2011年3月5日 夢想
2011年3月5日
「終わりましたね、賢一さんの葬儀・・」
紺野由美は吐息を一息ついて寂しそうに答えた。
「でもいい葬儀でした、沢山の友人もきてくれましたし・・」
「そうだな、自分でも見てて思いましたよ、人との繋がりって重要なんだなって」
長門大我はランチに紺野由美が作ってくれたペンネアラビアータをつついていたフォークを持つ手を止めて答えた。
唐辛子がよくきいていて若い体をもつ大我には少しきつかった。
(やはり、味覚って変わるものなんだな・・いつも食べていた物が、まったく違う味に感じられる)
「美味しいですね、このパスタ」
「ありがとうございます」
「それはそうと、賢一さんの資産相続者を決める番組なんですけれども・・中止にしたほうがいいのではないでしょうか?」
由美が尋ねてきた。
「中止?どうしてです?」大我は少し首を傾げた。
「手術が成功して闇医者、高橋一真には凄く私は感謝しています。ですが亀井絵栗珠の提案にこれ以上乗る必要もないと思います。命の恩人にこう言うことも気が引けるんですが・・」ちょっと言いにくそうに紺野由美が話した。
「亀井絵栗珠の提案がどうかしましたか?」長門大我が笑った。
「ええ、彼女の提案《最強のニート決定戦》は御堂賢一の資産を合法的に強奪するための策略ではないでしょうか。おそらく、彼女も試験に参加してくるのではと私は思うんです」
「さすが、紺野!優秀な秘書だ!でも、当然私はそのことには気づいていますよ」
長門大我は驚きもせずに話した。
「では!すべては長門大我が相続すればいいことではないでしょうか・・資産は御堂賢一の遺言状によって私に現在、すべての管理が任せられています。私が、無理矢理、長門大我に相続させても法的に問題は無いはずです」
「そんなことを、すると君は世間の批判に晒されますよ!」
大我は瓶詰めのミネラルウォーターをグラスに注ぎながら言った
「いいんです、どんなに批判されても賢一さんのためになるのなら・・」由美は真剣に答えた。
「まあ、紺野は予定通りに動いてください。なぜなら・・御堂賢一の資産は私自身が試験を突破して相続しようと思っています。一石二鳥なんですよ。世間に長門大我の名を一気に広めるにはね。」そして、グラスの水を一気に飲み干しこう付け加えた。
「人生は短い、知り合いの医者の話だと今度は体より、脳の方が先にダメになるらしいんです。大体、脳の寿命は百二十年から百五十年。早ければもっと早く痴呆がくるかもだってさ・・だがら、一気に手に入れたいんですよ。金と名声を・・それにはこの遺産相続試験はぴったりでしょう?彼女の策略と分かった上であえて亀井絵栗珠の提案に乗りましょう!」大我が由美に向って作り笑いをした。
「そうですね、賢一さん・・いえ大我さんなら必ず優勝できると思います。私も全力でサポートさせてください」由美は大我を見つめつつ言った
「ああ、もちろんそのつもりです、これまでの仕事、君とは息がぴったりだったからね。遺産相続試験もただの一つの仕事と考えてください、僕と君が協力すれば簡単にいつもと同じようにこなせるはずです」
「遺産相続試験が終わったら、賞金を使って会社を立ち上げます!そして得た名声を使ってさらに金を集める。そして集めた金を使って、全エネルギー循環型の世界最大の建造物、
『東京天空エコツリー』を作ります。そう、この建造物こそが全世界の環境意識の象徴になるように・・長門大我の人生をかけて地球をそして人類を救おうと思うんです」
「壮大な目標ですね。私にもあなたの夢のお手伝いさせてください。でも・・・まずはリハビリからですね」
そう言いながらも由美は別の事を考えていた・・
(でも・・・万が一、賢一さんが負けた時の対策も考えておかないと・・・)
由美は大我のグラスが空なことに気づきミネラルウォーターを注ぎながら口元に笑みを浮かべた。