番外編~自粛要請の過ごし方~
なんとなく、今の世の中の状況について書いてみたくなりました。皆さんは外出自粛要請が出て、どのように過ごされていますか。私は万年、土日引きこもり生活実施中ですので、あまり変わりはありません。
「大学も自粛要請なんて、最悪よね。蒼紗に会えないなんて、私、寂しくて死んじゃいそう」
世の中、こんな状況からか、大学も自粛となってしまった。四月から大学二年生になるというのに、大学はGW明けまで授業をやらないとのことだった。外出自粛宣言も出ているため、ジャスミンたちと会うことはできず、こうしてジャスミンとスマホで電話しているのだった。
「会えなくて寂しいとは思いますが、死ぬなんて、大げさではないですか?ウサギではあるまいし」
「蒼紗も、私と会えなくて寂しいと思っているのね。それを聞けただけで、私は今日も生きていけるわ。ああ、録音しておけば良かった。もう一回同じこと、言ってくれるかしら?」
「言いません。それにしても、ジャスミンは一人暮らしではないので、そこまで不便はしませんが、一人暮らしの人は大変そうですね」
「確かにそうだけど、私たちって、蒼紗も含めて一人暮らしの人はいないから、実際に困っている様子は、目の当たりにはしていないわね」
「私も本来なら、一人暮らしをしているはずでした……」
ついうっかり、自分が九尾たちと会うことなく、一人暮らしをしていることを想像してしまった。
毎日大学に行き、家に帰ると誰もいない家。暗い家の中に明かりをつけ、自分のためだけに食事を作る毎日。黙々と食事をして、入浴して大学の課題をこなして就寝する。きっと、九尾たちと出会わなければ、ジャスミンたちとも出会うこともなかっただろうから、大学でも一人寂しく授業を受けていたはず。そうなると、完全に一人ぼっちの大学生活だ。
「一人でも生きていけるはずだと思っていました」
想像するだけで寂しくなってしまい、沈んだ声が出てしまう。どうして、大学に入る前の私は、一人でも生きていけたのだろう。
「そんな寂しそうな声を出さないでくれる?なんか、泣きそうな声だし。私まで涙が出てきちゃうから」
「な、別に泣いていませんよ。寂しいのは……。否定はしません」
「素直でよろしい。不本意だけど、今はあいつらがいて助かったわ。私は家を出てあなたに会いに行けないけど、あいつらがいれば、寂しくないでしょ」
「今だけでなく、いつも感謝してくれて構わんぞ」
「九尾!」
自分の部屋でジャスミンと会話していたはずなのに、気付けば、私の周りには、私の家に居候している彼らが勢ぞろいしていた。
「蒼紗さんに寂しい思いはさせませんから、毎日長電話してくるのはやめてください。今、何時だと思ってるんですか?蒼紗さんの健康に差し障ります!」
九尾に気を取られていたら、スマホを取り上げられてしまった。犯人は翼君だった。私のスマホに向かって、ジャスミンに文句を言っている。
「お前が頻繁に電話してくるせいで、こいつは寝不足だ」
さらには、狼貴君もそれに加勢する。
「あらあら、にぎやかなこと。お肌に悪いのはわかっているけど、つい止められなくて。じゃあね、蒼紗。また明日も電話するから、ちゃんと出なさいよ!」
「はいはい、おやすみなさい」
時計を見ると、深夜1時を回っていた。さすがに眠たくなってきた。ふわあとあくびをして、私はベッドに横になる。
「今日は仕方ないから、われたちもここで寝てやろう!」
「いきなりどうしたの?」
「なに、ただの気まぐれだ。翼も狼貴も文句はないだろう?」
九尾の突然の発言に、二人は顔を見合わせて苦笑するが、反対はしなかった。すぐに部屋を出て、自分たちの布団を私の部屋に運んできた。
「なんか、ケモミミ少年三人と一緒に寝るなんて、興奮して寝れなくなりそう」
「まったく理解できん性癖だな。とはいえ、一日生活するだけで結構疲れるものだ」
しばらく会話をしていたが、九尾の言う通り、案外疲れていたのか、私は眠気に誘われて寝てしまった。
次の日は、ジャスミンだけでなく、綾崎さんからも電話が来た。彼女の電話も長く、翼君たちに叱られていた。
さらに次の日には来客があった。
「ピンポーン」
