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仙女の碁盤!  作者: あべもちけい
7/19

第7話 夏祭り✕囲碁

「爛柯ちゃん、やっぱり似合ってるねぇ、浴衣。

うんうん、おばさんも準備した甲斐があったよ」

「ありがとうございます」

ピンク色の浴衣に、色とりどりの花があしらわれていた。

「ちょっとくるっと回ってみて~♪」

(そんなことをする年齢でもないのだが)

爛柯はそう思いながらも、副店長へのお礼も兼ねて、くるりとまわってみる。

(スースーするなぁ)

仙女の時の衣裳に若干近いものはあったが、それよりもかなり薄い気がした。

なんとなく、恥ずかしい。

「副店長、こんな時になんなんですが」

照れ隠しでもあった。

「なんだい?」

「そろそろ、副店長、って呼ぶのもなんですので、お名前を伺いたく」

「あ」

副店長は、まおと顔を見合わせる。

「こりゃまいった! もう数日も経っているのに、まだ名前を言ってなかったねぇ」

かんらかんら、と笑った。

「天元みお。ま、覚えやすいだろ? こいつがまおで、私がみお」

「コンビ組めそうですね」

「お笑いの方か?」

なかなか、仙界にはいないタイプだな、と爛柯は思う。

悪い人間ではない。むしろ、好ましい方だ。

「おばさん、爛柯ちゃんも、養子にしたいくらいだねぇ。

いつなってくれてもいいからね!」

「俺の立場はっ!」

さすがにまおも怒っている。彼女なら、本気にしかねない。

「別に変わらんじゃん。ま、これを機に、爛柯ちゃんは私をおばさん、まおは母さんと

呼んでくれていいよ。今だにこいつ、副店長副店長~って譲らないんだから」

「急になんて無理だよ。俺も、おばさんでいいか?」

(……)

まおは複雑そうな顔をしていた。爛柯は、いろいろ問題を抱えてそうだな、と改めて思う。

「ま、お祭り前にそんな湿気た話は置いておくとして。お昼から山車やみこしも通るだろうから、

早めに会場に向かうとするか。たぶんそろそろ……」

「たのもーーーーーーー!」

「来た」

「あらての道場破りか!?」

「イネッサ、ここは道場じゃないぞ」

「え? この日本語間違ってタ? お店に入る時はこれって」

「どこで覚えたんだ」

どうせ何かのラブコメ漫画だろう。まおは頭を抱える。

「あー、爛柯ちゃんも浴衣だー! すごく似合ってる!!」

「あ、ありがとう。イネッサも似合ってる」

「こんにちはー」

「今度は何!?」

一同は店の入り口に顔を向けた。そこには弥生が同じく弥生が立っていた。

「あー、弥生か」

まおはある意味ほっとする。

「あれ? 皆さんお揃いで。あれあれ?! イネッサちゃんもいつの間にここの人達と

知り合いになってたんだー! さすがだね!」

(やはり知り合いだったか)

またもや嵐の予感がする。

「あ、まお君、その甚平着たんだ。一瞬おじさんかと思っちゃった」

「そ、そうか」

なんとなく、まおは照れているようだった。

おじさん、とは、実父の事だろう。

「それにしても、弥生も、爛柯ちゃんと知り合いだったこと、早く教えてくれればよかったのに!」

「あ、私も出会ったの最近だから。爛柯ちゃんは夏休みが終わっても学校に来るの?

たしか、留学生って秋からじゃなかった?」

(そういう制度があるのか。迂闊な事は言えないな)

