第三十二話 叙勲
「山田太郎、前に!」
「はっ!」
授与式が始まり、俺の名前が呼ばれると一斉に周辺がざわめいた。
やはり平民が呼ばれるというのは中々無いことなのだろう。
レッドカーペットを歩き、マリアの前まで進むと膝をつき頭を垂れる。
ものすごくドキドキするが、落ち着け。
昨日散々練習したとおりにやればいいんだ。
場所も相手も同じなのだから、同じように答えるだけ。
ふぅ、少し落ち着いてきた。
「山田太郎、貴殿は帝国軍の陽動部隊の接近を感知。その類まれなる力をもって第十七歩兵大隊と共にそれを打ち破った。相違ないな?」
「は、はい」
はいー、いきなり昨日の練習とは違う内容入りましたー!
マリアちょっと待て、それはもう諦めたって話じゃなかったのか?
しかも今日、この場でするものじゃなくない?
「その功績をもって男爵に任ずるものとする」
「あ、ありがたき幸せ……」
男爵ってなんだ。
あれか、芋の接頭語だっけ?
そうに違いない。
「続いて山田男爵。貴殿はその壮絶無比なる力を持って敵戦列艦を単独で三隻撃破、第三航空隊と共同で五隻拿捕した。相違ないな?」
「は、い……」
えっと、三隻は確かに撃破したけどその後の五隻は俺関係ないんですけど?
でもこの場で否定するのは絶対に駄目だって言われているから否定できない……。
「その功績をもって魔導伯に任ずる」
「ありがたき、しあわせ……」
魔導伯って何!?
なんか周囲で悲鳴上がってますけど!?
コレ貰ったらやばいやつなんちゃうん!?
「もちろん、魔導伯には宮廷魔導師長の役職について貰うことになる。かまわぬな?」
「御意に……」
魔法についてさっぱり知らない俺が宮廷魔導師、それも長になるとか。
確かに仕事は欲しかった。
だけどこれじゃない、これじゃないんだよ!
「続いて山田魔導伯」
「はい……」
まだ続くの!?
もう勘弁して!
俺のライフポイントはもうゼロよ!?
「貴殿は貴殿の忠告を愚かにも無視して敵に包囲された味方を救うべく殿に立ち、多くの味方を救ってくれたな?」
「はい……」
ずっと寝てましたが。
それでも殿は殿か。
というか、『殿に立ち』のところでマリアが一部の貴族を睨めつけた気がする。
まぁ、一番槍で功績を立てた部隊を囮にして逃げようとしたのだ。
冷遇されても仕方がないだろう。
「そして、妾も救ってもらった」
「御意に……」
マリアをうまい具合に撤退させたのはリカルドたちっていうのは言っちゃいけないんだろうなぁ。
「その忠誠心、勇猛さを讃え、貴殿を新たに創設する親衛隊の隊長に任ずる」
「拝命いたしました」
もうどうにでもなぁれ。
そんな気持ちで適当に返す。
詳しい説明はあとからされるらしいけど、俺は通常の指揮命令系統からは外され、上官と言える人間は居ないらしい。
強いて言うならマリアがそうなるのかな?
「下がってよろしい」
「ははっ」
しびれた脳みそでなんとかそれだけ返し、俺は壇上からなんとか降りた。
その後、オスカル、リカルドと呼ばれて行き、彼らもそれぞれ叙勲されたらしい。
残念ながら俺の記憶からは消えてしまっていたが……。
「しかし、爵位で抜かされてしまったね。これからは閣下と呼んだ方がいいかい?」
「オスカル、冗談でもやめてくれ。分不相応過ぎる」
王都のダヴォリ邸のリビングで俺はがっくりと頭を垂れる。
祝賀会では数多の貴族が俺に挨拶に来たが、本当に神経がすり減る思いだった。
娘を嫁にって話、多すぎない?
俺まだ成人してない……、この世界じゃ違うのか。
ともかくまだ結婚なんか考えたこと無いっていうのに。
リリーとルナは隔離されてしまい、ノーガード状態だった俺には辛かった。
途中でマリアに助け舟を出してもらわなかったらそのまま流されて誰かと婚約するはめになっていたかも知れない。
「まぁ姫殿下も無茶をするな」
「やっぱりそう思うか?」
リカルドの言葉で俺の考えが正しかったのがわかる。
俺に与えられた地位は貴族の常識から見ても少々ありえないものだったらしい。
なんせ一般市民がいきなり魔導伯、伯爵様だものな。
それに宮廷魔術師長に親衛隊長とか。
一体なにをどうすればいいんだ?
