表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能管理職  作者: 秋
1/9

幸か、不幸か 【1】

 ーー今日が君の初仕事だ。日本支部では()()と名付けられた物のようだ。別に一番と君も読んでくれて構わないが、どうせなら名前を付けてやれ。収容難度、危険度、そして異能力の内容の報告は一週間が期限だ。後は自由にやってくれて構わないよ。そうだ、君には部下が数人必要だろう?手始めに二人をそちらに送る。この部下達も自由にしてくれて構わない。とにかく、期限は守ってくれよ。女だからといって言い訳だけはしないでくれよ。


「今日から着任する安藤(あんどう) 圭一朗(けいいちろう)です!」

「同じく、中島(なかじま) 恵子(けいこ)です」


 深々と颯爽なお辞儀をするこの二人は、上が言っていた二人の部下なのだろう。二人とも姿勢が良く、若く、まだまだ元気な様子が窺える。そのことから恐らく初めての現場だと私は推測する。

 私は二人の姿や表情を数秒観察し、仕事のやる気に満ち溢れている二人の表情に溜息を洩らし挨拶に入る。


「私の名前は黒川(くろかわ)。黒川支部長と呼んでくれ。給料が多くて休みも多い、だが仕事内容は精神に辛い内容が多い。体調が悪くなったら直ちに休憩してくれよ」

「分かりました!」


 二人はまた元気に声を出した。特に安藤は声を張っていた。私の言葉に対する返事を終えると、あのと安藤が声を掛けてきた。


「あの、今日からどのような作業をするのですか?」


 そういえば、研修というものがなかったなこの秘密結社は。化粧品会社という名目で募集させてより理解度、関心が高い者だけがこちらに来るのだったな。それに今日が日本初だから知る余地もなかっただろう。


「付いてきてくれ、今日から三人で実験をするモノが届いている」


 私はその目的の場所へと歩き出した。その後ろから安藤と中島が並んで付いてきていた。その最中に目立った会話はなく、チラッと後ろを見ると二人が緊張して歩いるのが見えた。

 目的の場所は二階のとある一室。真ん中にポツンと置いてある机の上に、手のひらサイズの小さなケースが設置されていて、後は端にノートパソコンの置く用の机に椅子。ただそれだけだった。

 私はリングケースに近づくとそれを開いた。内容物は先に簡潔に報告されていたので躊躇いなく開くことが出来た。内容物は五百円サイズの一枚のコインだった。

 そのコイン裏表の面には絵が描かれていた。表面だと思わしき面には、頭の上に輪が浮いていて羽の生えた人だった。逆側の面は頭から角が生え、口からは牙を出し不敵な笑みを浮かべている人だった。言わば天使と悪魔である。


「今日の業務はこのコイン、一番を指で弾いて頭上に投げる。そして表裏どちらが上に出たか、そして身辺の変化を記入。身辺の変化は一応自宅に帰ってからのことも細かく書くこと」

「家に帰っても仕事は続くんですか?」

「まあね。でも世間で言われているコイントス一回で仕事が終わるのだから文句は言わないでくれよ」

「え? 一回!?」


 安藤はそのことを聞くと、嬉しそうな表情をして驚いた。その様子を中島は溜息を吐いて見守っていた。

 安藤は落ち着きがなくて、どのようなことが起こるのか考えていないが、中島は冷静に考えているのだろう。中島は真剣な目つきで私に質問を投げかけてきた。社会人としての自覚だろうか、初めから仕事への熱意が視線だけで伝わってくる。


「黒川支部長と安藤が投げて表と裏に別れた場合。私はコイントスではなく単純に投げて観察してもよろしいでしょうか」

「あぁもちろんだ。むしろ、そうしてくれると助かるよ」

「黒川支部長! 俺から投げてもいいですか!」


 右手を高々と挙げ元気な声で安藤が提案する。


「もちろん。では……始めてくれ」

「行きますよ! ほい!」


 ピンッという音を鳴らしコインは回転しながら跳ねる。コインは安藤の目線ほどまで上がり、地面に落ちて何度か跳ねながら移動した。

 コインは裏を上にして停止した。停止時、私と中島は辺りをキョロキョロと見渡し、何か変化がないかを確認する。部屋に変化はないようだ。これも報告通りだった。


「安藤! 何か体や周りで変化はあるか!」

「変化? 特にこれといって、何もないです」


 特に体に関する変化はなし。安藤は身体検査で正常となっているから少し心配したが、問題なかったようだ。身辺の変化もないことからここでは、まだ『特異性』はないようだった。