「一応、夏休みの間の予定だけど、長引けばその可能性もあるな」

「へぇ?」

弥生の頭の上に、でっかいはてなマークが浮かんでいるのが見えた。

「ええと、弥生、一応聞いておくが、イネッサとはどういう知り合いだ?」

爛柯は率直に尋ねる。

「んー、分かりやすく言えば、イベント仲間って感じかなー。夏祭りと言えば大きい夏祭り。

でも、今年はなんだか中止になったから」

「その分、時間をとって、日本に長期間滞在できるというわけネ!」

「なるほど」

「今年は、いろいろなイベントが中止になったりして世界中がなんだかおかしくなってる感じ。

異常気象も半端ないし」

「なるほど」

やはり、影響はあちこちに出始まっているというのか。早めに回収しないと。

「まぁ、日本人のオタクパワーさえあえれば、引きこもっていても毎日大丈夫だけどね」

「今はVRもあるし」

「それこそ、神技術があれこれ生み出されて凄い事になるかもしれない」

「さすが日本ネ!」

イベント仲間、ともあってか、イネッサと弥生は意気投合、のようであった。

「で、おばさん、今年も多面打ちイベントやるんですか?」

「今年はなぁ、爛柯ちゃんという最強メンバーが増えたから、普段と違って、

3人でやることにした」

「え、まお君も打つの?」

「左手でなら、大丈夫だって事が分かったから」

「あ、その手があったか! 良かったじゃない!」

「爛柯はすごいんだぞ。私もちょいとやった事があるが、自分で囲碁のアプリを開発している

らしいんだ。マッチング式らしいんだが。携帯同士の通信対戦のようでね」

「ただ、条件にあった人じゃないとできない。その条件は言えない」

「そのソフト、どうにかしてみんな持つ事はできないのかなぁ。割と、楽しかったし」

「え? イネッサはまだ見た事ない! イネッサの持ってる携帯でもできる?!」

「どうだろ」

「試しに入れてみるだけ入れてみたら? 爛柯」

石があるかどうかも分かるし、とまおは爛柯に目配せする。

(なるほど。ないならないで、それもそれ、か)

爛柯はためしに、イネッサの携帯へ、アプリのダウンロードを済ませてみた。

(やはり、ない、な)

黒石の反応は出ない。

(おや?)

爛柯は不思議に思う。対局をしなかった相手から、アプリが削除される気配がなかった。

(もしや、石を持っていない人間の携帯に入れれば、アプリを増やす事ができる?)

「イネッサ、ためしに私と対局してみてくれないか?」

「え? いいよ?」

「勝ち負けは考えなくていいから」

むしろ、勝ってもらって仙女としてのプライド的に困る。

「爛柯の棋力を見たいから、置石はなくてもいいネ!」

「分かった」

「え、何その怖い顔!?」

「爛柯の方が悪役みたいな顔してるなー」

「これはこれで萌える展開!」

「?」

まおは弥生のコメントに深くつっこまない事にした。

「あー・・・惨敗ねーーーーまさか100目近くも差が出るとはーーーーー。囲碁の道はまだまだ遠いネ~」

項垂れるイネッサを他所に、爛柯はイネッサの携帯の画面を覗きこむ。

「あ、やっぱり、アプリは消えていないか」

「何それ、怖いアプリネ! どういうプログラム!? 神プログラム!?」

「ある条件で負けると、アプリは消える。どいうことはある条件でなければアプリは消えないで残る、と」

「開発者も知らなかった仕様かい? おばさんも怖くなるわー」

「いや、むしろ、この仕様はありがたい。囲碁愛好家の人数を増やして、アプリも増やしていけば、

私の目的の効率も早くなる!」

「なるほど、その手が使えるか」

爛柯は指をパチンと鳴らす。

「という事は、店のメンバー全員に入れておき、祭りに来た客にも入れていけば、利用者は増えて行く、と」

(黒石は、私の親携帯に回収されるようになるようになっていればありがたいな)

爛柯は、自分の目的を直接言わず、ゲームの一部であるかのように説明する事にした。

「このゲームは、世界のあちこちにばらまかれた黒石を回収していくゲームだ。

しかし、黒石の反応が出た相手とは、必ず勝ってほしい」

「負けたらどうなる?」

イネッサが、興味津々で聞いて来る。

「負けは認められない、と思う。というか、今まで負けた事がないから、どうなるか分からん」

「えー」

「どうしても、勝てそうにない相手だったら、先に爛柯を呼んでおくのが無難だろうね」

「まー、そのぐらいなら」

そう考えると、あまりアプリを増やすのも問題だった。

「ひとまず、黒石反応が出た相手とのみ、戦うこと。というか、そういう時にしか使えないな」

「爛柯、本当にこのアプリ開発したの、お前か?」

イネッサに聞かれてしまう。

「まぁ、実際にプログラムをしたてたのは、私の上司・・・あ、いや、近所のおばさんだ」

西王母は仙界でくしゃみをしていた。まさか、爛柯に近所のおばさん呼ばわりされたとは思ってもいまい。

「いつか、そのプログラムを組んだ人と会ってみたいねー。もしかしたら、私、改良できるかもしれないし!」

そもそも、このアプリ自体がなぜ人間会の携帯にダウンロードする事が可能なのか、それ自体が分からない。

(あれこれ隠し機能とかもあったりしてな)

