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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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第八話 リリーの魔法教室

「ルナは?」


 温泉から小屋へと戻ってきたリリーが声を掛けてくる。


「もう寝たよ」

「そっ」


 俺の上着を布団代わりに寝息を立てるルナから目を離しリリーへと顔を向ける。

 小屋の入り口では腕を組んだリリーがいぶかしそうな視線を俺に投げかけていた。


「なんだよ」

「……あんた、なんとも思わないわけ?」

「何がよ」

「ちょっ、上位種族のエルフの湯上がり卵肌なのよ!?」

「黙れよ露出狂、ルナが起きるだろうが、静かにしろ」

「ぐぬぬぬ……」


 上位種族だのエルフだの知らないが、羞恥心のカケラもない態度では燃えるものも燃えないんだよなぁ。


「はぁ、まぁいいわ。それであんた、さっきのは何なのよ?」


 俺の近くまでやってきて向かい合うように体育座りをするリリー。

 おい、中が見えるぞ。


「さっきの?」

「料理出したり、山賊の位置や装備を正確に言い当てたり、飛竜を消したり、飛竜を倒したヤツも」


 エルフの私でもマナや魔素の移動が全く感知できなかった、瘴気の排出もないし。

 そう言いうと彼女は眉間にシワを寄せながら俺をにらみつける。


「そうは言われてもな、そもそもマナってなんだよって感じだし」


 双子姉妹の片方ってわけじゃないだろう。


「は……? え、嘘でしょ?」

「何が」

「……、信じられない。あんた本当に常識がないのね。 くぅっ……! けほけほ……」


 失礼な奴だな。

 この世界に来てまだ一日目だぞ?

 常識(そんなもの)なんてあるわけ無いだろうが。


「仕方ないわね、私が教えてあげるわよ。感謝しなさいよ? エルフから魔法を学べるチャンスなんて滅多にないんだから!」

「しー」

「……、わかってるわよ……」


 こんな学習能力の無い奴に何かを教えることができるとは考えにくい。

 とはいえ、魔法って言葉には心惹かれるものがある。

 ここは大人しく話を聞くとするか。


「えっとね、マナっていうのは体内にある力の一種のことね」

「ほぅ」

「これを使って精霊に祈りを届け、様々な現象を発現させるわけ。だから人間たちは私達の魔法のことを精霊魔法とか呼んでるみたいね」

「ソウナノカ、スゴイナー」


 わかった?

 とドヤ顔で言われたがさっぱりわからない。

 いや、なんとなく雰囲気はわかるが、精霊とか言われても。

 ただ、素直に言うとまたうるさそうなで適当に流す。


「ふふ、あ、でも人間は精霊と対話することができないのよねー」


 代わりにマナを使って直接大気中の魔素を動かし、様々な現象を発現させることがことができるがその効率は悪いらしい。


「私達エルフは風の神ニョルズの加護を受けているから少ないマナでも風の精霊が祈りを聞き届けてくれるのよ。こんなふうにね」


 そう言いながらリリーは人差し指を立てくるりと回す。

 すると部屋の中にそよ風が発生し、服を揺らす。

 冷えるからやめろ。


「寒っ!」

「だろうな」


 風呂上がりでろくに水滴も拭けていないのだ。

 そんなところに風が当たればそりゃ寒いだろうよ。


「ほれ、ホットミルクだ」

「……、ありがと……」


 すぐ目の前にホットミルクを召喚してやった。

 リリーは少し恥ずかしそうにしながらカップを受け取り話を続ける。


「ドワーフは土の精霊、オークは火の精霊、セイレーンは水の精霊とそれぞれ相性がいいの」


 もっとも、と彼女は続ける。


「これはおばあちゃんから教えてもらった話なんだけど、大昔人間は魔法を使えなかったらしいわよ」

「そうなのか?」

「ええ。でもある日異世界から人間が迷い込んできたらしいの。その人間は魔法が使えて、その人間とこちらの人間との間に生まれた子供も魔法が使えたんだって」


 異世界から来た人間の血が濃ければ濃いほど強力が魔法が行使できて、人間はその血の濃さを血力(けつりょく)と言うらしいわ。

 リリーはこともなさげにそんなことを口から吐き出した。


 俺以外にも過去にこの世界に来た人間がいるのか。

 少し驚き、ってほどでもないのか?

