表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/46

6噂のサンタは何者でしょうか

 私は、夜中に車坂と翼君と一緒に街を歩いていた。


「まったく、子供たちのためとは言え、冬の夜に外を出歩くのは嫌ですねえ」


「嫌ならわざわざ来なくてもよかったじゃないですか。僕と蒼紗さんの二人で会いに行きますから」


「いやいや、私は朔夜さんを監視する役目がありますから、当然、ご一緒させてもらいますよ」



 車坂も翼君も白い息を吐きながら、寒そうに会話をしている。そういえば、二人とも人外の存在だが、寒さも感じるということか。車坂は真っ黒なダウンジャケットを着て、これまた真っ黒なマフラーに手袋をつけていた。全身真っ黒に身を包んでいるため、真っ暗な夜道ではどこにいるかわからなくなりそうだ。


翼君も同じように赤いダウンジャケットを着て、白いマフラーに白い手袋をつけていた。翼君は、この時期に現れる赤いおじさんに配色が似ていた。



「なんだか、こうしてみると、やはり二人とも私と同じ人間にしか見えませんね」


 服装が多少、何とも言えないことを除けば、外見は普通の人間にしか見えない。ただし、彼ら二人とも、普通の人間よりイケメンなところはあったが。いつも思っていることだが、改めてぽつりと出た独り言は二人に拾われてしまった。


「これで何度目ですか。その発言。私は今、塾講師の車坂で通っていますから、人間に見えなくては困ります」


「僕はもともと人間だからね、蒼紗さん。それに僕も今は車坂先生と同じ、塾講師の宇佐美翼だから、人間に見えて当然で、ケモミミも尻尾も生えていないよ」


 口々に当たり前だと言われて、何とも言えない気持ちになる。人間に見えるのは、彼らにとって当たり前らしい。彼らは自分が人外であるということを認めている。認めているうえで、今は人間に化けている。それなら、私は一体何者なのだろうか。


「私は、人間に見える存在ですか。それとも、人間と名乗っていい存在でしょうか?」


「そんなの当たり前です。あなたは人間に決まって……」

「何を言っているんですか。人間でしょう」



 二人に人間だと言われて、少しだけ気分は楽になった。それでも、私は人とは違う時間の流れを生きていることは事実であり、それを否定することはできない。しかし、今はそれでもいいかと思えるような出会いがあったので、自分が人間であるという自覚を持ってもいいのだと思えるようになった。




「まったく、サンタに会いに来るのは、子供だけだと思っていたが、こんな大きな奴らが来るとは思わなかったな」


 突然、音もなく、真っ赤な服を着たサンタクロース姿の男が目の前に現れた。夜の街には、私たち以外誰もいなかったはずである。私だけでなく、車坂も翼君もサンタクロース姿の男の登場に驚いていた。



「あなたが噂のサンタさんですか。いったい、何の目的でこんなことをしているのですか?」


 サンタ姿の男は白いひげを生やしておらず、声や姿から老人ではないようだった。目つきが悪く、赤い帽子からはみ出る髪は茶髪で、耳には大ぶりの四角いピアスが両耳にぶら下がっていた。サンタとは思えないチャラい、ヤンキーみたいな雰囲気の男だった。サンタのイメージとはかけ離れていて、それなのに、服装だけサンタになりきっていたので、違和感がすごかった。


いきなり目の前にそんな変な男が現れて驚きはしたが、すぐに冷静になり、男に質問する。


なぜなら、私たちはそもそも噂のサンタに会うためだけに、この真冬の夜の寒空を歩いていたのだから。



「せっかくのサンタに会ってする最初の質問とは思えないな。それに、オレはサンタだから、目的なんて決まっているだろう?」



『子どもたちの夢を食べるため』


 急に男の雰囲気が変わり始める。それに伴い、車坂と翼君も警戒態勢に入る。



「はあ。朔夜さんは実は貧乏神か何かかもしれませんね。それとも、疫病神とかの類の能力を持っている可能性があります」


「僕も同じことを思いました」



 警戒しながらも、二人は軽口をたたき合う。貧乏神とか、疫病神とは失礼にもほどがある。私はただ、平穏に人生を過ごしたいだけなのに。それを壊してきたのは、九尾であり、九尾こそ、本物の貧乏神か疫病神とかのたぐいだと言われても驚かない。



「ああ、やめだやめだ。お前らからはやばい感じしかしねえ。もっとこう、か弱い、夢と希望に満ち溢れた子供の夢がオレの好物だ。お前らの夢を食っても、腹を壊すだけだ。食うだけ損という奴だ。腐ったものを食べて食中毒にはなりたくない」




「私たちの夢で腹を壊すとは、ヒドイいいようですね。私にだって、おいしい夢や希望はありますよ。しかし、そのことを議論している場合ではありませんね。子供たちの安全のために、あなたには、今日この場で、サンタの物まねをやめてもらわなくてはなりません」


 車坂が行動を起こした。音もなくサンタの男に近づくと、男の首元にいつの間にか手に現れた大ぶりの鎌を押し当てようとした。


「おお、危ない危ない」


 しかし、それは空振りに終わった。車坂の放った大鎌は地面に突き刺さっていた。サンタ姿の男はその場からいなくなっていた。




「残念でした。オレはこれで失礼するよ。子供たちの夢を食べるサンタさんだからね」


 サンタ姿の男の声だけがその場に響いていた。



「逃げられてしまいましたね。死神といえど、大したことないんですね」


「あなたこそ、自分で捕まえるという選択肢はなかったのですか?私に任せきりとはいただけませんね」


「僕の能力は、捕まえるとかの野蛮な行為に使えるものではないんですよ。文化人ですから」


「ただの弱気なウサギにしか見えませんがね」


「言ってろ、黒猫」


 サンタ姿の男を逃がしたことで、二人は互いに責任のなすりつけをしていた。そして、最終的にくだらない口げんかに発展していた。



 私は二人の様子を見ながら、最後に男につぶやかれた言葉について考えていた。男は消える直前、私に近づいて、謎の言葉を残して去っていった。


「君とはいずれ、また会うことになると思うけど、とっとと、そこの人外たちとは別れた方が身のためだと思うよ」







「ジリジリジリジリ」


 ここで、目が覚めた。また、変な夢だった。あれが噂のサンタだということか。子供の夢を食うとはどういうことか。私には予知夢の力があるので、きっとこの夢と同じことが、近い内に起こるということだ。最後にささやかれた言葉の意味はどういうことだろうか。私の身近にいる人物が噂のサンタをしているということか。謎は深まるばかりである。


 自分の未来を先取りできるのは、いいことなのか、悪いことなのか。今までにも何度か予知夢的なものを見たことがあるが、どうにも役に立ったといえるのか、微妙なものが多かった。この能力が役に立ったことがあるような、ないようなものばかりだった。


 今回はとりあえず、サンタが能力者だということは、事前に知ることができたので、それでよしとすることにした。それにしても、車坂と翼君は、仲が悪かったらしい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