爛柯は溜息を吐く。後でマニュアルを請求しておこう、と思った。


「ま、イベントの段取りの話はこの辺ぐらいまでにしておいて」

パンパン、と副店長は手を叩いて会話を中断させた。

「ほら、始まりの花火も鳴った事だし、早い所、会場に行くよ!」

「その前に」

弥生が制する。

「このチームの名前、どうします? 部活だったら囲碁部でいいけど」

「そうか。ある意味囲碁サークルみたいなものか」

「それなら、そのアプリの名前を使えばいいネ! なんて名前だっけ?」

「『仙女の碁盤』」

イネッサを除く3名は、口を揃えて言った。


「なんだか恥ずかしいチーム名だな」

参道を歩きながら爛柯はぼそっと言う。

「まぁ、チーム爛柯とされるよりは恥ずかしくないか」

「無難すぎるかもね」

「こら、イネッサに弥生も、そんなに早くからリンゴ飴買ったりすると、

服や手がべとべとになるぞ」

「大丈夫! ちゃんとお手拭きも持って来てるから!」

「心配ご無用ネ!」

やれやれ、と副店長もお手上げ状態である。

「ま、こういう祭りも、楽しいものじゃないか、まお。去年は参加してくれなったしさー」

「まぁ、ね」

そんな余裕がなかった自分であった。

「俺さ、囲碁をやっていくには囲碁部だけじゃなくてもいいんだ、って分かった気もするし」

「だろ? 方法や考え方なんて、人の数だけあるもんだ」

「まぁ、ね」

「そうだ、かわいい二人にも、おばさん、リンゴ飴買ってあげちゃうっ」

「リンゴ飴、か・・・はじめてかもな」

仙界に似たようなものもあったかもしれない、が。

「そうかー、爛柯ちゃんはリンゴ飴はじめてかー」

「うむ」

爛柯は、恥ずかしそうに、買ってもらったリンゴ飴を舐めた。

「どことなく、懐かしいような味だな」

「お祭りの、味だな」

「なる、ほど」

(……)

爛柯は、どこかでこの味を知っている気がした。だが、思い出せない。

(もしかして、仙女になる前の事か? 仙女になると、下界の事はみんな忘れさせられるし)

自分が、下界の頃、どういう人生を送り、どういう暮らしをしていたかは知らない。

これは、仙界に入ったものの掟のようなものだった。

3000年も前、となると日本の歴史だって、歴史以前の世界だろう。

そのはずだ。

(それに、思い出したとしたら仙女でなくなるらしいからな)

爛柯は、その味をあまり堪能しないようにした。

(祭り、か・・・ここ最近はほんと、主催したり裏方だったりすることがほとんどだから、

参加側に回れるのも嬉しい)

