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第6話 早い再会

前回のあらすじ

 依頼を達成したラームは協力してくれた幹二を置いて、復讐の旅へと戻っていった。

 一方、置いて行かれた幹二は村人たちに歓迎されるも、自分自身の状況を鑑みて不安で押しつぶされる。

 失意の中、村を出ようとする彼だが村人たちの好意とラームの言伝に少し元気をもらい次への一歩を踏み出そうと旅に出たのであった。

「む〜」


 ラームは唸っていた。

 今、彼がいるのはカルラスの武具店で、ボロボロになってしまった革鎧を買い替えにきたのだ。

 そして彼の目の前には二つの鎧が置かれている。

 一つは前まできていた革鎧と同じソウチョウの革でできた鎧。

 こちらは軽く動きやすく安い。


 そしてもう一つは一見すると服のような見た目の鎧。

 俗にブリガンダインと呼ばれるこの鎧は服の裏地には金属板が縫い付けられており見た目以上に硬かった。

 ラームの目線はこのブリガンダインにいっていたのだが、財布の中を目にして彼は躊躇をする。


 「か、金が……」


 このままでもブリガンダインを買うことは可能だ。

 だが、購入すれば全財産が吹き飛んでしまう金額だった。

 村長からもらった報酬までもが犠牲になるほどの出費を強いられる。

 対するソウチョウの革鎧は安く、半額で済む。

 命を預ける鎧。金を取るかか防御を取るか。

 どちらを犠牲にするかラームは決断しなければならなかった。


 「僕はどうすれば、あ、ああああ……」


 数分後、武具店から出てきたラーム。

 その時の彼は新品のブリガンダインを身につけ、苦笑いを浮かべていたという。


 酒場に入ったラームは掲示板へと足を運ぶ。

 こういった掲示板には傭兵などにむけられた依頼が多く貼られており、傭兵はそれらを見て仕事を受けるのである。

 しかし今日は様子が違った。

 

 「依頼がない……」


 カルラスなどの大きな町でこういった状況は珍しいことだった。

 ラームは大きくため息を吐く。

 仕方なくカルラスでの依頼を諦めて次の行き先を決めるために地図を開いた。


 カルラスの近場で大きな町は三つ。

 一つはベイリア。

 カルラスから東、ベイル湖を挟んで向こう岸の町。

 二つ目はロスピリス。 

 西に位置し、この辺りでは随一の港町。

 三つ目はカルラ森林を北上し、ベイル高原の麓に存在するカクルという町。

 

 ラームはカクルを元から視野に入れていなかった。

 なぜなら、カクルの依頼はベイル高原であることが多い。

 そして、この時期のベイル高原は雪解け期で凶暴な獣が少なく駆除や護衛などの依頼が少ないことを知っていたからだ。

 残るは二つ、ラームが選んだのは。


 「よし、ここにしよう!」


 カルラスの対岸の町ベイリアだった。

 ロスピリスは先の二つよりも大きく商人も多い。商隊の護衛などの魅力的な依頼も多い。

 だがそういった依頼は人手を多く必要とされ、基本的に傭兵団といった団体が引き受けることになる。

 少し名は知られてきたといえど一人で傭兵をやっているラームは見向きもされない。


 だが、ベイリアは周辺に多くの村が存在しており、薬草摘みをはじめとして様々な依頼が舞い込んでくる。一人でも受けやすい依頼が多いのだ。一文無しで今すぐにでもお金がほしいラームには打って付けなのである。

