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仙女の碁盤!  作者: あべもちけい
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第6話 突然の訪問者!

「毎日図書委員の仕事をしに行く訳じゃないんだな」

爛柯は、テーブルの上を台拭きで拭きながら、まおに尋ねる。

「まぁね。あくまでも夏休みが優先だから、日にちは月・水・金だけって決まってる。

だから、今日はお休み」

「学生は、宿題もあるようだからな」

ここ最近の日本の事情は、だいたいニュースを見て把握していた。

「勉強勉強、で、囲碁をやる暇もなさそうだな」

「ただでさえ、今時あまり囲碁をやろうっていうやつも少ないしな」

「そうなのか?」

「おや? 爛柯は宿題はないのか?」

不思議創に副店長が皿洗いをしながら質問をしてくる。

副店長には、一応、同じ学校に通っているという事にしてあった。

「ある意味、今やっている事自体が宿題のようなものだな」

それが終わらないと、帰れない。夏休みの期間ぐらいで終わればよいのだが。

「でも、そろそろ祭りの時期だ。宿題だけじゃなくて、遊びもしっかりやらなくちゃな?」

バンバン、と副店長はまおの肩を叩いた。

「言われなくてもやりますよー。それよりも、副店長こそ、出店の用意は大丈夫なんですか?」

「まぁ、毎年だいたい同じ段取りだ。慣れてるよ」

「どんなことをやるんだ?」

「町内会名物鬼副店長との多面打ち大会 金賞は、このお店の5回無料券」

「ふむ・・・祭りか」

どちらかと言うと、裏方に回ることが多かった。

「爛柯ちゃん、浴衣、着てみたくない? おばさん、おごってあげるよ?」

「大丈夫だ、そのぐらい自前でなんとかなるっ!」

「どうやって? アルバイト料の前倒しはできないよ?」

(爛柯、あんまり力使うと怪しまれるんじゃないのか?)

まおはこっそりと耳打ちした。

(まぁ、そうか)

(ここは、お・ば・さ・んに、甘えておけ?)

(う、うむ)

「副店長、爛柯もせっかくだから、日本の浴衣、着てみたいって!」


その時だった。

聞いた事もない声が戸をガラガラと開ける音ともに響いた。

「ゆかたってこれのことか!? ゆたか? ゆかた? ゆかたネー!」

カタコトな言葉とともに現れたのは、髪の毛が白銀の少女であった。

「お祭り、今日か!?」

「いらっしゃいませー。お祭りは今日じゃないですよー」

まおは項垂れる。テンションについていけなかった。

「せっかくホテルから着て来たノニくやしいネ」

「あららら」

副店長も苦笑いである。

「じゃあさ、ちょいとだけお祭り気分、味わってみるかい?」

「どうするのさ。準備とか時間かかるんだろ?」

「お祭りお祭り♪」

まおはあきれながら見つめていると、副店長は案の定板状の折り畳み式碁盤を取り出して来た。

「それ、囲碁か!?」

「よく知ってるわねー。あなた、どこの国から来たの?」

「私、ロシアから来たッ! 名前は、イネッサ! 稲に似てない?」

「そ、そうだね」

「私、日本語大好き。クールジャパン大好き。もちろん、囲碁も大好き! アニメも大好き!」

「いろいろと、日本人より、詳しそうだね」

まおは、副店長が、そう言いながらおもむろに碁盤を3枚並べるのを見守っていた。

「え? 人数あわなくないか? 枚数と対戦相手」

「お祭りだよお祭り。多面打ち、といこうじゃないか」

「多面打ちって何!? それは初めてだ!」

「私が、あんた達3人を相手に取るってことだよ。丁度、本番前の腕慣らしにもいい」

「俺も参加か」

「不服そうだね」

「右手が震えるってぇなら、左手でやりゃいいじゃないかい」

「屁理屈だ!」

まぁ、左でなら、やれたりするのかな? と自分で自分を疑問に思う。

確かに、左で打つということを試したことはなかった。

(リハビリになるといいな)

自分の場合は、主にメンタルの上である。

爛柯の手前、恰好つけたいという気持ちもあった。

「で、私の方は、秘儀、両手打ち!」

「頭が混乱しそうネ!」

イネッサは口をあんぐりと開けている。

「あんた達、容赦はしないからねっ」

(……)

