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1彼氏ができました

「蒼紗、私、この度、彼氏ができました!」


 衝撃的な発言をジャスミンから聞いたのは、ある日の大学の昼休みのことであった。いつものように、ジャスミンと私は一緒に行動をしていた。いつもと違う点といえば、最近は綾崎さんも私たちと一緒に行動していることくらいだろう。


 服装もこれまたいつも通りで、私は今日もコスプレをしている。ジャスミンも同様だ。綾崎さんはこればかりは一緒にできないのか、普通の大学生らしい私服姿だった。十二月に入り、サンタが町中でみられるようになってきたため、その日は、サンタをイメージした、赤いポンチョに赤い膝丈くらいのスカートを履いていた。ジャスミンも同様に赤い上下の服を着ていたが、素材はジャージだった。綾崎さんは、白いワンピースに黒のカーディガンを羽織って、清楚な感じであった。



 ハロウィンでの死神騒動の一件が終わって一カ月ほどが経ち、いつも通りの日常が戻ってきた。大学生活も半年を過ぎた。大学の授業や日常生活にも慣れてきた頃合いでのジャスミンの発言に、私は耳を疑った。




「そ、それは本当ですか。実はあなたが、ジャスミンの偽物と言われても、私は驚きません」


「偽物の訳がないでしょう。私はもう、リア充を恐れない。自分自身がリア充生活を歩み始めたのだから、当然よ」



 昼休みということで、私たちは食堂にいた。私とジャスミンと綾崎さんの三人で、一緒にお昼を食べている最中であった。綾崎さんは弁当持参だったが、私とジャスミンは食堂で料理を注文した。私はオムライス、ジャスミンはカルボナーラをそれぞれ注文して、食べている。


 とりあえず、ジャスミンの発言に一言返し、その後の反応を無視して黙々とオムライスを口に運ぶ。ケチャップで絵を描くようなものではなく、ハヤシソースがかかったデミグラスオムライスだ。綾崎さんも無視を決め込んだようで、こちらもお弁当に入っているご飯を口に運んでいる。



「あらあ、もしかして、嫉妬でもしているのかしら。心配しなくても、蒼紗のことは、これまで通り大好きだから心配しなくてもだ、い、じょ、う、ぶ」



 ジャスミンは、語尾にハートが付いた言葉で私をイラつかせる。いい加減、張り飛ばしたくなってきた。さて、この場合、何を言ったら適切だろうか。


「佐藤さん、うざすぎです。蒼紗さんが迷惑しているのがわかりませんか?」


 私が怒り出す前に、先に話し出したのは綾崎さんだった。自分に彼氏ができたといって調子に乗りすぎたジャスミンに対する的確な反論である。私は綾崎さんの言葉にうんうんと大げさに頷く。


「確かに、今のジャスミンは迷惑極まりないです。彼氏ができたなら、それで結構。その彼氏とやらと仲良くしていればいいでしょう。自慢のように、私に報告するのはやめてください」


「そうです。心配しなくても、蒼紗さんは私と一緒にいるので、佐藤さんはとっとと蒼紗さんの前から消えてください。それから、金輪際、蒼紗さんの前に姿を現さないでください」


 私はそこまで望んでいるわけではない。綾崎さんの言葉は極端すぎる気がしたが、特にこの発言を訂正することはしなかった。なぜだか知らないが、綾崎さんもジャスミン同様、私に好意を抱いているようで、同類のにおいを嗅ぎつけたのだろうか。ジャスミンのことを目の敵にするような発言をすることがある。同族嫌悪という奴だろうか。こうなると、二人の口論に火がついて、収拾しようがない。


「どうしてあんたみたいな凡人が、蒼紗を自分の者扱いしているのかしら?蒼紗は私と同じ特別な人間なの。凡人のあんたこそ、蒼紗から離れなさいよ」


「彼氏がいるのに、蒼紗さんまで手に入れようとは不謹慎な。恥を知れ、この派手痛女」


「言ったな。凡人ブスが」


 私はただ、口論が収まるまで気長に待つだけだ。それにしても、ジャスミンに彼氏なんて、いったい相手はどんな男なのだろうか。ジャスミンのあの性格でも大丈夫な男性がいるとは知らなかった。世の中、奇特な人がいるものだ。蓼食う虫も好き好きということか。ジャスミンのことだから、イケメンだろうか。マッチョ系が好きなイメージもある。私がジャスミンの彼氏を想像している間に、口論はヒートアップしていた。



「凡人とは失礼な。私だって蒼紗さんが特別な存在であることくらいわかっています。でも、佐藤さんが特別なわけがありません。蒼紗さんの特別は私に決まっています。それに何ですか。蛇須美でジャスミンとか変なあだ名。おかしいでしょう。そもそも、その蛇須美って名前自体。気持ち悪い」


 口論のネタが何やらおかしな方向に進みだした。このままだと、歯止めがかからず、口論だけでは収まらなくなってしまいそうだ。


「そこまでにしてください。綾崎さんも、ジャスミンのご両親がつけた大事な名前を汚すことは許しません」


 名前については、私も蒼紗というあおのりみたいな名前が好きではないので、止めさせてもらった。ジャスミンだって名前については繊細な問題で、傷つくこともあると思うのだ。


「私は名前のことは気にしてないわよ。でも、蒼紗が心配してくれるなら、この名前も悪くないっていうことかな。やっぱり蒼紗って最高!大好きよ!」


「蒼紗さんは、佐藤さんの方が好きなのですか?どうして、私は蒼紗さんのことを思っているのに、どうして」



 なぜか喜びだしたジャスミンは、突然私に抱き着いてきた。綾崎さんは、私に注意されたことがよほど堪えたのか、ぼそぼそと何かつぶやいて落ち込んでいた。


「やめてください」


 全力でジャスミンを押しのけようと苦戦していると、その隙をついて綾崎さんも抱き着いてきた。


「ずるいです」


 落ち込んでいたはずの綾崎さんにも抱き着かれ、二人にもみクチャにされてしまったが、口論は収まったので、良しとすることにした。言い争いは聞いていて気持ちがいいものではない。



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