 そうと決まれば行動。彼はベイリアに向かうために通り道の北のカルラ森林を目指すのであった。


───


 ラームが目的地を決定して数分後。

 その頃、幹二はカルラ森林の街道を歩いていた。

 彼はいつも着ているTシャツの上から村でもらったオサ・カルロウの毛皮を羽織(はお)っている。初めてまとった毛皮の毛並みが触り心地が良いのか何度も触っていた。

 側から見れば野盗に間違えられそうな見た目のまま、彼は気づかずにずんずんと森の街道を進んでいく。

 カルラ森林内は小鳥がさえずり、時折幹二よりも背の高い木々の間からこもれ日が差してくる。

 この世界に住む者であれば何の変哲もない光景であったが、異世界人である彼にとってはそれが新鮮に映ったようだ。

 しきりに周りを見渡し、見たことがないものがあれば確認しに行く。


 「すっげぇな」


 初めて見る木々、初めて見る草、そして初めて目にする動物に幹二は好奇心旺盛な子供のように目を輝かせていた。

 そんな彼の前に一匹の小動物が躍り出てくる。

 小さくもずんぐりとした体は茶色の毛に覆われており見るからに可愛らしい。

 その頭には垂れた短い耳がついており、小さな体をさらに愛らしく見せていた。

 幹二はその姿を見て地球にいたある動物の名前を口にする。


 「ウサギ……?」


 ウサギは幹二の声に反応すると、漆黒の目で幹二の姿をじっと見つめる。

 触ろうと手を伸ばすとウサギは怯えてか小さく跳ねていく。

 どんどん街道を外れて森の奥へと逃げ出してしまう。

 

「待ってくれ!」


 幹二は逃げたウサギを追いかける。

 街道を外れた森は全く舗装されておらず、根っこや草が歩き慣れていない幹二の行く手を阻む。

 対するウサギは軽快なステップで幹二が苦戦しているそれらを乗り越えていく。

 幹二は懸命に追うもののウサギとの距離は次第に開いていき、ついにはウサギの姿は見えなくなってしまった。

 逃したことに舌打ちをする幹二。

 だがすぐに彼は自分の状況を理解し、冷や汗を流す。


 「や、やべぇ迷った」


 無我夢中で追いかけていたせいで、幹二は街道に帰れなくなってしまった。

 途方に暮れている彼であったが、突然聞こえた草むらが揺れる音にビクリと体を震わせる。

 恐る恐るといった様子で揺れる草むらを見つめると現れたのは緑色の毛並みの獣。

 狼のように尖った耳と口吻(こうふん)を持ち、口からは凶悪な犬歯(けんし)が顔を覗かせている。

 ついこの間も見たカルロウであった。

 武器がないことに焦る幹二は近場にあった枝を拾って、鋭くなった先をカルロウへと向ける。


 「こ、こここ、こいやぁ!!」

 

