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明日への宴

「ふぅ…」


俺は屋敷に戻り鎧を脱いで過ごしやすい着物を着る。

先行軍は成都に戻ると民達を新しい住居に案内し解散した、子供達からは遊びに来てとせがまれたがまた後日に様子を見に伺うとしよう。


「おい、天祥」

「ん?どうしたんだ爺様」

「ちょいと劉備様に呼ばれての、その格好でええから来なさい」

「劉備様が…?」


……

………


「やぁ二人とも今日はご苦労だった」

「はっ!」

「そんな固くなるな天祥よ、私は今はただの劉玄徳なのだから」

「はっ…?それはどういう…?」

「実はな、今日成都に来た村の民達は今亡くなった者達への葬いの儀を行い明日の為に宴を行なっている」

「は、はぁ…」

「そこに行くぞ」

「はぃ!?ぐ、軍師殿には?」

「言ってない、まぁ察しが良すぎる彼奴は黙認しておるだろうがな」

「そこで儂等二人に警護を頼みたいそうじゃ」

「えーと…だ、大丈夫なのでしょうか?」

「それはどの心配だ?」

「主に軍師殿です」

「…大丈夫だろう」

「そうじゃそうじゃ」

「(怒られるやつだ)」

「最初は雲長に頼んだが、自分だと目立ち過ぎるから二人を勧められたのだ」

「(関羽将軍は後からのこと考えてこっちに振ったな)」

「王となった今では気軽に飲みに出るのも叶わないからな」

「玄徳様、本音は隠しとかんと」

「おうすまん」

「だ、大丈夫…かな?」


我々三人は民達の元へと徒歩で向かった。

道中の露店で酒の肴を買いつつ瓢箪に入った酒を煽りつつ向かう。あぁ店主そのお方はこの国の王ですよ!待って爺様!そのお店駄目です!!血気盛ん過ぎやしませんか!?待って待って玄徳様駄目です!!新たな世継ぎの可能性を作ろうとしないでくだされ!


「漢升よ、其方の孫はちと固過ぎんか?」

「生真面目ですからの〜、はよ曽孫でも見たいんですがの」

「お、お戯れを…」

「固い!そんなんでは疲れるだけであるぞ?」

「それにしても玄徳様…かなり慣れたご様子ですね」

「私だって元は藁を編んで売ってたからな、夜の街はよく遊んでいたぞ」

「まだ関張将軍達と出逢う前ですか」

「あぁ張飛と出会った時は驚いたぞ、鬼の様な顔で此方を怒鳴って来たからな」

「ん〜容易に想像出来てしまいますな」

「彼奴は真っ直ぐだからな、酒癖も悪いが」

「お、玄徳様着きましたぞ」

「うむ、参ろうか」


そこは少し広場になっており民達は葬いを済ませ、疲れた体を癒す様に大いに楽しんでいる様子であった。

ある者は楽器を鳴らし

ある者は歌を歌う

ある者は踊り

ある者は静かに酒を煽る

決して暗い雰囲気では無く確かに明日への希望が満ちる場であった。


「あ!お兄ちゃん将軍!」

「ほんとだ!?」

「もう遊びに来たの?」

「ねぇー弓を教えてよ!お父さん達はお酒飲むから僕達暇なんだ!」

「おぉ子供達よ元気に楽しんでるか?」

「楽しんでるよ!おじさん誰?」

「どこかで見たような…」

「おぉ!餓鬼共!弓なら儂が教えてやろう!!此奴に弓を教えたのは儂じゃからの!」

「わぁ!お爺ちゃんが?すごい!!」

「教えて教えて!!」

「がっははは!任せとけ!!」


自然と溶け込んだ俺達は持ってきた肴を配り始める。

その時に肴を配るのが玄徳様なんだから、まだ酔ってない人は目をギョッとして三度見ぐらいしていた。酔った人はそのまま玄徳様に盃を渡し一緒に飲みはじめている。爺様はしれっとその近くで飲んでいるが、同年代らしきご年配の所に向かうと気付かれたらしく恐縮されたがそのまま飲み始めていた。俺は子供達に先程の露店で売っていた菓子を配り、果実の絞り汁を飲んだりしていたが夜も遅い時間なので子供達は頭が徐々に下がって行く。鈴にも見つかりこちらに走ってきたがどうにも眠気が勝ったようで俺の膝で寝初めてしまった、探しに来た母親が心底驚いた顔をしたが手で制し静かに抱き上げ鈴を渡した。

玄徳様が勢いのままに村長の所へ赴き、注いで貰った村長は感動と感謝で泣き崩れていた。笑って玄徳様は励ましている横で爺様は上半身裸になり他の爺さん達と肩を組んで何か歌ってた。


