第三十一話 忠心
「ん……」
「あ、起きた?」
「リリー……?」
「主様、おはようございます」
「ルナ……、おはよう?」
ここは……、駐屯地の官舎のベッドか?
いやまて、俺はさっきまで包囲されかけていたはず。
それを突破しようとして……。
「他の連中はどうした?」
「主様、怒らないで……」
「いや、怒っては……いるけどそれより理由が知りたい」
「あー、あいつら別に悪意があったわけじゃないっていうかむしろその逆だからね?」
「逆?」
リリーたちいわく、第十七歩兵大隊の連中は俺たちを逃がすために囮になろうとしていたそうだ。
でもそれを言うと絶対に反対される、だから薬を使って眠らせたんだとか。
「なんでそんなことを……」
「主様、みんな好き……」
「だがな……」
それでみんな死んでは意味がないだろう。
俺の能力なら、全員生きて帰れたかも知れないのに……。
「みんな反省してるし、それに薬が効きすぎたって心配してるから元気な顔だしてあげたら?」
「!! みんな無事なのか!?」
「ええ、ひとり残らずね。他の部隊はかなりの被害を受けてるけど、大隊のみんなは無事よ」
「そう、か、よかった……。本当によかった……」
敵の部隊を引き止め、玉砕するつもりだったらしい。
だけど敵将に情けをかけられて逃げることができたのだとか。
しかしあれだな、今回のは完全に俺のミスだ。
部隊の面々に、いや誰にも俺の能力のことをまともに説明していなかった。
だから連中もそんな無茶な行動に出たのだ。
あとでしっかり説明しておこう。
こんなことがないように。
「ほら、早くいってあげなさいよ。みんなあんたが目を覚ますまで無限腕立てで回復を祈祷しているみたいよ」
「……、なんだそりゃ」
「さぁ? 王国軍流の祈りらしいけど」
「意味がわからないな」
なんか腹立つし、もうしばらく行くのやめておいてやろうかと思ってしまう。
「もう半日くらいずっと腕立てしてる……」
「マジで!?」
だが、ルナの言葉に慌ててベッドを飛び出し外へと向かう。
その後、むくつけき集団の中で俺はもみくちゃにされるのだった。
「ちょっ! 汗臭え!!」
「旦那! 目が覚めてよかった!!」
「もう目が覚めないかと!!」
「このバカが薬の量間違えやがってよ!」
「致死量の数倍なのによくぞお起きに!」
おいまて最後。
致死量の数倍ってなんだよ?
俺なんで後遺症とかも残ってないんだ?
「……」
ふと官舎の方を見るとリリーと目があった。
そして勢いよくそらされる。
ああ、リリーが治癒魔法的なの使ってくれたのかな。
「宴会じゃー!」
「戦勝記念じゃ!!」
兵士たちが勝鬨をあげる。
だが戦勝と言いつつも勝ちきれなかったんだよな。
なんとか帝国軍は撃退したものの、相手は地上軍にほとんど被害を出していない。
航空戦力も中型戦列艦を八隻失ったものの、それでもまだ十隻以上残っている。
ワイバーンライダーと大型戦列艦に至っては無傷だ。
対してこちらは地上軍は半壊、ワイバーンライダーも大損害を受けている。
戦列艦には被害がなかったとはいえ、よくて引き分け、自国領地での戦闘ということも鑑みればむしろ負けなのではないだろうか。
「ささ、一杯どうぞ!」
「あ、ありがとう。んぶふっ!?」
「おや、太郎はマタタビ酒はダメだったか?」
渡された一杯を何も考えずに傾けたら何やらヤバイブツが入っていた。
「あ、人間はマタタビ酒のめないんだったか? いやーわりーわりー」
「コレ、マジ、ヤバイ……」
「ほらっ、ぺっしなさい、ぺっ」
「うっぷ……」
リリーの出してきたタオルに吐き出し、渡された水を呷る。
なんというか、宇宙の真理が見えるような味だった。
結局その日も能力の説明はできず。
夜は更けていった。
まぁ、そのうち機会もあるさ。
「そうだ太郎、正装の準備はしてあるか?」
「え?」
翌日本陣の撤収の準備をしていたところリカルドから声をかけられた。
「太郎はまず間違いなく叙勲されるからな。それも上位で」
「そういうのいらないんだけど……」
というか、そういう場に出たくない。
めんどくさいし、恥ずかしいし。
「おいおい、信賞必罰は国の根幹だぜ? 無理に決まってるだろ」
「大したことしてないんだがなぁ……」
「戦列艦三隻も落としておいてそれをいうか……」
それをいったら誰も表彰されなくなるし、まず間違いなく恨まれるというか暗殺されるとリカルドから忠告される。
暗殺って大げさなと思ったが、彼の目は真剣だった。
「えっと、マジ?」
「マジマジ」
なんせ命がかかっていたのだ。
その対価はしっかりもらわねばということらしい。
「太郎の功績はでかいからな」
まず間違いなく貴族にはなるだろう。
リカルドはそう言いながいやらしく笑う。
「なんだよ、その顔」
「いや、ようこそ、貴族の世界へと思ってさ」
「はぁ?」
「もう今までのような気ままな生活はできないぜ」
そういうことか!?
はめたな! リカルド!!
「いや、僕は何もしていないだろう?」
「そうだけどさぁ」
もっとこう、上手くやれる方法があったのではないか?
リカルド、俺がそういうの嫌いなの知ってるよね?
なのになんで止めてくれないのさ。
「ほら、親友はいかなる苦労も分かち合うものだろ?」
「それを押し付けるのは親友と言わないと思うんだ」
「あんたら本当に仲いいわね。それより正装の準備考えなくていいの?」
あ、そうだった。
楽しくてつい忘れてたけど準備しなきゃなんだよな。
「もしあれだったら家の贔屓にしている店を紹介しようか?」
「あー、頼める?」
でも高いんだろうなぁ。
お金、足りるかな……。
俺、今のところ無収入なんだよね……。
山賊の持ってたお金とロロの部隊費接収したやつと、あとはオスカルの家から貰った捨扶持だけ。
買い物いったけどお金払えませんとかだとダヴォリ家に恥をかかせることになってしまう。
「そうだ、お祝いに僕から贈らせてもらうよ」
「あなたが神か!!」
「んな大げさな……」
リカルドは笑いながら肩をすくめたのだった。
その後、俺は丸一日掛けて正装の準備を整えることになるとはこのとき、思いもしなかったのです……。
採寸はわかるが、まさか小物などのコーディネートまでしてもらえるとは。
ちなみに小物ももちろんリカルド持ちです。
さすが金持ち、羨ましい。
それから一週間後。
正装が出来上がると同じタイミングで叙勲に関する通知が王城から届いた。
まるで見計らったかのようなタイミングだ。
……、本当に見計らってたのかも知れないけど。