「あー、使用人とかはうちから出そっか?」
「あと家臣はどうする?」
「全部任せていいか……?」
俺が与えられたのは爵位や地位だけではない。
王都の一等地、それに王家の直轄領から幾らかの領地。
最後に、王宮に一室だ。
「王宮に部屋を下賜されるなんて聞いたことがない。寵臣、ここに極まれりだな」
「ここまでいっちゃうと官打ちに見えてしまうよ」
実際には違うってわかっててもね。
オスカルは眉をひそめながらため息を吐きながら続ける。
「家臣はダヴォリ家とフルラネット家から半々くらいださないと」
「そうだな、そうでないとまた余計なことを言い出すやつが出かねない」
ダヴォリ子爵家は譜代でフルラネット辺境伯家は外様。
その両者から半分ずつ家臣を受け入れることでバランスを取る必要があるらしい。
だが、子爵家ではかなり無理をしないと辺境伯家に対抗できないとオスカルは頭を抱えてしまうのだった。
「しかし下賜された領地は王都から近いとはいえ、モツァンか」
「なにか問題のある領地なのか?」
リカルドが微妙な表情を浮かべるので気になってしまう。
少しでも収入になるならいいが、持ち出しが出てくるような領地は遠慮したいのが本音だ。
というか、持ち出しと言われても出すものがないわけで。
「問題というと不敬になるのだろうが……」
「うーん、僕たちも出来る限り協力するから頑張ってね」
王都近郊の街、モツァン。
それは獣人たちが多く住む街らしい。
街というか、スラムというか、ともかく治安が悪く管理の難しい土地。
それがオスカルとリカルドの話を聞いた限りでわかった内容だった。
「まぁ、平民だった者に下賜するとなるとコレが限界というのはわかるが」
無茶が出来るのは勝利の余韻引かぬこの瞬間だけだからとマリアは出せるものは全て出したといった感じだった。
その中でも領地に関しては相当無理をしたようだ。
結果下賜される領地は引き取り手のない土地となったと。
それにしてもやりすぎだろうよ。
だいたい領地管理とか出来るわけがないのだ。
オスカルとリカルドが居なかったらこれ、俺詰んでただろ。
「まぁ、領地管理は部屋住みの優秀なやつを見繕うとして、親衛隊はどうするんだ?」
「設立からだもんね」
そうなのだ。
ゼロから作り上げなければならないのだ。
それも早急に。
早く作らないとどこから横槍が入るかわからない。
「だけど軍人のあてなんて無いんだけど……」
使用人のそうなのにどうしろというのだろう。
「領地から募るのが普通なんだけど、下賜されたばっかりだと難しいよね」
「それも獣人の街ではな」
かといって他の部隊から引き抜きをすると恨まれてしまう。
それに紐付きになる可能性が高く、王女殿下の親衛隊とするには少々難しい。
「マジで頭痛いわ……」
「ご愁傷さま、でも出世したことには間違いないんだしさ」
オスカルはそういうが、俺はそんなこと望んじゃいなかったんだよ。
安定した仕事と収入さえあればそれでよかったのに。
余計な責任が大量についてきてしまった。
「ままならないな……」
「ま、僕は少し嬉しいけどね?」
「ようこそ貴族の世界にってか?」
「そういうこと」
オスカル、お前もか。
だが、こいつらと同じと思うと悪くない。
かも知れないな。
その日の夜、俺は夢を見た。
「夢とは酷いね」
「……、久しぶりだな。自称神様」
「はいはい、久しぶり」
不満げな口調とは裏腹に口元は相変わらずニヤついている。
「君、なかなかやるねぇ」
「なにがよ」
「こっちの世界に来て三ヶ月くらいだっけ?」
「まぁそれくらいかな」
うんうん、と自称神様は首を振る。
「その間に種子を五つも回収するなんてさ」
おかげで僕は大助かりだよ。
機嫌良さげにそう嘯く。
「だからさ、君に選択肢を用意してあげようと思って」
「はぁ? またろくでもない話にしか思えないんだけど」
「はは、信用ないね? でもいいのかい?」
元の世界に戻る権利を放棄しちゃってさ。
奴のセリフに俺は固まった。
「戻れるのか……?」
「もちろんだよ。言っただろ? 僕の望みを叶えてくれたらまた願いを叶えてあげるって」
「んなこた言ってねぇよ」
「あれ? そうだっけ?」
とぼけやがって。
だが、元の世界に戻れるのか……。
「そうだよ。さ、どうする?」
「……、みんなはどうなるんだ?」
「みんな?」
「リリーやルナ、それにマリアやオスカル、リカルドたちだよ」
「ああ、大丈夫だよ」
君が居なくても死ぬわけじゃないから。
そういう自称神様に俺は目を細める。
当たり前のことだ。
俺が居なくなった瞬間爆発して死ぬとか、そんなわけがないのだから。
「ま、しばらくは君のことを探し回るんじゃないかな?」
「それは……、せめて戻るって一言伝えてからじゃないと……」
「残念だけどそれは無理だね。今この場で決めてくれ」
俺は……、俺は……。
悩んだ末、俺は一つの選択肢を選び取った。
「ん……? なんだ? なんか夢を見ていた気がするけど」
だが翌日目覚めたときには夢の内容はすっかり忘れていたのだった。




