第二十九話 迎撃
「行くの?」
「ああ」
指令所をあとにしようとする俺にリリーが声をかけてくる。
せめて相手の動きを細かく伝えるくらいはしないとね。
他にできることも無いし。
「すまぬな……、じゃが、太郎になら出来るやもしれぬ。いや、太郎にしかできぬじゃろう」
「え?」
いや、俺にしかできないことってそんなにないよ?
というか何この空気。
「主様……、ご武運を……」
「え、ちょっと?」
ルナが目を潤ませながら手に持っていた火打ち石をカチカチと鳴らす。
「太郎、君一人を行かせるのは心苦しいが、僕たちが行っても足手まといにしかならないのはわかっている」
「そうだな、頼むぞ、親友」
「あっ、ちょっ!?」
オスカルとリカルドが俺の背中を激しく叩き入り口へと押し出す。
ちょっとまって!!
一体何のことなの!?
「まって」
「リリー?」
おお! リリー! 君だけが俺の気持ちをわかってくれているんだね!?」
「魔法、かけてあげる。意味ないかもだけど……」
違った。
こいつ何もわかっていない。
「一人で戦列艦に立ち向かうなんて、ほんとあんたバカよね。……、生きて帰ってきなさいよ?」
ぱーどぅん……?
一人で戦列艦に立ち向かう……?
いったいなんのことですか?
「お願い、死地に赴く彼の者に鋼鉄の意志を」
待って、お願いだから。
だが、俺の思いが言葉になる前に魔法の発動句が紡がれた。
「獅子の心!」
心臓が高鳴る。
恐怖が薄れていく。
「ああ、そうだ、僕たちからもせめてもの手向けだ」
「僕もフルラネット家に伝わる秘術、掛けてあげよう」
あ、そう?
でも俺、戦列艦に突っ込むつもりはまったくないんですけど?
「身体強化!」
「白煙回路!」
体が軽くなる。
思考速度が早くなっていくことを感じる。
「ならば妾も王家秘伝の魔法をかけねばな」
色落ちでも魔力には関係はないのじゃぞ。
そう言いながらマリアが魔法を発動する。
「狂戦士の魂!」
……。
ははっ……。
ハハハハハハ!!!
何この全能感。
やべぇ!
今なら何でも出来る気がする!
「あ、ちょっと気合を入れ過ぎててしまったかの?」
「マリア様、獅子の心と狂戦士の魂の重ねがけは禁呪指定されていたと思ったのですが……」
「あ、そうじゃったか?」
ルーニーさんがマリアになにか言っているが、気持ちよくなっているところに余計なことは言わないで欲しい。
まぁいいけど。
「ありがとよ! それじゃちょっと戦列艦落としてくるわ!」
そのまま手を振り上げ、能力を発動させる。
対象は俺の移動に邪魔な屋根だ。
「なっ!?」
「ちょっと!?」
屋根に『メニュー』が刺さり、切り取られる。
何やら悲鳴が聞こえた気がしたが気にしない。
「収納!!」
そのまま切り取った屋根を収納し、俺は『メニュー』に乗ると飛び立った。
アリ粒並の大きさの兵士たちが眼下に見える。
青空が気持ちいい。
「ん、あれか」
視線を上げ、グルリと周りを見渡すと味方の第三航空隊と対峙する敵の中型戦列艦が見えた。
もっとも、突出しているのは二個航空隊だけで、残りは後方で待機しているようだ。
「っと、早く行かないと俺の獲物がなくなる」
メニューを加速させ、戦場へと急行だ。
風がキツイが、遅刻するよりマシだろう。
ぐんぐんと戦列艦が近づいてくる。
彼我の距離が百メートルを割ったくらいだろうか。
高速で飛翔する俺に向かって戦列艦から砲火が放たれる。
だが、豆粒大の俺に大砲の弾が当たるはずがない。
「っくぅ!」
とはいえ、空気を揺さぶるその一撃に俺は少し足元を滑らしてしまった。
そんな俺に向かって戦列艦からはさらに魔法らしきエフェクトが発生、俺を追尾してくる。
「あぶねえ!!」
俺は放たれた魔法を収納。
すぐさま反対方向に向かって取り出してやる。
魔法反射である。
反射でいいよね?
だが、反射された魔法は戦列艦の手前で霧散してしまった。
おそらく防御系の魔法が展開されていたのだろう。
「なら、これはどうかな?」
戦列艦の先頭に降り立つと、俺は大量の土を取り出してやる。
ゴロツキ共に使ったときとは違い、たっぷりと水を含んだそれを戦列艦の上部にまんべんなく。
甲板に居た乗組員には申し訳ないが、これも戦争だ。
恨まないでくれよ。
なぁに心配するな、みんなすぐに後を追うからさ。
「おっと」
想定外の重量に浮力が負けたのだろう。
大量の土に上部を埋められた戦列艦は徐々にと降下していく。
俺は再びメニューに飛び乗ると墜落していく戦列艦を見送った。
しばし間をおいてから辺りに轟音が響き渡る。
うん、これなら再起不能だろう。
「次!」
地面と土とに押し潰されたことを確認すると、俺は二隻目へと飛びかかった。
「三隻目撃沈!!」
敵の応戦は激しく、なかなか近寄れなかったので思いの外時間がかかる。
もっとサクサクと落とすつもりだったんだがな。
まぁいい、次だ。
「それにしても高いな……」
次の戦列艦を探していて気がつく。
上空数百メートルを一切の安全対策なしで飛んでいるのだ。
恐怖を覚えて当たり前だ。
「っと、なんだ?」
体が重くなり、思考が鈍化する。
「……」
ああ、そうか。
魔法が、切れたのか。
はは……。
ハハハハッ……。
マジこええよ!?
何がちょっと戦列艦おとしてくるわだよ!!
大砲あたったら俺なんて一瞬でミンチだよ!?
何が手向けだ!
「ありえねえええええ!!!」
俺は叫びながら全力で、しかしゆっくりと大地へ『メニュー』を移動させるのだった。
その後、残っていた戦列艦五隻は降伏したらしい。
それに後方で待機してた艦隊は気がつけば居なくなっていた。
マップを確認すると全力で本国へと向かっているようだ。
地上軍を放置して。
何がしたいのだろうか。
まぁいいや。
もう追いかける気力もないし、早く帰ろう……。
「主様!!」
「おかえりなさい!」
「大戦果じゃな!」
息も絶え絶えに本陣に戻るとルナとリリーとマリアの三人が俺に飛びついてくる。
「ただいま……」
しかし俺は精神がすり減りすぎてそう返すだけで精一杯だった。
指令所では詰めている人員が俺を驚愕の目で見てくる。
だが、そんな視線を向けてきているやつ中には話しかけてくる者は一人も居ない。
「帰ってきてそうそうで悪いんだが次の仕事だ」
「お前は鬼か」
いつぞや、オスカルに吐いたセリフを再びここで口にする俺だった。