爛柯は多少飽きれながらも顔には出さず、黙々と冷静に打ち始める。

「あ、大丈夫みたいだ、俺」

手を変えてみると、震えや緊張は不思議な事に止まっていた。

冷静になってイネッサの様子を見ると、石を指に挟んでおらず、つまんでいる。

「あ、遅い、遅い」

着いていくのもやっとのようだ。

「レベルがアンバランスなら、爛柯、本気出して攪乱作戦にしようぜ?」

「心理作戦、か。通じるかな」

「爛柯も実力全開でいいから」

「うむ」

「ん……? 二人の流れが変わったか? 石をあちこちに置くことで計算を狂わせようとしている?」

「あわわわ、わわわわわわわ」

こっちは見ているだけでも耐えられないありさまだ。

それでも日本人にしか分からないフレーズで対応できているあたり、さすがクールジャパンが好きだと

言うだけの事はある。

「爛柯はスピードもアップしてきた!?」

「通常の5倍で」

「通常の5倍!?」

なぜかイネッサの方が泡を吹きそうになっていた。

(深くは追及しないようにしよう)

なんとなく、弥生と同じ空気を感じる。

「早いっ。だが、この私も打ち間違えたりなぞしないっ!」

「怖いってば、その顔っ!」

お祭り本番ではそんな顔しないでいてくれよ、と願うしかなかった。

(でも、楽しいな。こういうのも)

まおは久しぶりの感覚に、思わず顔がほころぶ。

いい意味で、リハビリになりそうだった。


「ならば、10倍!」

「なにくそ!?」

こっちはこっちで白熱している。もはやまおにも手の動きを追えない。

それでいてこっちのゆるりとした盤面にもつきあえてるのだから、さすがと思わざるを得ない。

「まお、油断するなよ。盤面よく計算してごらん」

「えっ?」

焦って自分の地と相手の地を計算する。

「あ・・・」

もはや、逆転の余地は残されていなかった。

「ま、まいりました」

「イネッサちゃんは、一つの石に数倍時間をかけて考えてみ? 慌てないで」

「え」

イネッサは副店長を見あげる。

「相手のペースに乗っちゃだめだ。相手のペースに乗らずに自分の最善の手を見つける。

それが大事さ」

「う、うん。深呼吸する」

相手のペースに押されてついていくばかりとなっていた。

「あ、ここだ!」

「そうそう」

「お祭り、楽しいネ!」

少女ははにかんで笑っていた。

「囲碁をする時は、相手に悔しい思いをさせてもいいけど、泣かしちゃいけない。

そう思うからね、私は」

「いい事を言うな。確かに、そうだな。久しぶりに楽しい碁だった」

爛柯もいい顔をしていた。

「泣いた相手が、自分で立ち直れるならいい。そうじゃないやつだって、世の中には

いっぱいいるからな。少しづつ、立ち直れるのでもいい」

「……」

まおは、副店長に、頭をくしゃっとされる。

「囲碁は、心のカウンセリングだってできるのさ」

「なるほど。囲碁は心のカウンセリング。それこそクールジャパンネ!」

イネッサは両手を握りしめて立ち上がる。

「私、日本にいる間、毎日ここのお店に遊びに来るよ。勉強もかねて!」

「君、は?」

彼女のクールジャパン、に趣味に留まらない雰囲気を感じた。

「私は、ロシアからのクールジャパン推進アンバサダー、イネッサ=ゴドゥノフ。

略してイゴ! よろしくネ!」

アニメ調のミニキャラをあしらった名刺を渡されたのだった。

「スパシーバ! やっぱり日本、大好きネーーーー!」


「嵐が去った」

まおは疲れ切る。なんだか、爛柯が来てから騒がしい毎日になっている気がする。

「それこそ、祭りのようだったね。そう言えば、あの子、どっかで見たような気がするんだけど。

確か今日の朝刊で」

副店長はごそごそと新聞を取り出した。

「あー、昔のアニメキャラのコスプレやってた子だ。どっかで見た事あったなーと

思ったら、この子だったかー」

あちゃー、と頭を抱える。

「武道にミリタリー、ロリータにアイドル、そしてさらにはVRやAI。

クールジャパンも究めると凄いな。弥生には黙っておいた方がいいかもしれない」

「むしろ、知り合いだったりしてな」

「まさか、な」

身震いした。

「でもさぁ、まお、なんかさぁ」

副店長がにやにやする。

「あんた、モテ期来た? これはチャンスだよー。爛柯ちゃんだけでも充分かわいいのに

この果報者めー」

「普通の青春がいいです」

できればそっとしていてほしい。

「へー、あの子、高校生やりながら社長もやってるのかー。最近の若い子はすさまじいな」

「どうやったらそういう人生になれるんだよ」

「今からだって遅くないよー? まおもがんばってみ?」

「嫌だ」

店を継ぐ為の勉強だけでいっぱいいっぱいである。

「これでまた、男友達もできてくれたら、私は嬉しいのだけどな」

「……」

まおは、じっと右手を見つめる。

まだ、そこまでの勇気は持てないでいた。


「ある意味、爛柯が男勝りだから間に合ってるよ!」

「おいっ、どういう言い草だ!」

(いいのか? 私は男になれなくもないぞ?)