「すごいなぁ俺達の君主様は…」

「えぇ、素晴らしい君主ですよ。このように黙って出て行ったあげくに飲み過ぎなければですが」

「………いつからおられましたか?」

「つい、先程到着しましたよ」

「あ、あの…これはですね…」

「解ってますよ、玄徳様から言い出したのでしょう?」

「は、はい…(お、怒ってないのかな?)」

「まぁそれとこれとは話は別ですけどね」

「(駄目だこれ)」

「やれやれ…ほんとお変わりない…」

「おい天祥、明日は覚悟しとくんだな」

「あ、安国…」

「父上から軍師殿にお知らせに行った時には既に玄徳様は居られず…軍師殿は涼しい顔で額に青筋立てるもんだから怖いったらありゃしなかったぞ…」

「天祥」

「はっ!!!」

「明日に命を下すのでよく聞くように」

「ははっ!!」

「ま、仕方ありません。安国戻りましょう」

「御意、じゃあな!」

「(終わった…)」


翌日、軍師の執務室に呼び出され正座で説教される三人の姿があった。


……

………


「酷い目にあった…」


地獄の説教に加え苦手な事務仕事を行い控えめに言って俺の疲労は峠を超えた。逆に目が冴えてつい先程まで鍛錬を行なっていたが、鍛錬に来た安国に驚かれた。彼曰く

『顔面蒼白で何が鍛錬だ!さっさと風呂入ってこんか!!』

まぁ言われるまで気付かないものだな。

湯浴みを終えて自室で暫く休む事を伝え、陽当たりの良い場所で書を読むのに専念すること。適当に取ったがこれは英雄譚か想像の物語だがなかなか面白いな…

読み耽っていると戸を叩く音が部屋に響いた。


「若様、茶をご用意しました」

「あぁ、頂こうか。(れい)も一緒に飲まぬか?」

「ご一緒致します」

「爺様はどうしたんだ?」

「厳顔将軍の元へ遊びに行かれました」

「そうか」

「若様」

「ん?」

「あまり無理をしないようにお願いします…」

「急にどうした」

「今日の様に顔面蒼白なんて、心臓に悪うございます…」

「いや…今日はちょっとな…」


ど、どうしたんだ!?

こんなに覇気のない玲は初めてだぞ!?

そりゃあ今朝は全面的に俺が悪いのは分かるが、俺が帰った時に玲の方が真っ青になったんだぞ?心配をかけて申し訳ないと思ったが…どうしたらいいんだ?


「今朝は本当にすまない、安国に教えて貰わなければ全く気づかなかったと思う」

「貴方は蜀の将の一人なのですからもっと御自覚を持って…」

「わかった…わかったから…」

「…本当にわかってますか?」

「身に染みたよ…」

「失礼します、若様」

「ん?どうした?」

「関興様より文が届きました」

「わかった」


要約すると

『元気になったか?明日か明後日には張苞が帰って来るから飲みに出ようぜ』

だった。


「内容をお聞きしても?」

「あぁ飲みに出掛けようと話だ、明日明後日の俺はどんな予定がある?」

「今のところ特に御座いません」

「わかった」


玲は茶器を片付けて戻って行く。

俺は先程の書を読もうと思い再び陽当たりの良い場所へ、そして再び書を読み耽る…


……

………


「若様?若様?」


私は使用人の玲、母が漢升様の使用人をしてたのでそのままここで働いている。まだ若いですがそれなりの年月を重ねました。特に若様である天祥様とは昔はよく遊んでた記憶があります、あの時はまだ子供でしたので何も気にしなかったですが思い出せば中々に無礼を働いた記憶があります。そんな若様の元を夕餉の刻なので訪ねたのですがお返事が御座いません…


「入りますよ?…あっ」


其処には読まれていた書を床に落とし静かに眠られる若様の姿がありました。その寝顔はとても穏やかでやはり疲労が溜まっていたが察せられます…貴方は人一倍抱え込む人なのだから本当に無理はしないで欲しいのですが…私の気苦労は伝わってるんですかね。


「懐かしいです、貴方がよく昼寝をしてた時私は悪戯をしてましたね」


それでも貴方は笑ってくれました。

本当にお優しい方…だから私は辛い、この身が使用人で無ければ…武家の娘であれば良かったと何度も思いました。


「若様…起きて下さい」

「ん…」

「若様」

「ん…」

「…天祥起きてよ」

「!……玲?」

「はい?」

「今…」

「寝ぼけられたのでは?夕餉は出来ております早く来てください」


私はさっさと言い残し足取り早く部屋を出て行った。

そうじゃなきゃこの顔の火照りを冷ませないので…

人物紹介


姓名:黄忠 こうちゅう

字: 漢升 かんしょう


生涯現役

弓に関しては譲れない

家では割とおじいちゃん


気さくで話しやすいが、作法や礼儀には厳しいので。

時と場所によっては雷も落ちます。

死ぬとか考えておらんのじゃ

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