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仙女の碁盤!  作者: あべもちけい
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第5話 登下校のひと時

「へぇ、爛柯ちゃん、本当に囲碁に詳しいんだねぇ。もったいないなぁ。

図書委員の活動よりも、囲碁部に入ればいいのに」

爛柯は帰宅途中、弥生に話しかけられてばかりいた。

(まぁ、迷惑ではないんだが、こちらの事情も迂闊に言えないしな)

それを考えると、3人に共通の話題、必然的に囲碁になってしまう。

「副店長と勝負したんだー。9子で戦ったとかすごいね!」

(今時の世の中の棋力自体、レベルアップしているのかもしれないな。

プロではないといえ、あの者の実力も相当なものだった。

囲碁の店をやっているだけはある)

あれでもまぁ、かなり実力を隠して戦っていたのだが。

「今時の、いや、日本の囲碁事情にはそれほど詳しくないがな」

「なんか、爛柯ちゃんの話し方って、独特だよね。昔の偉い人っていうか」

(ま、まぁ・・・)

顔を反らすと、横でまおが笑っていた。

「で? どんな勉強してたの?」

「一日中囲碁を打ったりとか」

「一日中!? 実はプロだったりとか!?」

もごもご、と俯いてしまう。なかなかに話をしづらい。

「囲碁を食べながら生活していたとか?」

「まお!?」

「何それ、雲はともかく、碁石は食べてもおいしくないよー!」

「・・・はい、そんなあなたに今度のうちの店の新メニュー」

一応、カバンの中からいつでも取り出せるように常備していた。

「え?! 今度の新メニュー、何!?」

「碁石茶チョコパフェ・・・へぇ、チョコを碁石に見立てて」

「まぁ、副店長のリクエストも入れ込んだんだけどね」

「碁石茶飲んでみたかったんだー。飲んだら棋力あがりそうっ!」

「お茶飲めばまぁ、リラックスして落ち着いて囲碁は打てるかもね。

碁石茶っていうのは、碁石みたいに茶葉が硬いからなんだけど」

「知ってるよ、そのぐらい」

「・・・・・・」

爛柯はこのやりとりを首を傾げながら聞いていた。

「なぁ、こういったやりとりは、日本の日常会話では普通なのか?」

「私はいつもどおりだけどなぁ」

「俺は、囲碁を知っている奴かどうか選んで一応会話をしている」

「え、そうなの!?」

「お前が相手を選ばず囲碁の話するというのが特別なんだ」

「ふーん、別に、隠すことでもないのに。私なんて、腐女子だってこと割と公表してるよ?」

「男子としては、反応に困るから」

「・・・ふ、じょし?」

「あー、爛柯ちゃんいいわー。世の中を知らないというか今の世には珍しく純粋というか。

腐女子って、腐った女子って書くのよ。私の名前、草田弥生。ちなみに、腐作品は

やをいとも言うわ?」

「やをい」

一応脳内にインプットしておく。

「囲碁ってホント最高のゲームよねぇ。せめぎ合いとか、聞いただけで興奮しちゃうっ」

「まぁ、それが強さの根源になれるなら羨ましいよ」

囲碁に対する情熱がそこまであることが羨ましい。

「いい加減、立ち直れればいいのに、あんたも。あんたぐらいの熱心さは今時貴重なの」

「それはそれ、これはこれ」

「その辺の事情は、まぁ、先日よりちょっとづつ聞いてはいるが。その、ひどいのか?」

「碁石を持つだけで、手が震える」

「……」

爛柯は考える。

「それってつまり、武者震い、ではないのか?」

「!?」

「そう片づけられたら簡単なんだけどねぇ。でも、私もそう思う」

「強いやつと戦いたいから、その興奮のあまり石が持てなくなる」

「うわー」

「そう、なんだろうか」

「本当に嫌いなら、全て捨ててしまっているさ。どんなに強い奴に負けたとしても

囲碁を続けたいという気持ちだけは捨てられない。それだけでも立派なものだよ」

「爛柯ちゃんにもそんな経験あったの?」

「まぁ、山のようにな。時には碁石の下に針まで隠されていた事もあったりした」

「陰湿」

「それでもさ、私も性分なんだよなぁ。どんなに悔しい思いをしたりしても、

囲碁を捨てるとか思ったためしはない。不思議な事にな」

(それを思えば、こいつにも囲碁仙人としての素質はあるんだがなぁ。

むしろ私の後継者になってくれてもいいのに)