外出自粛中で、宅配サービスも頼んでいなかったのに、インターホンが鳴る。こんな時期に誰だろうと、警戒しながらインターホン越しに誰か確認すると、車坂だった。
「外出自粛中で塾も閉鎖になっていますので、暇になってしまいました。たまには、観察対象のあなたの様子を見ておこうかと思いまして」
「来なくてもいいのに、迷惑な奴だ。お前も人間の生活をしているのなら、外出自粛の意味を考えろ!」
九尾が怒った声で追い出そうとするが、死神の車坂にそんな言葉は通用しない。あっさりと反論されてしまった。
「人間ではないのは、お互い様でしょう。外出自粛で、他人と会うのを7~8割減らすということならば、居候のあなた方もその対象に入るはずです。ただのごくつぶしのように、彼女にたかっているあなたたちはどうなんですかね」
インターホン越しだというのに、二人はいがみ合っている。このままではらちが明かないので、私は二人の間に割って入った。
「そんなところでいがみ合わないでください。車坂さんも、いくら人ではないからと言って、外を歩き回ってはいけません。今日は仕方ありませんから家に入れてあげますが、今後は来ないでください。もし、私に用事ならば、スマホに連絡を入れてください」
ガチャリとドアを開けると、車坂がスーツ姿で立っていた。中に入るよう勧めると、お邪魔しますと挨拶をして、靴を脱いで玄関に上がる。
「外出自粛は面倒ですね。朔夜さんの言う通り、外出は控えた方がいいかもしれません。私に視線を向ける人が多かったのが気になりました」
「それは、あなたがスーツでいかにも仕事をしていそうなのに、マスクもせず、堂々と歩いているからだと思います」
そんな会話をしながらリビングに入るように勧める。どっかりとソファに身を沈めた車坂は、世間話の後、現実的なことを話しだした。
「人の視線は気になりますが、別に襲ってくるようなものではないので、問題はありません。問題は塾が閉鎖されて、収入がなくなりそうだということです」
「まあ、接客業、サービス業は、ほぼすべて自粛要請かかっていますからね」
車坂なら、収入がなくても何も問題はないような気がする。そもそも、人間ではなく死神だ。食事もとる必要はないし、いざとなれば、黒猫の姿で野良猫生活を送ることも可能に思える。
「猫になって、野良猫生活でもしようと思いましたが、人間がいきなり消えてしまうのはまずいと気づきまして」
「はあ」
車坂の困ったような声に、私はあいまいな返事しかできなかった。車坂の言葉は理解できるが、それで私に何の用事だろうか。嫌な予感がした。
「それで、当面の間、朔夜さんの家に居候しようか、と」
『帰れ、このくそ死神!』
三人の居候が声をそろえて叫びだす。見事なハモりようで、三人の気持ちは一致団結していた。とはいえ、三者三様、叫んだ理由は違ったようだ。
「死神と同居なんて、死んでもごめんだ」
「蒼紗さんに何かあったらどうするんですか。あなたは成人男性ですよね」
「気に入らない」
三人の鬼気迫った言葉に車坂が苦笑する。しかし、彼はどうしても私の家に居候したいらしい。
「反対されると予想はしていました。ですから、きちんと対策は考えています!」
ぼんと煙が上がり、慌てて目をつむって煙が目に入らないようにする。
「にゃーにゃー」
目を開けると、そこには行儀よくお座りをしている一匹の黒猫の姿があった。周りには、車坂が着ていたスーツが散乱していた。
「ふん、猫に成り下がってまで、蒼紗に媚びるつもりか。でもまあ、その姿なら許してやらんこともない。思う存分、こき使ってやる」
「その姿から絶対に人間の姿に戻らないと約束してくれるなら、居候を許してもいいですよ」
「気に入らんが仕方ない」
黒猫姿の車坂は、甘えるように私のひざ元にすり寄ってきた。思わず、あごをなでてやると、気持ちよさそうに目を閉じている。
「まあ、猫一匹くらいならいいか」
こうして、私の外出自粛宣言下での生活は、不謹慎だが、寂しい思いをすることなく過ごすことができたのだった。
現状、我慢の時です。一人暮らしの人は寂しいかもしれませんが、外出は控えるようにしてください。




