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異能管理職  作者: 秋
8/9

だけどピースは見つからない 『1』

 今日も今日とて四番の異能特性について調べるのかと思いきや黒川支部長は溜息交じりに息を吐く。その溜息は部下を思っての事なのか、単なる仕事への疲れなのかは知る術などない。

 しかし疲労しているのは誰の目から見ても明らかだった。目の下に隈がくっきりと浮いているからだ。それに行動の一つ一つが明らかに鈍足でメリハリが付いていない、それも問題だが、時々どこかを眺めて黄昏、悩んでいるようにも見える。


「黒川支部長、どうしちゃったんですか。いつも元気に溢れてるわけじゃないですけど元気ないですよ。怪我が治ったばかりの俺達より」


 安藤が支部長の異例な行動に対して質問を投げかける。

 しかし、その質問は支部長の脳まで到達していないらしく、返事もなくずっと机の上の書類を見ている。三番、電話の向こうへの書類だ。

 支部長は三番を取りに行ってから数日はやる気に満ち溢れているのか、書類を整理したり、掃除を行ったりする勤勉な勤務態度であったが、ここ数日で急に活気がなくなったような言動ばかり繰り返している。


「黒川支部長ってもしかして、何も管理するべき物が届かないからって暇してるんじゃないの?」

「そんなこと言われても困るっすよ」


 中島が推察するが、そのことについての答えは出ない。ただ単に、もしそうだったとして解決する方法を持ち合わせていないと答えることしかできない。黒川支部長が今どう思っているのかを発言してくれない限り答えは出ないのだ。

 でもその推察はあらかた当たっているだろう。実際に支部長の心の中では思いを背負って立ち向かっていこうと決意した後なのに、何も管理するべき物がなくてその決意を表明できなくていたたまれないのだ。

 そんな中、一本の通知音が支部長のポケットから鳴り、支部長の脳が覚醒するのを、観ていた二人は恐らく気づいたであろう。

 瞬時にポケットに手を入れ、素早く携帯を取り出すと画面をタップし応答する。その動きはさながら片思いの相手から連絡が来た中学生である。

 だが、その思いは儚く散ったようでさっきまで輝いていた瞳は沈み、暗くなっている。その暗い瞳はさっきまでの支部長よりも、もっと暗く感じ落ち込んでいることが目に見えてわかる。


「わかった今すぐに向かう!」


 突然、何かに気がついたようで真剣な声音で返事をすると電話を切った。そして携帯をポケットに収め、安藤と中島に向かいあい質問する。


「今から空間に異能が発生している場所、異変現場に向かう。そこは何が待っているかわからない場所だ。死ぬかもしれない。それでも付いてこれるなら十分後、門前で集合だ」

「わかりました!」


 今日は管理することはないかもしれない。

 だけど、今日が忙しい一日になることを想像するのは容易な事だった。




「そういえば目的地はどこなんですか?」


 今は車で移動をしている最中だが、安藤がまだ目的地を聞いていなかったことを思いだし、支部長に対して質問する。そのことは中島も思っていたらしく、興味ありげに支部長の顔を覗き込むように見ている。

 その二人の意欲的な態度に少し困惑しながら支部長は顎に手をやり、そうだなと元から知っているのに何かを考察している風に話す。


「場所は遊園地、ミンシアランドだ」

「ミンシアランド?」


 山奥に遊園地なのにひっそりと営業している特筆して何かあるわけではない遊園地だ。訪れる人も少ないため、今では認知していないのが普通となってしまった場所だ。何かいいところを挙げれば人がいなくて地味に広いところなので子供とか連れて行ったら喜びそうなイメージはある。今も営業しているかわからないが。

 支部長はは車の助手席に座り中島と安藤が後ろの席に座っていたので、後ろに体を振り向かせながら話していた。ちなみに運転しているのは会社の一般の運転手である。

 しかし安藤もわからない側の人間であったような反応を示したため説明しようと思ったが、案外説明するのが難しく考えていると、中島は知っていたようで携帯で画像を素早く検索し見せながら説明していた。中島は真剣に説明していたので気が付いていないが、安藤は女性に疎いのか、中島が携帯を見せるために体が近づいたことに照れ、顔を朱く染めていた。