 声を震わせながら幹二はカルロウを威嚇(いかく)する。

 対するカルロウは幹二の様子に怯えて、キュイーンと悲しげな鳴き声を発して再び草むらへと消えていった。


 「よ、よし。俺だってやればできるんだな」


 追い払えたことに安堵の表情を見せる幹二。

 しかし幹二は知らない。

 これは一匹の時は極端に臆病になるというカルロウの習性からくる動きで、幹二の威嚇など効いていないということを。

 そうとも知らずに棒を掲げて喜ぶ幹二。

 草むらが揺れる音を聞きつけて再び、幹二は木の棒を構えた。


 「次は俺から攻撃して──ひっ!?」


 意気揚々と突きかかろうとした幹二だったが、草むらから現れた物体に後ずさりする。

 草むらから出たのは鈍く輝く剣の切っ先。光によって怪しく光るそれはまぎれもなく死を予感させた。

 顔の間近に向けられた切っ先に幹二はすっかり萎縮してしまい、木の棒を取り落とす。


 「わ、悪かった。許してくれ……動物だと思ったんだ」

 「どこかで聞いた声かと思ったら、幹二さん。あなたでしたか」

 「へ? え、その声……」


 刀身の先を見ると、短く整えられたくすんだ金色の髪の毛が見えた。

 そして体格は男として見ればかなり小柄だが、その身のこなしからは歴戦の風格を漂わせている。

 そのような体でありながら、彼と同じくらいの重そうな両手剣を片手でかまえている彼を見た瞬間。

 幹二の顔は感を極まったように安堵の表情に変わる。


「ら、ラームさん!!」


 萎縮していた姿はどこへ行ったのか、幹二は笑顔を浮かべた。

 ラームも両手剣を背中に背負うと柔らかい笑みで彼を迎える。


 「二日ぶりですね。まさか再会するとは思いませんでした」

 「俺としてはすごく助かる。実は迷ってさ……」

 「なるほど、僕も用事は済みましたし一緒に街道に戻りましょうか」

 「用事? それは……」


 ラームの剣を持っていなかった方の手を見て、幹二は愕然とする。

 彼の手には、幹二が迷った原因であるあの可愛いウサギがあったからだ。

 足は力なく垂れ下がり、腹には何かで刺したのであろう大きな傷があった。

 視線に気づいたラームは(ほふ)ったウサギを掲げる。


 「これですか? これはマルウサギと言います。小柄な割に肉も多いので狩れてよかったです」

 「よ、容赦ねぇ……」

 「可愛いのは認めますけどね。空腹には勝てません」


 二人が街道に戻りしばらく歩いていると、木漏れ日は月明かりに変わり夜の帳が下りてきた。

 さえずっていた小鳥は姿を消し、フクロウの鳴き声と虫の鳴き声が響くようになり、夜であることを実感させられる。

 暗くなった街道を歩いていると、街道の脇に開けた場所が現れた。

 広場には焚き木の跡と思われる黒ずみが残されている。 


 「……ここで休みましょうか」

 「あぁ、へとへとだ。賛成」

 「では少し待っていてください」


 ラームは拾ってきて小枝を几帳面に円に並べる。

 並べ終わるとまっすぐな木の棒を拾って、これまたまっすぐな木の棒を拾ってきていた。

 次に片方の木の棒をナイフで薄くスライスしていく。

 彼の足元に薄くなった木の皮が積み上がっていった。

 ある程度綺麗になるのを見ると、今度は拾ってきた枯葉を両手でくしゃくしゃにする。

 次第に枯葉は綿のようになった。


 幹二はラームが何をしようとしているのかがわからないのか怪訝な表情で見ている。

 彼に構わずラームはスライスした方の木の棒にナイフでえぐるように窪みを作る。

 入れた後、窪みの裏に切れ目を入れて貫通させる。

 どうやらこれで準備が整ったようで、用意したものを持ってラームは座る。


 枯葉を敷いてその上に貫通させた木の棒を置く。

 そして棒の窪みに木の棒を立てて両手で挟むと、棒を押し付けるようにしながら上下に動かし始めた。

 棒に擦られて、削りカスがボロボロと出てくる。

 ここでようやくサバイバル技術などにも疎い幹二にもラームが何をしようとしているのがわかったのか興味心身に覗き込んでくる。


 「生で火おこしを見るのは初めてだな」

 「炎石や炎属性の人がいれば簡単にできるのですが、僕にはできないので仕方なくやっています」

 「魔法なんてあるのか……ラームさんも使えるのか?」

 「魔法は小さいものであれば誰でも使えます。ですが僕は生まれつき使えません」

 「どうして?」

 「わかりません。ですが、僕の村では一定年齢になると、どの属性を宿しているのかを調べる儀式をやります。そこで僕には四属性全ての精霊が現れませんでした」

 「そっか……」


 僕の村と言った瞬間、ラームは顔を少し歪めたが、幹二はその変化に気づくことはなかった。

 しばらくすると摩擦熱で木の皮から小さな白煙が上がり始めた。

 窪みのある棒を裏返して、何かを落とそうと衝撃を与える。

 すると枯葉の上に白煙を発する削りかすが落ちてきた。

 ラームは屈んで、消さないように慎重に息を吹き込んで行く。

 小さな種火に過ぎなかった炎はラームが息を吹き込むごとに次第に多く白煙を吹き出していき、枯葉を燃やす形で赤い光を発するようになる。

 

