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仙女の碁盤!  作者: あべもちけい
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第2話 囲碁カフェ『爛柯』の危機

「困ったなぁ」

俺は、今日も誰も来ない店の中で盛大にため息を吐いた。

夏休みの期間中、修行の一環も兼ねて、アルバイトとして囲碁カフェで働きに来てみたものの、

ここ最近、お客が閑古鳥である。

むしろ、サクラでもいいから、アルバイトの俺が飲み物を注文しようかと思うほどだ。

「これはさすがに・・・なぁ。宣伝にもなるからと言って、みんなで執事とかメイドとかにもなってみたものの」

むしろ、衣装代の方が高いのでは。赤字なのでは。

店長も、数日間海外へ研修に行ったり、副店長(店長の奥さん)に任せたりとかしている。

「ねぇ、副店長、これはもう、神頼みしかない、ですよねぇ」

明日から来なくてもいい、と言われた方がむしろすっきりする。

「おーい、むしろ君。そんな顔しないしない。仏様逃げて行っちゃうぞー。ここは神様よりも仏様だろ?

仮にも参道なんだから」

「まぁ・・・そうですが。それに、俺の名前は”むしろ”なんかじゃありませんよ」

「えー、口癖だから名前なのかと思ってたー」

「じゃ、仏様に頼んで来ます!」

「うん、いいよ? それも仕事の内容なら時給もこみでいいからね!」

・・・いいのか。客来てないのに。

俺はやれやれと思いながら、カバンを背負う。

「なんか、飲みたいものでもあります? 冷たいのとか。このお店にないやつで」

「そうさねぇ・・・碁石茶なんていいな!」

「そんなレアなお茶、この辺じゃ売ってませんってば! それこそこのお店に仕入れたらいいんじゃありません!?」

「あ、それもありだな。いいセンスしてるね。・・・天元まお君?」

「名前、憶えてるくせに」

「悪い悪い。君、いじりがいがあるからさ~♪」

「・・・はいはい」

俺は、ため息を吐く。この人、悪い人じゃあないんだ。悪い人じゃ。

「それにしても君、なんでこのさびれたカフェなんかでアルバイトしてるの? 君ぐらいの人なら、

もっと違うところに行って活躍できるんじゃない?」

「強い弱いだけが、勝負じゃありませんから」

俺は、一瞬、立ち止まる。

「君は、継続は力なり、の星の持ち主なんじゃないかな? それも立派な才能のうちだと思うよ?」

「とは言いますけどね」

結局のところ、それだけじゃ道は開かれないのが現実だ。”好き”だけじゃ仕事にできない。

「俺、プロじゃないですもん」

「いい出会いが君には必要なのかもしれないね」

「出会い、ねぇ」

それこそため息を深く吐く。

高校生にもなって、部活にも入ってないし、スポーツだってしていない。

図書委員にはなっていたりもするが。

「それこそ、なむあみだぶつ、だな」


俺は、真夏の日差しが差し込む中、自動販売機でサイダーを買いこむと、参道のど真ん中にある

大きな寺院へと向かった。創立から何百年も経つという歴史ある寺院だ。

「何度も通ってるんだけどなぁ」

書道の作品だって展示してもらった事がある。銅賞だったりしたが。


「えっほっはっ!」

段差のきつい、階段を、勢いをつけてジャンプする。

(んー、やっぱきついや)

毎回一気に天辺まで駆け上がれない。

「ジャンプはやめとこ」

俺はゆっくりと登り終え、本殿で拝んだ後、ふと、脇にある小さな塔に、何か光るものが

落ちたような気がして慌てて駆け寄った。

「なんだ? 今の?」

俺は、恐る恐る、裏手に回る。何か空からガラスの破片でも降って来たか?


「あいたたたたたーーーーー」

「!?」

見ると、そこには得体の知れないコスプレ少女が腰をさするように座り込んでいた。

「囲碁に関係のあるものだからって、仏塔の飾り物に堕ちなくってもいいのに!!!!

仙人もびっくりするわ!」

「・・・仙人!?」

仙人と言った。仙人と言ったぞ、このコスプレ少女!?

「おいおい、人を痴女のように見るな、たわけ。仙人と言っても、仙女じゃ」

「仙女!?」

俺は動けなかった。いろんな意味で。どうしよう。こんな出会いなんて嫌だ。

「わが名は『爛柯』。仙界から来た仙女だ。お前の名は?」

「・・・天元まお」

俺は、逃げるチャンスを見失い、腰を抜かした。

その拍子に、手に持っていたサイダーが転げ落ちる。

「ん? それは何かの飲み物か?」

「のど、乾いてるんです?」

「うむ」

「どうぞ」

「ふむ。根はいい奴みたいだな。多少、『現代でイメージされる天女の話し方』

とか意識してみたものだが。やはりこの姿だとけったいか?」

「えぇ、とても」

まぁ、そんな俺も、執事姿の恰好のまま、バイト先から来てしまったわけだが。

「じゃ、そのサイダーに描かれているような恰好にしてみるか」

「そ、それは水着だからもっとだめ!」

「うっとうしいなぁ」

彼女は、遠目で参拝客を眺めたようだ。

「うむ。今時の服装はあんな感じなのだな。シンプルでよいな」

年相応の、高校生が着こなしていそうな私服になってくれて、ほっとする。


「で、あなた、本当に天女なんです?」

「まぁ、そういうことになるな。今は人の姿に擬態しているが」

「試しに証拠は?」

「空なら浮かべるが」

ふわっ、と少女は宙に浮かんだ。手品でもマジックでもなさそうだ。

「えーと。・・・何をしに、下界へ?」

「話は長くなるが、私は実は囲碁を司る仙女でな。囲碁と言ってもただの囲碁ではない。

宇宙の全てを司る碁盤を管理している仙女だ。その碁盤の黒石がな、盗まれたのか

消えてしまったのか行方不明。その石を回収せねば、世界が危機、というわけなのだが」

「ふーむ・・・」

「して、おぬし、『爛柯』という言葉に反応した、ということは、『爛柯』が何か知っている

ということか」

「まぁ、多少は。店の名前でもありますし」

「店?」

「俺のアルバイト先なんですが」

「食べ物の店か?」

ぐぅ~~~~と、盛大に腹の音が響いた。

「仙女って、なんかご利益ありますか」

「仙界にスカウトできる」

「・・・興味ないや」

「ちょっと待て!」

「なんなんですー?」

俺は、とっとと店に戻りたかった。

「飯、食わせろ」

「・・・・・・」

俺は、とりあえず副店長におしつけようと考えた。面倒ごとはごめんだ。

「ま、道中事情は聴きますよ」

俺は、天女と名乗る少女と共に、店に戻ることにした。

その前に、仏塔を見上げる。

(あ、あれか・・・・・・)


そこには、囲碁を打っている人々? の姿を象った彫物が飾ってあったのだった。

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