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エリス・ミドル  作者: 飴色茶箱
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2010年12月24日 クリスマスイブのBAR

2010年12月24日


二週間前、京都の名士、亀井宗次朗の孫、亀井絵栗珠が自分にコンタクトをとってきた。


彼女に会ったときの衝撃は今でも残っている。

今まで見たこともない美女・・・見ようによってはまだ10代の少女にも見えた。


それでいて、的確な話術とどこで身につけてきたのか銀座の一流ホステス並みの仕草や心配り。彼女と会っている時間、ずっと感心しきりだった。


話の内容はどこから情報を仕入れたのか私の癌の病気についてだった。


彼女の話によると私にはまだ生存できる確率があること、そして、もし死んだ場合でも遺産を有効に活用する方法など様々なアドバイスをくれた。


御堂賢一は亀井絵栗珠の話を自分なりに整理し検討した。


おかげで今は、自分の今後を考えながら前向きに行動でき、充実した日々を過ごすことができている。




癌の宣告を受けて約二か月、気持ちに余裕が出てきた賢一は顔を出していなかったBARに久しぶりに行ってみようと思った。




賢一は黒いカシミヤのミドルコートを着て街に出た。


冷たい風が吹く中、幸せそうな恋人たち肩を寄せ合って街を歩いている。


ケンタッキーのチキンバスケットを持ったサラリーマンが小走りに駅に向かっていく。

きっと家では可愛い子供がまっているのだろう。


街路樹に色とりどりのイルミネーションが散りばめられ、木々が青、緑、赤と色とりどりの光を放ち、街には幸せが溢れていた。




(今日はクリスマスイブか・・そうだ・・一杯飲んだ後に久しぶりに教会でも行ってみるとしますか・・・)


そんなことを思いながら、御堂賢一は六本木ヒルズと東京ミッドタウンの間にある行きつけのBAR「アグニール」に入った。




カランカラン、扉を開く音が懐かしい。




「あっ、御堂さん!いらっしゃいませ」


バーテンダーの佐藤が瞬時に御堂賢一に向って、にこやかに挨拶をした。


「佐藤さん、ご無沙汰してます」

やあ、と 右手を顔の位置まで上げた。そして軽く会釈をして御堂も挨拶を返した。


少し暗めのクラシックな店内のカウンターの左から三番目。バーテンダーの佐藤から見て丁度斜め右辺りが賢一のいつもの指定席。そこにゆっくりと腰掛けた。


「ここ二か月ほどお見えにならなかったので心配していました。お忙しかったのですか?それに、今日は、表情が明るいですね。何かいいことでも?」

と、いつもの丁寧な言葉遣いで佐藤が聞いてきた。


「ああ、そうなんですよ。ちょっと難題を抱えてましてね・・でも、やっと段取りが着きました。ようやく、進むべき方向が見えてきて心の中が整理されてきた感じです。・・」


佐藤は、話の詳細は聞かなかった。

深くは聞かないのがバーテンダーのマナーだ・・


「それは、よかったです」


御堂は店内を見回した。


「今日は、カップルが多いと思いましたが、そうでもないみたいですね」シェーカーを振っている佐藤に話しかけた。


「ええ、いい意味で、いつもと一緒ですよ。まあ、雑誌なんかの取材はすべて拒否している隠れ家的な店ですからね。常連さんに落ち着いて飲んでいただきたいので」と佐藤は言った


「そうか、そういえば取材拒否のお店でしたね、ここは あ~それにしても外は寒いね。じゃあ、とりあえず.ホットウイスキーをお願いします」


「かしこまりました。何かご希望の銘柄はございますか?」


「いや、佐藤さんのおすすめでいいですよ」


「では、山崎の12年でお作りしますね」


「ええ、お願いします。それにしてもこの辺はイルミネーションが綺麗ですね。寒いけど散歩は夜に限りますねぇ」


「そうですね、六本木ヒルズのけやき坂のほうは凄いですよ。私もこの時期は毎日、通勤が楽しみなんです」


「うん、確かに・・歩いてるだけで心が躍るね・・街の雰囲気が好きなんですよねぇ、特別感があって・・クリスマスって・・」


「おまたせしました。山崎のホットウイスキーです」


「ありがとう」温まったカップの取っ手をもって、御堂は最初の一口を喉に通した。


「あ~温まるねぇ」芳醇な香りが口いっぱいに広がった。


「あ、ねえ佐藤さん!ちょっと一つ頼みがあるんですが・・」


思い出したように持っていた艶のあるカルティエのカバンから大きな封筒を取り出しながら御堂賢一は言った。


「はい!なんでしょうか?私にできることでしたら・・」


「実は私、今度、私財を投じて、あるテレビ番組を作ることにしたんですが・・」


「テレビ番組ですか・・」佐藤は少し驚き意外そうに賢一を見た。


御堂は大きな封筒を佐藤に渡した。


「その中には番組の詳細が書かれたパンフレットが入っています、まあ、後でゆっくり見て頂いて。で・・佐藤さんが番組に出場させてあげたい人が、もし、いたら渡してくれませんか?」


「そういうことでしたら喜んでお受けいたします」


「ああ、そうか、ありがとう」

御堂は、ぬるくなってきたホットウイスキーをぐいっと飲みほし・・

「じゃあポートアンドスターボードを一杯!」と追加注文をだした。


「珍しいカクテルをご注文ですね・・ああ、そうかクリスマスだからですね。」


「ははは、そう、グレナディンシロップとミントリキュール、赤と緑のクリスマスカラーってわけです!」


店内のジャズのBGMはクリスマスソングが流れている。


ゆっくり目を閉じて音楽を聴きながら、御堂は思った




(今年が最後のクリスマスになるかもな・・)




「じゃあ、そろそろ行くか・・佐藤さん、御馳走様でした」

賢一がカウンターの席から立ち上がった。・・・が動きを止めて・・・




・・・・・・「やっぱりもう一杯だけもらおうかな。佐藤さん!アラウンド・ザ・ワールドをお願いします」




「御堂さんの一番お好きなカクテルですね。お作りしましょう!」


爽快なミントの香りとパイナップルの酸味が広がった果汁感のハーモニー、そしてジンの心地よさが絶妙に調和する


「あ~最高ですね」


「御堂さんアラウンド・ザ・ワールドは私から奢らさせてください。久しぶりにお店に来ていただいたのですから・・」


「そうですか、では御馳走になりますか。ありがとう」


「今日はこれからどちらへお出かけですか?」


「うん、ちょっと教会にね・・」


「はは、一番まともなクリスマスの過ごし方ですね・・お気をつけて 行ってらっしゃいませ!」


「ああ、じゃあまた・・」



カランカラン




賢一が扉を開けると外には真っ白なフワフワの粉雪が舞っていた


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