(それだけは、勘弁して)

仙女、おそるべし、であった。


「でも、今回、石の反応はなかったな」

「そうそう、出会った人間の数だけ反応してたら身が持たぬわ」

「しかし、チャンスかもね」

「何が、だ?」

「お祭りにはたくさんの客が来る。それこそ、爛柯のアプリを常備しておけば

チャンスを狙えるんじゃないか?」

「そうだな。ならば、私達も参戦するという手はないかな」

「それも、ありと言えばありだけどね」

「お祭りか」

「仙界でお祭りはなかったのか?」

「それなりにはあった。まぁ、囲碁を打つ大会もあったし、花をめでるだけの祭りもあったな。

食べるだけもあったし、とかく、仙界は贅沢することが好きだからな」

「羨ましい限りだ」

「世の理が、こちら側と違うからな。あちらはあらゆるものが物質のようで物質ではないからな。

意のままに操れるものもあったりする。そう考えるとこの地上は不便だな。物資には限りがあるし、

バランスが崩れるともろともの崩壊する。なぜ、物質界は物質界のままなのか」

「むしろ、仙界があるってこと自体が不思議だけどね。こちらではもはや、非現実的なものとして

扱われているし」

「そうか・・・我々は、非現実的なもの、か」

「けどさ、不思議だよな。なら、なぜ、黒石が現実世界で物質化してしまってるんだ?」

「……確かに」

「もしかして、世界の仕組みやバランスそのものがおかしくなっていたりする?」

「一理あるかもしれぬな」

爛柯は、広告の裏面に、丸を一つ描いた。

「世の中の理は、”陰と陽”でそれぞれ成り立っている。どちらかが存在しないと存在できぬ。

光と影、白と黒。その片方が消滅したと」

「非現実と現実」

「!?」

爛柯はまおを見つめた。

「宇宙そのものの、均衡が崩れ始めている、ということか?」

「その可能性も、あるかもしれないね」

「……思っていたよりも、自体は深刻かもしれないぞ。黒石が、なぜ人間の体の中から

回収されるのか、という事も気になる」

「爛柯のその携帯も、お祭りの最中に盗まれたりしたら大変かもね」

「そう、だな。それも考えねばな。それと、囲碁は心のカウンセリング、というのも

気になった。確かに、そういう面もあるだろうが、囲碁が持つ力はそれだけじゃない」

「え?」

「囲碁を打っている間に、長い時間が立っていた、という話はよく聞くだろう。

それに、棋譜を並べる事で、打ち合った人間同士の感情やその時の景色にも

入り込める」

「それって」

「囲碁は、今の言葉で言い換えるとすれば、タイムマシンでもあるんだ」

「……」

まおはあっけにとられた。たしかにそういう逸話は聞いた事があるが、

あらためて言葉にされると訝しんでしまう。

「さっき、お前も囲碁を打ってみて、自分の過去にアクセスをし直し、

自分自身で心のカウンセリングをしたんだ。つまりは、そういう事だ」

「囲碁に、そんな力が」

「だから、宇宙を司る碁盤、は森羅万象、現実世界へも影響を与える」

「うん」

「この宇宙はある意味一つの棋譜のようなものなんだ。それも、一刻一刻常に変わり続ける

果てしのない戦いが続く。だから」

爛柯はじっとまおの顔を真剣に見つめた。

「お前の手の件も、いつかは向き合わなくちゃいけない」

「分かってる、よ。頭では分かってるけど」

「急ぎはしない。ただ、今日のような形で、とてもいい状況で、

自然に治せるのが一番だ」

「そう、だな。あらためて、黒石回収が大変だという事も分かった」



「ま、それはそれとして、だ。お祭り自体、私はほとんど裏方かもしくは主催側だった

から、参加して楽しむというのも久しぶりだったりもする」

「そうか」

「真面目な話ばかりでも、肩が凝るだけだからなー」

「うん」

「浴衣、着るのが楽しみだ」

「絶対似合うと思うよ?」

「お前はどうするんだ?」

「ま、普段の恰好でもいいだろ?」

「そう言わずに」

「まぁ、父さんのおさがりなら、あったかもしれないけど」

「見てみたい」

「そうか。じゃ、当日に」

「楽しみにしてる」


まおが自分の部屋に戻った後、爛柯は一人、考え事をする。

「私が管理をして3000年、こんな事はなかったのだがなぁ」

爛柯は携帯をじっと見つめた。現在回収できた黒石の数はまだ4つである。

「もし、回収がかなわなかった時には、宇宙も消滅してしまうのかもしれないな」

それだけは、まおに伝えられなかった。

「そもそも、あの碁盤はどうして存在しているんだ?」

宇宙の化身、だとも言われる。

本来ならば、一人の仙女ごときが管理できるような代物ではないはずだ。

「ま、うだうだ考えすぎていても埒があかんかー」

ともかくも前進するしかない。後退は、許されていないのだから。

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