 次に私が投げ表が出たので、中島はコインを握って投げ、頭上まで到達した。結果は表だった。

 全員が済ませた結果、特にここでは変化はなく、この部屋を出てから身辺で何か起こっているか細かく記載するように命じ、今日の所は解散した。解散を命じてから安藤はカバンを持って素早く帰っていったのに対し、中島はノートパソコンを起動して今日の内容を記載していた。私も中島の様に、実験内容を記載した。


「黒川支部長、お先に失礼します。明日からよろしくお願いします」


 彼女は礼儀正しくお辞儀をすると、ゆっくりと短い歩幅で歩いて帰っていった。その姿を視線で見送り終えると、私もカバンを持って支部長室に向かった。

 支部長室は上からの指示で作られた部屋で、アパートの一室と同じ造りになっている。以前、どのような部屋にして欲しいと言われた時『アパートの一室みたいに利便性のよい部屋』と、答えると本当にそのまま再現してくれたのだ。

 私は支部長室に入るとポケットから鍵を取り出し、フックに投げた。普段ならこんなことをしないのだが、報告通りならば、鍵についている輪がフックに入ると信じていたからだ。

 結果はフックに入った。

 私はこの出来事を報告書にまとめると、報告されていた内容を思い出した。

 ーーこのコインは運勢を操るコインである。

 恐らく表が幸運で裏が不幸なことが起こるコインだと私は推測する。私はフックに直径五センチの輪を付いた鍵を投げた所、フックに輪が入った。中島は帰りに自動販売機で当たりを引いた。安藤はいつも通り家のドアを開けたつもりが、中から母親によって開けられ中指が突き指をした。この事から、このコインは運勢を操る特異性を持ったコインだと思われる。そして投げ方は関係しないようだ。


「今日は二回表か二回裏が出るまでコインを投げ、三連続裏が出た場合中止だ。中島。三番目ぐらいに大切な物、持ってきたか?」

「はい、この母が編んでくれたマフラーです」

「そうか、因みに私はぼったくりで買わされたこの五万円のマグカップさ」

「ふふ、なんですかそれ」


 二人で軽い談笑を交えつつ、チラッと安藤の方向を見る。安藤は一応は来ているが突き指で報告書を書けないことから黙って見守っている。

 私と中島は交互に投げて実験を行った。結果は最初に中島が表、私が裏、中島がもう一度表で、最後に私が裏だった。

 正直私が裏を二回引いて幸運だったと安心した。私のマグカップより編んでくれたマフラーの方が、価値が高い風に見えたからだ。こんな甘い考えは捨てたつもりだったが、安堵で溜息を洩らしてしまうあたり、まだまだ子供ということだ。


「では、マグカップを持つので見ていてくれ」


 私は安全靴に履き替えると、二人に観察してもらいながら把持した。すると、マグカップは罅が入ってボロボロと崩れていき、把持していたはずが地面に落ちて割れていた。

 手に少し破片は刺さったが、安全靴を履いていたため特に怪我はなかった。怪我はなかったが、五万円のマグカップが割れて落ちているのを見ると、少し落ち込んだ。

 三人で掃除を終わらせると、今日もコイントスだけして解散になった。相変わらず安藤は直ぐに帰り、中島は報告書を書いていた。

 複数回行った場合、さらに幸運と不幸の運勢の幅が大きくなる。私は五万円のマグカップを割り掌を切り、中島は帰りに五百円スクラッチを買ってみた結果、一万円が当たった。このことから、追加で行った場合は同じ表面の回数が多ければ多いほど幸運に、不幸になることが判明した。

 今日の実験の最中、私が中島が二回裏を出さなかったことに幸運だと思ったため、一番の名前を付けるならばこれにしようと思う。


 ーー幸か、不幸か

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