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エリス・ミドル  作者: 飴色茶箱
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2010年11月5日 余命一年で思うこと・・

2010年11月5日


短いなぁ・・まるで、一時の夢のように儚く消えていく・・。そう、まるでそれは、砂塵の幻影のような・・人生というのは、なんと短いことか・・


思いかえすと、これまでの人生、私は全能力と時間を金儲けだけに費やしてきた。

金を稼ぐことだけが生き甲斐といってもいい。毎日がスリリングで熱かった。




だが一瞬で、そう・・ほんの一言で熱が冷めた・・




「御堂さん、言いにくいのですが、あなたの肺は癌に侵されています!それも末期の・・」


昨日、担当の医者に肺癌の宣告をされた、もって後一年の命らしい。


今、人生を振り返ってみると俺はまだ、何も成し得ていない、そして何者にもなっていないような気がする。

私はなぜ生まれてきたんだろう・・ 本当は自分のためだけじゃなく、人のため、日本のため、そして世界のためにもっと他の事ができたんじゃないだろうか?


もし生まれ変わることができたら・・今度は、自分のためじゃなく、他人のために輝きたい・・・いや・・・まてよ・・ポジティブに考えれば・・考えようによっては・・まだ、残りの時間は一年もある。


私がいままで稼いだ金で、世の中に貢献できたら、私のやってきた人生は無駄じゃなくなるんではないだろうか・・・ 




「賢一さん・・賢一さん・・・」




秘書の紺野が私の名前を心配そうな顔をしながら呼んできた。

(あっそうだ、紺野の作ってくれた朝食を食べている途中だった・・)味噌のだしのいい匂いが部屋に立ち込めていた。


「ん?ああ。ちょっと考え事をしていたんですよ・・」感情が殆ど無いような、まるで覇気のない返事をして、賢一はジャガイモ入りの味噌汁を最後の一口を口に流し込んだ。


「美味しいですね。今日の味噌汁は」料理についての素直な感想を口に出した。


「ありがとうございます、でも私の腕じゃないですよ。新じゃがを使ってますから・・」


「いえいえ、本当に美味しいですよ。ジャガイモだけでなく、いいだしがでてますねぇ」

賢一はお茶を飲みながら株取引に必要な情報をグーグルニュースと日経テレコンの最新ニュースでチェックした。

いつも朝食はデスクのパソコンでニュースやメールをチェックしながら食べるのが御堂賢一の日課だ。


「今日は尖閣ビデオ流出のニュースばかりですねぇ」


「ええ、私もそのニュースは見ました。」


YouTube上に「sengoku38」なる登録名の人物が現れた。


彼は中国漁船が日本の海上保安庁の船に体当たりしてくる様子を六分割された計44分に及ぶ映像をアップロードした。


この事件はマスコミやネットユーザーを中心にこの事件はすでに大きな波紋を広げていた。


「一個人が国を動かせる時代か・・・」(俺は彼のように時代を動かすことができただろうか・・)

「ええ、ネットを使えば個人でも政府に圧力をかけることができるんですね」私の呟きに対して紺野は同意する。


「このニュース。マーケットに大きな影響はあるでしょうか?」紺野が聞いてきた。

「いや、直接大きな影響はないだろうな・・だが!」


「何か心配ごとでも?」


「いや、日本も弱くなったものだな。と・・ふと思ってしまいましてねぇ」

そう言うと賢一はデスクの椅子から立ち上がり、オフィスの西側にあるソファーに「ふぅ~」とため息を漏らしながら、また腰掛けた。


(今日は朝日が程よく射し込んできて気持ちがいい・・・)


私は再度、物思いにふけった。


(余命を聞いて気付いた・・金を稼いだだけの無意味な人生・・私にできることはなにかないのか・・残された時間は一年・・・どうする・・)


「・・・大丈夫ですか?今日は賢一さんらしくありませんよ。なんだか、調子が悪く見えます」首を傾げながら真面目な顔つきで紺野は私の顔をのぞき込んできた。


なんでもないですよ、と私は言いかけたが、紺野の方が先に「体調と言うより、精神的な方ですか?何か心配事でも?」と聞いてきた。


紺野が気遣ってくれるのがうれしい。


長年一緒に仕事をやってきた紺野には話しておくべきか・・


「はは、やっぱり君に隠し事はできないな、ちょっと、びっくりするかも知れないが聞いてくれますか?」


「はい!何か重要なお話でしょうか?」

紺野由美は御堂賢一の正面に向き直り目を合わせた。


いつも見せない真剣な表情の賢一を見て紺野は今までに経験したことのないような胸騒ぎを覚えているように見えた・・




一呼吸おいて私は言った。




「実は・・・私は後一年しか生きられないんです・・癌で」




「えっ?」紺野は瞬きもできず、目を見開き、口を開けたまま時間が止まった。




そして、しばらくして「そんな・・賢一さんが・・」と呟き、同時に目からあふれ出た涙は頬を滑り落ちた。


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