなくて大負けしている馬。こう言った馬はオッズが上がっているから狙い目なんです。これだけで回収率は100%以上になるんです」(陽一からの受け売りだけどね)


「なるほど、競馬は奥が深いですねぇ。ところでお嬢さんはお金は好きですか?」


唐突な質問に優季菜は即答した。

「好きに決まってる、じゃないですか~」


それを聞いて安堵した男は、品のいいカルティエの鞄から大きな封筒をとりだして

「それは、よかった、では、よかったらこれをどうぞ・・」と言いながら優季菜に渡してきた。


「なんですか?これは」少し不審そうに優季菜は聞いた


「まあまあ、家に帰ってゆっくりとご検討ください・・・では・・・私はこれで」


そういって初老の男性は船橋法典駅とは逆の方向に去って行った。


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