 白煙を出しながら燃える枯葉を先ほどに並べた小枝の上に置く。

 そして火が絶えないように小枝を入れていった。

 しばらくして煌々と燃える焚き火が完成した。


 ようやく落ち着いた一行は次に夕食の支度に取り掛かった。

 血抜きしておいたウサギをさばいて、肉を火にかける。

 同時に透明な葉っぱのようなものも(あぶ)りつつ、肉を焼き上がるのを待つ。

 しばらくして肉が十分焼きあがったのを見たラームは幹二にこんがりと焼けたもも肉を渡す。


 「どうぞ。もも肉です」

 「ありがとうな」

 「待ってください。これを巻いて食べてみてください」

 「なにこれ? プラスチックの葉っぱ?」


 彼から手渡されたのは先ほどまで炙っていた輪郭と葉脈だけが見える透明な葉っぱ。

 疑いの視線を向ける幹二。

 だが、ラームは笑顔で食べてみろと言わんばかりに促す。

 恐る恐る口にすると、見た目に反してその葉っぱは柔らかくすんなりと噛み切れた。

 噛んだ瞬間、幹二の目が見開かれる。


 「しょっぱ! 塩かこれ!?」

 「巻いてと言ったじゃないですか、これはソルト草と言って、あらゆるものに塩味を付けられる優れものです」

 「そ、そうだったのか。どれどれ……美味い!」


 彼に言われた通り、もも肉に巻くようにして一緒に食べると彼の目は輝いた。

 程よい塩加減と、ウサギの肉の淡白な味がマッチし彼の舌を楽しませたのだ。

 だが、しょっぱいために乾きが彼を襲う。


 「喉乾いたなぁ。ラームさん水とかないか?」

 「水はないけど、ルビイは……あぁしまった切らしてしまった」


 水筒を覗き込んで飲み物がないことに気づいたラーム。

 彼はナイフを取り出すと、近場の木を調べ始める。


 「焚き木の跡があったから、絶対あるはず……あった」


 目的の木を見つけた彼はナイフでその木を切りつけた。

 すると木から水のような透き通った赤い樹液が流れ出してくる。

 ほとばしる樹液を水筒へといれていく。

 水筒が満タンになるのを見ると、幹二に手渡した。


 「ルビイの樹液です。飲んでみてください」

 「こんなの飲むのか?」

 「大丈夫ですよ。僕たちにとっては水のようなものですからあなたも飲めるはずです」

 

 手渡された樹液に露骨に嫌そうな表情をする幹二。

 だが、ラームは水筒を揺らして彼に飲むことを促す。

 あまりの進めように折れた幹二はしぶしぶ水筒を手にとって、中の樹液を口に含んだ。


 「甘くて美味しい……」


 意外だったのか幹二は目を丸くして再び水筒に口をつけて飲み始めた。

 彼はみるみるうちに水筒のルビイの樹液を飲み干すと、再び残っているウサギの肉に豪快にかぶりつく。

 食事が進む幹二の様子にラームは小さく笑みを浮かべて自分も食事を進めていく。

 数分後、ウサギの肉を食べ尽くした二人は焚き火に当たりながら話を始める。

 

 「僕はベイリアという町に行くつもりですが、幹二さんはこれからどうするつもりで?」

 「わかんない。俺としてはどうにか身を立てたいんだが……元の世界でも身を立てられなかったからなぁ」

 「そう、ですか……そちらの世界でも大変だったんですね」


 再び現実を認識させられたせいで幹二の表情が少し暗くなってしまう。

 彼の地雷を踏んだことに気づいたラームは申し訳なさそうに顔を俯けた。

 考えるそぶりを見せた後、何かに気づいたのか彼は言った。


 「幹二さん。なぜあの村で暮らしてみたらよかったのでは?」

 「それは、その……」

 「何か問題でもあったんですか?」

 「何かそれは申し訳なくて……」

 「頼んで見れば何とかなったと思いますよ」

 「ッ……」


 言い淀む幹二。

 彼の表情は歪み、だんだんと苦しそうにガチガチと歯をならし落ち着きがなくなっていく。

 苦しそうな彼をみかねてかラームは言った。


 「事情は色々ありますね。詮索してすいませんでした」

 「ごめん……悪いな……」

 「とはいえ、ここで何か手に職をつけないといけないのも事実……とりあえず」

 「ん?」

 「僕と町まで一緒に来ますか? あそこなら何か仕事があるかもしれません」


 落ち込んでいた幹二にラームは提案する。

 彼の提案に幹二は黙りこんでしまった

 数分後、意を決したように彼は答えた。

 

 「……行くよ。何か変わるかもしれないしな」

 「なら、決まりですね」 


 二人の方針が決まったところで夜は更けていった。


動植物メモ

 

マルウサギ

 獣種

 幹二が追いかけて、ラームが狩った獣。

 カルラ森林以外にも多くの場所で生息している割とポピュラーな生物。

 落ちた果実や草を食べて生活している。人を襲うことはない。

 ずんぐりとした見た目で、小さいながらにそれなりの肉を得ることができる。


ルビイの木

 赤色の葉っぱを広げる広葉樹型の木。

 樹液には抗菌作用が存在し、病原菌の増殖を防いでくれる。酒などにも加工しやすくこの世界では飲料水としてよく飲まれている。

 また葉っぱには治癒能力を高める力があって消毒液としてよく用いられており、果実もお祝い事のデザートとしてよく使われて人々の生活に欠かせない存在となっている。


ソルト草

 葉脈と輪郭だけが見える透明な葉を持つ草。

 見た目は硬そうだが、普通に食べられる。

 葉には塩分が含まれているため、塩分補給に重宝される。

 熱を与えると柔らかくなる性質がある。

 そのため柔らかくなった草を巻いて食べるか、硬い草を粉々に砕いて振りかけるかの二派での論争は絶えない。


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