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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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閑話 とある兵士

「いや、大将はたちはここでおしまいでさ」


 俺は大将に向けて睡眠薬を吹きかけた。


「いいのかい? 太郎の力があれば全員で脱出出来るかも知れないのに」

「大隊長、俺たちはね、大将に獣人の未来を見たんですよ」

「未来?」


 大将は、俺たち獣人を一切差別しない。

 どころかどこか優しい眼差しを向けてくれる。


「それに、回復魔法をも掛けてくれたんでさ」

「……」


 大隊長のオスカル様も優しい方だ。

 だが、それはあくまで『人間にしては』という接頭語がつく。

 オスカル様は俺たちが怪我をしても一度も回復魔法を使ってくれたことがない。

 いや、それに不満はない。

 それが当たり前なのだから。

 むしろ太郎が俺たちに回復魔法を掛けてきたときには夢かと思ったくらいだ。


「一緒に逃げれば全員脱出できるかも知れない。だが、放たれた矢が最初に刺さるのは大将ですよ」


 獣人の感が告げる。

 確かに全員で逃げれば九割九分の隊員が逃げ切れるだろう。

 だがその逃げられなかった一分に、おそらく太郎が入る。

 あいつは、そういう運命のもとに生まれているのだ。


「もう一度いいます。俺は太郎に未来を、光を見た。同じやつは居るか?」


 俺が他の兵士連中を見ると、皆、瞳に焔を灯していた。


「人間を守るんじゃない。未来を、光を、太郎を守るため、命を燃やせるやつは居るか?」

「大将の飯は美味かったからな。ここいらで一つ、良いところを見せないと」

「ああ、荷物をほとんど持たなくてもよかったしよ」

「前の戦いでは太郎が帝国軍の足止めしてくれたおかげで俺たちは助かったんだ。この命、ここで使わせてもらおう」


 連中は口々にここで散ることに同意してくれた。

 これなら、太郎を逃がす時間は作れるだろう。


「そんなことをして、主様が喜ぶとでも?」

「ルナ様……」


 ルナ様が何も読み取れない瞳で俺たちに問いかける。


「悲しむだろうな、あの人はそういう人だ。だからこそ、俺はあの人に命を捧げることができる」

「不忠だと言われても?」

「不義理だと罵られてもだ。……、ルナ様は大将についていってくれよ?」

「私も逃がすつもりですか」


 ルナ様の冷たい問い。

 答える声に少しの震えが交じりそうになる。

 だが、ここで引く訳にはいかない。


「勘違いするなよ、いざというときの囮だ。おい、エドモンド、ピエルお前たちもだ」

「そんな……」

「俺たちも戦います!」

「お前たちみたいなペーペーが立てる舞台じゃないんだよ。俺たちの晴れ舞台なんだから邪魔をするな」


 まだ若い連中を死地に連れて行く訳にはいかない。

 それに、全滅してしまったらきっと大将は気に病むから。


「死んでも生きて戻ってきてください……」


 ルナ様がそんなことを言いながら火打ち石を鳴らしてくれる。

 はは、俺たちの導火線に火をつけてくれたのかね。


「やってやるさ。じゃあな、ルナ様、大将。そしてオスカル大隊長」


 時間はもう殆ど残っていない。

 まったく、時間を稼ぐ量が増えてしまったな。

 そう思いながら俺たちは敵の襲来を待ち受けた。



 しばしの時間が流れ、敵騎馬隊の姿が現れる。

 数としては同数を少し超える程度か。

 しかしこちらには魔法使いは居ない。

 実際の戦力は五倍といったところだろうか。


「だが、ここは通さぬ!」

「……貴公らは?」


 黒の甲冑を身にまとい、巨大な軍馬にまたがる騎士が誰何(すいか)してくる。

 まったく、貴族っていうのはお行儀が良いことで。

 だが、俺たちにとっては好都合。

 少しでも時間を稼ぐのだ。


「我らはケテル王国軍第十七歩兵大隊! ここからは一歩も通さぬ!」

「ふむ、魔道具は持っていなさそうだが。魔法使いはおらぬのか?」


 怪訝そうな声を上げると、軽く俺たちを見渡す。

 まぁそうだよな、なんせ誰からも魔力の反応がないのだから。


「はっ、答えるわけがなかろう!」

「……、お前たち、我が軍門に降らないか?」


 バカにしているのか。

 戦場で相手の兵を引き抜こうとは。

 それに、そのセリフは大将への侮蔑だ。

 許せるものではない。


「断る!」


 その一言に俺たち大隊員、全ての思いを込める。


「死ぬぞ?」

「とうに覚悟の上!」


 永遠とも思える一瞬のにらみ合い。

 だが、それは黒の騎士の一言で終わりを告げた。


「ふむ……。おい、引くぞ」

「は……?」


 何を言っているのだ?

 この場で、俺たちは時間稼ぎを……。


「二度は言わぬ」

「わかりました! 総員撤退!」


 その言葉は横に居た副官へと向けられていたものだったらしい。

 一斉に騎馬が反転し、走り始める。


「逃げるのか!?」


 俺たちはここで散る覚悟で居るのだ。

 その覚悟を穢す(けがす)つもりか。

 思わず激高してしまう。


「第十七歩兵大隊と言ったか、良い主を持ったようだな」

「何を……」

「貴公の任務はこれで達成できただろう? ならば早く主のもとに戻ったらどうだ」


 生きて、戻れというのか?

 そのような恥をさらせと?


「……、生きて大将のもとに顔見せなど……」

「それを許さぬような狭量なものなのか?」

「なっ! 太郎を侮辱することは許さんぞ!!」

「ははっ、ではさらばだ」

「くっ……」


 俺は、無力だ。

 強く、強くなりたい。

 そして大将と共に……。


 火照った顔を風がなぜる。


「インザーギ曹長、撤退しませんか?」

「ああ、そうだな……」


 部下の言葉に我に返る。

 はやく、戻らねば。

 大将の待つ、駐屯地へ。




「よろしかったのですか? あの程度の数、たやすく蹴散らせたでしょうに」


 副官の言葉に俺は鼻白む(はなじろむ)

 こいつも経験が足りていないのだ。

 そうそう遭遇するものではないので仕方のないことではあるが。


「馬鹿者、あれは死兵だ。負けはしなくとも相応以上の被害が出ただろうさ。これで良い」

「死兵、ですか?」

「信じられぬか?」


 戦闘になっていたら、少なくともこちらの騎士の半数は手負いにされ、十名以上がヴァルハラ送りとなっていただろう。

 獣人の歩兵相手に割が悪すぎる。


「カルロス様の言葉を信じぬなど……」

「よい、獣人が人に忠誠を誓うなど、普通では考えられないことだ。しかし太郎か、一度会ってみたいものだ」

「ネツァク帝国が世界を征服した暁にはたやすく叶いましょう」

「はは、逆にならないといいがな?」

「御冗談を……」


 冗談、だと良いのだがな。

 俺は嫌な予感を、太郎という名前に覚えるのだった。

お読み頂きありがとうございました。

一旦ここで終わります。

そのうちリメイクして出し直すかもです。

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