塔の試練
謎の女に連れられて着いた場所はとても大きな塔だった
その塔はこの世のものとは思えないほど禍々しく
上の方は真っ黒な雲に隠れて最上階は全く見えない。
俺はなぜ女がこんな場所に連れて来たのか分からなかった。
塔の入口で俺は足を止めて言った
「この塔はなんだ。どうして俺をこんな塔に連れてきた?」
女は長い髪を揺らしながら振り返った
「ふむ。どうして、か。」
そしてニヤリと笑って言った
「主はより強い魂を望んでいる」
「...どう言う意味だ」
「ここは現世ではない。お前は今未熟な魂の状態だ。このまま現世に生まれることもできるが今のままでは魂が弱すぎてすぐに死んでしまう。
そこでだ、ここでお前は魂の修行をしようという訳だ。」
「話の筋が見えないな、魂を鍛えることとこの塔になんの関係がある?」
「簡単だ。お前の強さと魂の強さは比例する。
最上階まで行ける程の力があれば現世でもそこそこの強さだろう。」
とにかく塔で強くなれと、
「話は分かった。でも、俺は戦いの素人だ、死んだらどうなる」
「安心しろ、塔の中でなら魂のお前は死なない。ついでに言うと老けもしない。食事や排泄も必要ないぞ。
説明はこれでもう終わりだ。さあ早く塔に入れ」
「ああ、分かった」
ここは本当に魂を鍛えるに特化した場所らしい
死なないのはいいが、戦い以外に何も無いのは心が持つかどうか。
裏を返せば死ねないと同義だからな。
そんなことを考えながら2人揃って中に足を踏み入れた
◇◇◇◇◇◇◇◇
中は思いのほか広々としていた。
障害物も何も無く、地面に土があり、
壁は丈夫そうな、レンガ造りだった
女は急に足を止めて指を鳴らした
それと同時に光が走り一体の屈強そうな人の形をした怪物が出てくる
「..!?」
いきなり戦闘なのか?
俺は咄嗟に身構える
すると女が少し笑って言った
「待て待て、そんなにすぐに闘うわけじゃないぞ。それより挨拶をしておけ、この1階で世話になるゴブリン先生だ」
ゴブリン、か。
この世界なら何ら不思議のない存在なのだろう
しかし、1階でこんなにも強そうな相手とは
2mはあろうかという巨躯に黒い肌、鍛え抜かれた身体は、俺の貧相な身体など比べられないだろう
「よろしく頼むゴブリン先生」
失礼の無いようにしなけばすぐに殺されてしまいそうだ
「ああ、よろしく。」
そう言い、先生は俺の全身を見渡し、また口を開いた
「...分かってはいたがこんなにも弱そうな身体とはな。1から鍛える必要があるようだ。」
少しムッとする言い方だがその通りだ。
このゴブリン先生との戦いは長くなるかもしれない
俺はそのゴツゴツとした手と握手を交わした
女はその様子を見て、「後は頼むぞ」とだけ言い残して塔を去っていった