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異能管理職  作者: 秋
9/9

だけどピースは見つからない 『2』

 お化け屋敷の中に入ってみると予想通りというか案の定、辺りは暗黒で何も見えない。

 黒川支部長はポケットから小型の懐中電灯を照らし、ササっと歩いていく。その後ろを安藤がゆっくりと携帯のライト機能を使いながら付いて行く。

 辺りに引っかかるような場所は少なく曲がり角などの方向転換場所だけに、下に蛍光灯を設置していることからここのお化け屋敷は音で脅かしてくるタイプであることがわかる。だが今回は遊びに来ているわけではなく、遊園地自体今日は休みにしてもらっている今、音などの脅かしは無いだろう。

 しかし、なぜだろうか? どこからともなく声が聞こえるような気がするのは。


「中島さん! い、今何か俺たち以外の人の声聞こえたような」


 暗黒の中をライトで照らしながら首をキョロキョロと動かして辺りを警戒、もとい中島の姿を探す安藤。体は震え、瞬きの回数は無意識的に増加し、息が荒くなっていた。

 ーーあと一つ、どこにあるの?

 さっき聞こえた声と同等のモノかは不明だが、今回の声は確実に三人にはしっかり聞こえていた。若い男児の声だ。その声はどこか哀しそうな声でひっそりと呟いた声に聞こえた。


「安藤君、黒川支部長に追いつくわよ。私の手を握って!」

「は、はい!」


 中島は安藤の姿を確認すると、手を握るというより腕を掴み支部長がいる部分まで走る。

 支部長の姿を確認すると足を止め、お互いの状況などを確認しあう。三人共同じように声は聞こえていたので特に食い違った意見はなく、すぐさま状況を理解した。

 理解したのと同時に声の主の探索を始めた。

 声の方向はわからないがどこかにいるのは確かだった。それは説明できるほど立派なものじゃないけど、感覚的にわかることだった。

 棺桶、風呂場、墓地など、様々な場所に見立てた脅かしスポットを隅々まで探索しながら出口へと、一歩一歩確かに歩んでゆく。

 そしてーー。

 入口と乱雑に大きく赤い字が書かれている鉄製の扉が三人の前に堂々と立っていた。

 単なる書き間違いか? それとも元々のお化け屋敷の演出か?

 支部長は可能性を脳内で巡らせたが覚悟を決め息を大きく吸い込み、扉を勢いよく開いた。


「君たちのピースを貸してよ」


 先程と同じ男児の声が確実に耳に入る。それと同時に何か重要な、重要な何かが消えていくのを三人は感じた。




 嬉しい。

 何が嬉しいって? 今ここにいることが嬉しいのだ。『安藤 圭一朗』という名前があることが嬉しい。

 お化け屋敷がさっきまで怖かったのが嬉しい。怖がっていた感情が嬉しい。

 嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい、嬉しいッ!!


「イヒヒヒッヒヒィ……イヒヒヒヒ」


 口から笑みが零れる、嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。心の底から嬉しいって感情が湧き上がってくる。この状況が嬉しいんだ!

 そういや黒川支部長と中島さんはどこにいるのかな。……一人か。一人でも、いや一人だから嬉しいのか。嬉しい!

 何度も何度も何か問が生まれる度に答えが嬉しさで俺は埋め尽くされていた。

 この『嬉しい』のループから抜け出そうとしたのは数時間後だった。

 顔を光で照らされ眩しさで目を薄く閉じようといた時、光は足元に移され俺に問いかけてきた。


「……安藤か。今の状況はわかるか?」


 その光の正体は、黒川支部長によって照らされた明かりの様だ。顔ははっきりと見えていないが、恐らく声色から察するに悲しみに暮れているようだ。でも、今の俺にはそんな支部長にも嬉しさが湧き出てくる。こんなに悲しそうにしながらも、体を無理に動かしながらも俺を見つけ出して声を掛けて来てくれたこと、それが嬉しくてうれしくて仕方ない。


「……安藤。聞こえているか、正気を持て」


 支部長はまたも悲しそうに、悲壮感溢れる声で俺に話す。溜息を吐いて、よく見ると懐中電灯の光は震えていた。それは支部長の手が震えていることを表していた。

 俺はこんなに嬉しいのにどうして支部長はそんなに悲しそうにしているんだ? どうして悲しそうにしているんだ。どうして。

 さっきまで心の底から嬉しかったはずなのにどうしてなのか、今は表面上は嬉しいように感じているかもしれないがその裏では表の自分を冷たく見ている自分がいる。本当にその感情は自分のモノかと。本物なのかと。

 その事を自覚しつつも、この感情を捨てきれないのはなぜだ? それほど()()()という感情は失いたくないモノなのか? わからない。わからないが、今の状況をあまり良く思っていない自分がいることだけは確かだ。それでどうするのだ? その自分がいて、それで?

 わからないよ、黒川支部長。どうすればいいか、教えてください。なぜ、俺まで悲しんでいるのかを。

 それでも嬉しくて俺は笑っている。狂ったように、ただただ嗤っている。

 そしていつかは裏側も笑ってしまうのだろう。(うれ)しくて。

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