爛柯は、ふと、立ち止まり、町の様子を眺めていた。

「いいな、こういうのも」

「爛柯、危ない!」

「えっ!?」

爛柯は突然、向かい側から背の高い男にぶつかって来られ、しりもちを着いた。

「あ、リンゴ飴が」

道路に落ちてしまっている。

「あんにゃろ~~~~!」

副店長は、その男を追いかけようとしたが、人ごみに揉まれてすぐに見失ってしまった。

「爛柯ちゃん、大丈夫!?」

「怪我、ない!?」

「大丈夫だ、と思う」

まぁ、下界にいる間は、ほぼ人間に近い存在となってしまっているから、血の一つも流すだろう。

「あ、膝から血が」

「待ってろ、爛柯」

まおは手提げ袋の中にしまっておいたタオルを急いで爛柯の足に巻いた。

「応急処置、だけど。それと、爛柯、携帯は大丈夫か?!」

「あっ……」

爛柯は浴衣を弄る。浴衣の内ポケットに入れていたはずの、携帯がなかった。

「携帯が、ないっ!」

「大変じゃないか!」

慌てて雑踏の中を探すが、近くにはなかった。

「警察に届けなくちゃ」

「大丈夫だ。日本の警察は、いろいろと手続きが必要だと聞く」

そう言えば、身分証明書も持ち合わせていない。その辺もどうにかしていくしかないだろう。

「大丈夫、じゃないだろう、爛柯!」

「そうだよー、どうしたの、爛柯ちゃん!」

爛柯は、心配そうに覗き込んでくる自分を見守る一同を、不思議そうに見上げた。

「どっか痛むか?」

思った以上に一同の方が慌てている。

「私の顔に、何かついてるか?」

「爛柯ちゃん、泣いてるから」

「泣いて?」

自分でも気がつかなかった。念のため、顔に手をやって確認をしてみる。

「ほんとだ」

「無自覚だったのか」

「思ったよりも、悲しかったらしい。携帯がないというよりも、リンゴ飴が道端に落ちて、

人に踏まれつぶされたって事が」

「そっちだったかー……おばさんも迂闊だったね。会場について落ち着いたら、後でまた買ってあげるよ」

「ありが、とう」

「爛柯、会場まで背負ってやるよ」

「まおも、すまない」

「いいって。俺も助けるのが遅れたから」

「あの携帯は……特に、あのアプリ以外は何もついていない仕様だから、別に悪用される

事はない。むしろ、あれだ。囲碁をやるにもアプリのやり方が分からないだろうから、

盗んで損をしたって事だ」

「しかし、困ったねぇ。爛柯ちゃんができないようじゃ、人数も少なくなるし」

「でも、あいつ、どっかで見た事ある背中してたんだよな。誰だったか」

まおは首を傾げる。見れば、弥生も首を傾げていた。

「まお君、たぶん、あいつ、もと囲碁部のやつじゃないかな。やめちゃった一人の」

「弥生、連絡先、分かるか?」

「分かるかも」

「そいつにさ、爛柯の携帯を持ってたりしないか聞けないかな。たぶん、悪い奴じゃなかった気はするからさ」

「そーだねぇ……あんまり関わりたくないやつだけど。根暗だし。まお君こそ、連絡先分かるんじゃないの?」

「連絡、しづらいからさ」

「まぁそうなるか。連絡してみるだけしてみるねー」

その場で、弥生は携帯にメッセージを打ち込み始めた。

「あ、やっぱり。めっちゃ逆切れして来てる。囲碁しかできねぇじゃねーか、この携帯! ですって」

「でもまぁ、携帯のありかが分かって良かった」

「どうやら、向こうも悪気はなかったみたい。ぶつかった拍子に携帯を拾ったみたいで、盗んだように

思われたくないから返しに行きたいって」

「いいやつじゃないかい」

副店長はほっとした。

「ついでに勧誘しようじゃないかい」

「~~~~~~」

まおは頭をかく。同じ立場の人間と会うのは、もう一人の自分を見るようで、何か嫌な気がした。

「ま、祭りらしくていいじゃないか、こういうのも」

「医療テントで、湿布もらっておかなくちゃな」


爛柯はまおに背負われながら、まだ先ほどの出来事について思い悩んでいた。

(仙界では、泣いたことがなかったからな。これが、人間に近くなるということか)

人よりは回復は早いのかもしれないが、怪我もしてしまう、らしい。

(となると、寿命カウントもあるわけか。人並みに)

仙界にいればいる間だけ、不老長寿のようなものである。

その分、自分の興味のあることを見失ってしまえば、仙女としての資格も失ってしまい、

消滅する事もあるようだ。

(しかしさっきのあれは)

リンゴ飴とともに、何かを思い出しそうだった。その時の光景を。

(その時、誰か周りにいた?)

いたように、思う。それも複数人。

(だが、あれが、本当にリンゴ飴であったとしたならば)

爛柯は、訝しむ。


それは、いったい、どういうことなんだ?


(今はまだ、考える事を止しておこう。なんとなく、思い当たる事があるかもしれないが)


爛柯はそれよりも、黒石の回収を急ごう、と思うのだった。


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