ちらり、と爛柯はまおを見る。まおは、素知らぬ顔だ。

「あれ? 小田先生だ」

「ん?」

弥生はふと立ち止まる。見れば、先ほど、自分達に作業を押し付けようとした教諭だった。

「うちの店に入っていく」

「うちの店?」

見れば、お洒落なパフェ屋があった。昨日には気がつかなかったが。

爛柯達の住む店の前に立っている。

『パフェ・飛車』

爛柯は、その店の名前を呼んだ。

「飛車、と言うと将棋の? まるでラーメン屋のようなネーミングだな」

「うん、まぁね。もともとがラーメン屋だったから」

「しかし、漢字のネーミングとしてはいささか派手な店だな」

「一応、本店は原宿にあるしね。でも、小田先生、なんの用だろう。

私が作業の事文句言ったの家に言うつもりかな」

「そういう雰囲気じゃなさそうだな」

「様子を見てみるか」

爛柯は念の為、携帯の電源を入れておいた。

先刻は、何の反応もなかったはずだが。

「しかしなんで、いきなりラーメン屋から方向転換したんだ?」

「私にもさっぱり。原宿にあるようなパフェだったらもうかるから、と言うんだけど、

この参道の店の並び見ても、浮いてるんだよねぇ」

「確かになぁ」

どちらかと言うと、昔風の建物が並んでいる界隈に、新しく建てられた現代建築の

派手なデザインは自分から見ても浮いているとしか思えなかった。

(まぁ、仙界の派手さよりはまだまだだが)