 むしろ俺だけが特別と考えるほうが間違っているのかもしれない。


「そういえばその迷い人もあんたと同じ黒目黒髪だったらしいわよ?」

「なっ……」


 つまり東洋人ってことだよな?

 もしかしたら日本人が、この世界にもいるのか。

 俺が絶句している間にもリリーの説明は続く。


「血力は別に魔力量っていうのもあって、これは体内に存在するマナの総量のことを指すわ」


 そして魔力量と血力を乗じたものを一般に魔力と呼ぶそうだ。

 基本的に血力が強いものは魔力量も多いため、単に魔力が大きい、小さいと言われるらしい。


「あと魔法って言ってるけど、これって二つの意味があるのよね」

「二つ?」

「一般的によく言われている魔法っていうのは『魔力を使って何かしらの現象を引き起こすことすべて』のことを言うんだけど、本当の意味は『神々の用いる奇跡の力』のことを言うのよ」


 例えば時間操作だったり空間操作だったりね。

 そう言ってリリーはじっと手を見つめた。


「私達の創造主様が用いた力、それがあれば……、ううん、なんでもない。続けるわよ」

「ああ」


 なかなか興味深い話だ。

 神、か。

 自称神様とは違う気がするけどどうなんだろうね。


「だから魔法使いって意味も同じく二つに分かれるわ」

「なるほど、それはわかる」


 リリーいわく、効果の強さで『魔法』は呪い(まじない)<魔術<魔導<<越えられない壁<<魔法となるらしい。

 そしてそれを使用する者はそれぞれ呪い士<魔術士<魔導師<<越えられない壁<<魔法使いと呼ばれる、と。


 大まかな目安だが、魔術士は二つ以上の属性の魔法を杖なしで行使できる。

 そして魔導師は無詠唱で魔法を行使できることが基準となるらしい。


「ま、今じゃ迷人の血をあんまり引いてなくても魔晶石を使ったマジックアイテムとかあるから気にする人は少ないみたいだけどね」

「マジックアイテム?」

「……、魔力がなくても魔法を顕現させることができる道具のことよ。一般人には手が出せない高級品らしいけど」


 いや、そんな目で見ないでくれ。

 本当にわからないんだから。

 しかしあれか、魔晶石って言うのに魔力を充填して使うって感じなのかな。

 バッテリー的な感じで。


「それにしても、こんな事も知らないなんてあんた貴族じゃなかったのね」

「そういえばみんな俺のことを貴族と勘違いしているようだけどなんでなんだ?」

「そんなの決まってるでしょ、黒目黒髪は貴族の証しだもの。ま、所詮は人間のだけど」


 魔法を使えなかったころの人間は他の種族の奉仕種族だったらしい。

 ああ、それでリリーは俺のことを下等種族とか言ったりしてたのか。


 ともかくそれが魔法を使えるようになってしばらくしてから独立したそうだ。

 その際に力を発揮した迷い人は王となり、その子どもたちは貴族に任じられ、今に至ると。


「なるほどな」

「それで彼らのことを記した物語の一つに勇者物語っていうのがあってさ」


 その物語の中での勇者の名前が『山田太郎』というらしい。


「だからか……」

「あ、わかった?」


 ニヤニヤとリリーが俺を見つめてくる。

 なんということだ。

 つまりあれか。

 俺は、勇者物語に感化された中二病の貴族のボンボンって見られてたわけだよな?


「最悪……」

「まー元気だしなって!」

「うるさい……、もう寝るぞ」

「あ、ちょっとまってよ! まだ話終わってないわよ!!」

「もう遅いし、静かに寝てろ」

「っ! うぐぅ……」


 しかし、俺の能力(スキル)では魔力の移動が感じられなかったと言っていたな。

 つまり俺の能力(スキル)は魔法とは違うものということか。

 そしてリリーはその存在を知らない、と。

 ううん、あまり派手に使わない方がいいのだろうか?

 でも俺の生命線だからな、これは。

 下手に制限をして遅れを取ったでは済まされない。

 なんせ残機は無いのだから。

 そんなことを思いながら俺は眠りにつくのだった。

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