 到着までは残り数分程度。

 この数分間で異変というモノの存在の可能性と、今回向かうことになった経緯を支部長が二人に話していた。その話をうんうんと頷きながら中島は聞いているが、安藤は所々首を傾げ理解していない様子だったが、その度に中島に細かくわかりやすく解説してもらい理解していた。

 なんだかんだでこの二人は仲が良くていいコンビだなと黒川支部長は安堵していた。


「到着しました。ミンシアランドです」

「運転お疲れ様、そしてありがとう。私達は今からランド内に向かうので先に帰っておいてくれ。帰りはタクシーでも拾って帰るから」


 駐車場に入って数十秒で停車し、運転手が支部長に向かって話した。支部長はそれに対して感謝の言葉を述べ車の外に出る。勿論、安藤と中島もそれを見て外に出た。

 まだまだ空が明るく太陽が眩しい昼。空は雲一つない晴天で山奥にいるためか空気が美味しく感じる。普段の都会の空気よりやはり山の中の空気の方が美味しい。


「ではミンシアランド内に向かうぞ。上からの話だと、今は不在。誰もいないらしいから存分に調査、探索してくれ。だそうだ」

「上って毎回思ってたんですけど、何者なんです?」

「安藤、私も正体が気になっているが上は上だ。それ以上も以下もないんだ」

「……わかりました、諦めます」


 上の正体は今のところ全くの検討もついていない。そんな未知な者からの指示に従っているのはおかしいと思っているのだが、これが仕事だから仕方ないと割り切るしかないのだ。支部長はいつもそうやって割り切ってきたのだから。

 知的好奇心を満たせなかった安藤は少し落胆していた。だが、すぐに元通り元気になるだろう。今まで仕事でこれといって成果がない安藤はそのことを気にしているようだ。今回こそは! と意気込んでいたのを中島は毎回聞いている。

 中島は今度こそ誰も怪我を起こさずに帰る、と意気込み、黒川支部長は部下と電話の向こう側の安全を留意してランド内へと足を運ぶ。

 各々の仕事への意気込みが高まりつつも今回も落ち着いて仕事に臨むのであった。


 中に入ると目に入る数々の遊具、遊具、遊具。ありふれた物から見たことのない物まで揃っていて中々楽しめそうな場所だ。しかし塗装が剥がれ、汚れていたりする遊具達を見ると少し気分が落ちてしまう。

 中でもお化け屋敷は外装はボロボロ、外に置いてある看板の文字なんて読めたもんじゃない。あ、元々こんな見た目だったら申し訳ない。


「お化け屋敷、かなり雰囲気出てますね。……本当に何か出てきそうです」


 中島が支部長に向けて発した言葉が空を舞い、耳がその言葉を吸収するとお化け屋敷に視線が集まる。支部長は勿論だが、安藤も視線をそちらに向けて少し震えていた。もしかしたら安藤はお化け屋敷が苦手なのかもしれない。

 しかし支部長の目的地はお化け屋敷の中のようで、そちらに向かって指を指して足をそちらに向ける。それに習い中島もついて行くが、安藤は足を止めてしまう。


「もしかしてお化け屋敷に行くんですか?」

「あぁ、そのつもりだが問題があるのか」

「出来れば外で待機って」

「外で待機する必要を述べることが出来たら許そう」


 お化け屋敷の数メートル手前で三人の足は止まり安藤の正当化の意見を二人は待つ。

 安藤はうーんと唸りながら頭を掻いて考える。別に頭を掻く行為自体は思考力の向上効果なんてないのだが、頭の色々な部分を掻いて何か閃いたようだった。


「中から何かが逃走したモノを追跡しやすいとか!」

「よし、では私が先に入るからその次に安藤。最後に中島頼めるか?」

「はい、任せてください! 安藤君、しょげてないで早く行くわよ」


 黒川支部長は先に闇に包まれたお化け屋敷の中に入っていく。その後ろを安藤の背中を押しながら中島がゆっくりとついてくる。

 今日は忙しくなりそうだ。

 この勘はきっと当たるだろう。願わくば平和に忙しくなることを望むだけだ。

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