1話 世界最高の総理撃たれる。
1話です。今回からスタート!
聴衆がこちらを見つめている。私は一つ一つゆっくりとした口調で力強く言葉を発する。
次の選挙では、必ずこの党に勝って貰わなければならない。
私は再び、力強く言葉を口にする。応援する議員の素晴らしさを聴衆に伝える。
彼はできない理由を…
そう。理由だ、日本国が存続するためには何が必要なのか?他の党に任せることはできない。もう一度続ける。
彼はできない理由を探すのではなく!
私はさらに続けようとした。
その時であった。天地を引き裂くような音が響いたのだ。私は何が起きたか理解できなかったが。音と共に倒れ込んだ。首元から痛みが伝わる。
安倍さんが撃たれたぞ!!
警察の怒号が響く。熱い、首から下の感覚がなくなっていく。
視線を地面に移すと、滴る真っ赤な血がアスファルトを覆っている。
死ぬのか…
そう理解する頃には視界がぼやけていた。
私はやらなければならないことがまだあるんだ。まだ死ねない。生きなければならないんだ。
私の必死の意識による抵抗は虚しく。視界から光がだんだん消えると共に希望が打ち砕かれていくのを感じた。
2022年7月8日、安倍晋三は死んだはずだった。
一体、何時間経ったのだろう?目を覚ますとそこには見知らぬ天井が広がっていた。
すると、奥から老人が出てきた。
あんたもさぁ、いい歳してるんだからさ。民主活動なんてやめて本国に帰ったらどうだ?その様子だと、また憲兵隊とやり合ったんだろ?サンフランシスコの総督府に突っ込むなんて…
やっぱりお前は最高だ。へっへっへ
この老人は何を言っているんだ?私はただの、民主活動家じゃなくてその根本たる議員だ。それに憲兵隊とはやり合ったどころか、会ったことすらない。
老人は、私を見て更に続ける。
まぁ、ここら辺のアメリカ人はあんたを英雄と呼んでるがな。
私は全くこの老人が言っている意味がわからない。もしかすれば、考えたくもないが日本の医療では太刀打ちできないほどの事故でサンフランシスコに運ばれ、彼に引き取られたのかもしれない。しかし、さっきからこの老人は何を言っているんだ?
アメリカに憲兵などいただろうか?それに、総督府なんて、旧日本政府が植民地や委任統治地区に設置したものじゃないか?今の時代、それにアメリカにあるなんて、考えられない。
老人は私が戸惑っているのを感じたようで笑いながら話し始めた。
なんだ、憲兵に殴られまくって気でも違ったか?
私は聞くしかないと思った。
すまないが、今は何年か教えてもらえないだろうか?あと、ここは何処かも…
ぼそっと答えると。老人は
おい。ギャグにしてはつまらんぞ、それにもっと明るく、冗談みたいな声のトーンにしないともっとつまらんぞと何か勘違いしたようで、ゲラゲラ笑い始めた。
なかなか、彼の言い方はムッとくるものだがここはぐっと堪えてこそ、元総理大臣であろう。
老人は笑い終わると、2022年7月8日だ。そして、あんたは頭のおかしい民主活動家で47歳、先日、憲兵と取っ組み合いしたとこだ。
私はやはり、おかしいと感じた。私は67歳だぞ?でも、まぁ日々の食生活には気を遣ってるしそう見えただけかもしれない。
そして、一つの結論に辿り着く。あぁ、きっとこの老人は虚言癖なのだろう。そうだ、そうに違いない。さもなくば、こんな時代錯誤な虚言を平然な顔で息を吸うように言えるはずがない。
あぁ、そういうことか、自分の中で全ての考えが合致する。ならば、この可哀想な老人の可哀想な話もちゃんと、聞いてあげるのが筋ではないか?それが、総理大臣としてのあるべき姿なのではないか。そう考えていると老人がまた、話しかけてきた。
本当に記憶が何なったんじゃねーのか?ははは、ほれ試しに俺の名前いってみ?
答えようがない。本当に知らないのだから、そんな感じで言葉を詰まらせていると。老人は
まさか?本当に忘れたわけじゃないよな?冗談は無しにしてさ。と放った。
無言の時間が続いた。
気まずくなったのか老人は答える。もしかして記憶も全部無くしたのか?
あまりの気迫に、私は首を縦にするしかなかった。
すると老人は悲しそうに答えた。
そ、そうか。まぁ、なんだ?激しく殴り合ってたからな。うん、俺の名前は森喜朗。お前の親友だ。
私は喉を詰まらせる。森喜朗?親友?彼が?この目の前にいる老人はモジャモジャの毛で顔は痩せている。きっと名前が一緒なだけだろう。そう思いながら、聞いてみる。
潜水艦と一般船が衝突して、もしお前が総理大臣で休日だったら何する?
老人、いや森喜朗は答える。
休日だろ?だったらゴルフかな。
その答えを聞き私は確信した。こいつは森喜朗だ。
続く…