こっそりと、3人で、店の入り口で耳を聳てる。

木の扉なので、物音を立てない限り、中からは分からないはずだ。

「であるからして、このお店を元のラーメン屋に戻してくれないかと町内商店街全般の意見なのですよ」

「なんですかあなた。確かにこの地区の学校の教諭のようですが、商店街にまで

口を出す権利とかあるんですか」

「娘さんの所業についてちょっと話をしたいということもありましてね」

「何っ」


「なんだこれ・・・」

弥生は怒りを露わにする。

「店と私の所業と、全然関係ないじゃんかっ」

「し、おとなしくっ」

立ち上がった弥生の頭を、まおは押さえつける。

『黒石発見!』

その時だった。爛柯の携帯からアラートが鳴る。

「え、なに、今の!?」

「あー、これ、私の携帯の着信音だ。気にするな」

「気になる! 私も欲しい!」

「まさかとは思うが、あの教諭ではなく、ここの店の?」

いきなり方向転換になった、というのも黒石の影響か。

「うーむ。どうにかして、あの店長に囲碁の試合を申し込みたいものだが」

「それならさ」

まおがにやっと笑う。

「丁度こいつの所業についてやりとりしてるんだ。

それを理由にすれば」

「なるほど。教諭をなんとかすれば、晴れて店長に勝負を申し込めると」

「そんなところか」

「爛柯ちゃん、こんな時に囲碁の勝負したいとか。ちなみにうちの店長・・・

っていうか父さん、囲碁知らないよ?」

「えっ?」

「だとしたらさ、もっといい方法がある」

まおは親指を立てた。

「あいつに携帯を渡してその隙に勝負を申し込ませりゃいい。少なからず、

俺達が囲碁部じゃないのに囲碁を知ってるって分かってたんだから」

「でも、タイミングは?」

「いきなり入るのも、だが」

「あっ!?」

その教諭が、無謀にも、店のチラシを破り捨てるのが見えた。

「ちょっと、先生、やりすぎだよ!」

「そうだぞ、先生でもやっていいことと悪いことがあるぞ!?」

まおは、いささか言っていて恥ずかしい気がした。

「せめて、本人の携帯でやりとりしてくださいっ! 恥ずかしいっ」

弥生は自分の携帯を教諭に手渡した。

「なかなかいい手筋だぞ」

爛柯は褒める。店長から渡すよりもその方が容易い。

「先生とやら、弥生の電話番号を知りたければ、囲碁アプリを私と

勝負してからにしてほしいっ! もしそちらが勝てば、

店の趣向なり、弥生の所業なりどうとしてもかまわないっ」

「え?! 爛柯ちゃんそれはないよー! お父さんもびっくりしているよー」

「ほう、囲碁の勝負か。久しぶりに腕が鳴るな」

「あ、爛柯ちゃん、私、そう言えば爛柯ちゃんと同じアプリ入れてるか

知らないよ!?」

「大丈夫だ。もうすでに入れておいた」

「いつの間に!? 全然見えなかったよ!?」

「とりあえず、いざ、尋常に、勝負!」

「うむ」

勝敗は、すぐに決まってしまった。

その瞬間、黒石が、意外にも、店長、小田教諭、そして、弥生からも回収されたのだった。


「まぁ、先生や商店街の皆様の意見も取り入れる事にするかね」

その後のやり取りはスムーズに進んだ。

「父さん、いきなりラーメン屋からパフェ屋に宗旨変えはないよっ。私だってびっくりだよっ」

「考えてみれば、そりゃそうだわなぁ。なんでわしも、いきなりパフェ屋になんか

したくなったものやら」

「ありがとうございます。これで、参道に来る皆さんも、入りやすくなるでしょう」

「そうさねぇ」

「せめて、ラーメンをメインにして、パフェをサブメニューにしようよ!」

「それが、妥当じゃろうな」


はっはっはっはっ、と一同は和やかに笑いあっていた。


まおと爛柯はその隙に店から静かに退散する。


「まさか、あの3人に黒石が紛れ込んでいたとはなぁ。分からぬものだ」

「でも、一気に3つも回収できて良かったじゃないか」

「しかし、なんだな。ラーメンとパフェを食べながら囲碁も打てるお店にするとは

あの教諭もなかなかいい意見を言うじゃないか」

「おかげで、ライバル店増えたけどな」

「そうなるのか。それはすまなかったな」

「そんなことないさ。ライバルはいればいるだけ面白いしな。それに、

囲碁人口が増えるのは悪くない」

「まったくお前というやつは」

得体のしれない可能性を秘めているのかもしれない。

「しかしまぁ、下界の暮らしも、悪くない気がしてきた」

「そうか。でも、さっき、弥生にしていたあの話」

「針の話か。よくある事だ。仙界では特に、な」

「あんたの手」

「なんのことかな」

「右利きのつもりでいるようだけど、動かせないんじゃないのか? 左手」

「……まさか、会って間もない人間に、気がつかれるとはな」

爛柯は下を向く。

「こっちこそ、すまなかった。気を悪くしたろう。贅沢ものめって」

「それほどでもない」

「その、さ。あんたは左手が使えないのかもしれないけどさ、

その、使ってもいいからな。俺の左手」

「囲碁を打つ分には不自由しないよ」

「そんなこと言うなよ」

まおに正面から向かわれた。

「年齢の事は置いといてさ、あんたの見かけは俺達と変わらないんだからさ。

同じ年ぐらいに見えるじゃん。だからさ、等身大でいいんじゃないか?」

「等身大」

「そうそう。仙女、とかさ。碁石の回収は大事なことかもしれないけどさ、

それ以前に、囲碁が好きって気持ちをなくしたら、一番それが肝心だと

思うわけだけど」

「まぁ、一理あるがな」

「素直じゃないねぇ」

「うるさいっ」

「もしかすると、副店長も、すぐに気がつくかもしれないけど、

あの人そういうことあまり言ったりしないでさりげなくフォローしてくれるからさ」

「……」

「あらためて、力を貸すよ、爛柯」

「ありが、とう」


「ただいまっ!」

「お帰り、二人とも」

そこには、副店長の笑顔が待っていてくれたのだった。

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