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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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第二十七話 戦闘準備Ⅱ

「ふむ、我軍の戦力ですか」


 ダンディーなおっさんが葉巻をくわえる姿は絵になる。

 それもピッチリと折り目正しい軍服を着込んで。

 対称的に口の周りを飾るヒゲがワイルドさをより引き立てている。


「ええ、差し支えなければ教えてもらいたいと」


 王国空軍第三航空隊、その司令室で俺はロンディ司令と面会していた。

 念の為どの程度戦えるのか知りたかったのと、帝国侵攻の際には確実に協力してもらいたかったからだ。

 まぁ、第三航空隊の要職は代々フルラネット家の関係者で締められているらしいから話せば通るだろう。


「そうですね、貴方様でしたらお伝えしても問題ないでしょう。我軍の航空戦力は第一航空隊、第二航空隊、第三航空隊の三つに分かれておりますが、そのいずれも中型となります」

「しかし防衛特化のためその戦力は並の中型艦を超えるのでは?」


 オスカルが口を挟むと第三航空隊のロンディ司令は目を細める。


「確かに我が艦隊の艦はフリゲートの割には大きく、また居住性を削りその分戦闘にリソースを回しております」


 しかし、とロンディ司令は続ける。


「第三航空隊はいずれも旧式です。そして比較的新しい艦の配属されている第一航空隊と第二航空隊は練度に不安が残ります」

「それでは、負けてしまうと……?」

「同一程度の艦数であれば第三航空隊は負けることはないでしょう」


 同隻数、四対四であるならば相手が大型戦列艦であっても負けはしない。

 そうロンディ司令は不敵な笑いを浮かべる。


「ですが相手が増強されていたり複数の航空隊相手では抑えるのが精一杯です」


 それもこちらの艦を半分落として、とのことだ。


「我々を高く評価していただけるのは嬉しいですが、これが現実ですよ」

「そんな……」


 オスカルは口を歪める。

 それはそうだろう。

 仮に戦艦が出張ってきても弾き返すことが出来る。

 それが前提だったのだ。


「中型ではなく、大型であればもう少しやりようもあるのですが」

「……、我が国には既に大型戦列艦を製造する技術は最早失われている……」


 昔は大型戦列艦を配備していたが、老朽化で更新を行う際にすべて建造費と維持費の安い中型に置き換えたらしい。

 その結果、造船技術も失われ、今から用意するには他国、主にネツァク帝国から買うぐらいしかないそうだ。

 だが敵国から買えるわけもなく。


「我らも軍人、母国が侵されようとしているのであれば参陣に否やはありません。もしもの際は駆けつけることをお約束しましょう」

「ありがとうございます……」

「その時は連絡させてもらいますね」



「そんなバカな……」

「あー、でも現実を知れてよかったじゃないか」


 当てにしていて当日負けましたよりはマシだろう。

 そう思うしか無い。

 それに相手の数が倍程度までであれば第三航空隊で一応は抑えられるのだ。

 敵の航空戦力が全て出張ってくるとは考えづらいし、それであればどうにかなるさ。

 ……、どうにかしてくれよ?


 第三航空隊をあとにするとリリーとルナと合流した俺は再び王都へと舞い戻った。

 というかここ最近忙しすぎやしませんかね。

 もう何往復しているかわからないぞ……。

 


「というわけじゃ、間もなく帝国軍が越境してくるであろう」

「そうおっしゃられましてもな、密偵からもなんの警報も無いのでしょう?」


 マリアに呼び出された宮廷では、マリアが必死に貴族たちを説得していた。

 だが、その様子は芳しく(かんばしく)ない。

 それはそうだろう、俺みたいなどこの馬の骨ともわからない男しか証拠がないのだ。


「それは違うぞ、モンディーニ卿」

「はて? 何が違いましたかな?」

「警報がないのではない、そもそも連絡が取れなくなっているのだ」

「同じことでしょう、きっとちょっとお休みを取っているだけに違いありません」

「しかりしかり!」

「そうですとも!」


 いや、密偵が連絡取れなくなったってそれイコール密偵が潰されたってことじゃないの?

 つまり、密偵が放たれていた周辺までは敵軍の侵攻があるってことだぞ。


「しかも帝国軍の侵攻の根拠がそこの小僧の証言一つ? 子供の冗談でも許されるものと許されないものがあるのですぞ?」

「妾を子供と愚弄するか!」


 軍を動かす金勘定もできないのか。

 国政は遊びではないのだ。

 魔力なしの黒髪小僧と色落ち王女ならお似合いですな。

 嫁入り前に返品。


 激高するマリアに取り囲む貴族たちから次々と侮蔑の言葉が囁かれる。

 こいつら、一斉にしゃべることで誰が喋っているのかわからなくしているのか……。

 だが、いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるのかわからないのか?


「いや失礼。しかしいくら黒目黒髪でも彼はなんの魔力反応もないではないですか」

「どこかの家の隠し子でありましょうが、流石に王女殿下とてお遊びが過ぎますぞ?」


 彼らとて帝国軍の侵攻は予測しているはずだ。

 ただ、今の王家では、国を守ることができない。

 であるならば、素直に臣従して領地を安堵してもらおう。

 そう考えているのかも知れない。


「その、マップでしたかな? どのようなトリックを用いているかはわかりませんが、大人は騙せませんぞ?」

「まぁ無駄な時間でしたな。モンディーニ卿、このあとお茶でもしませんか?」

「うむ、喉も乾いたしそうするか」

「……」


 貴族たちはマリアから意識をそらすと次々に宮廷をあとにする。

 一人取り残されたマリアは俯いたまま震えていた。


「マリア……、すまん……」


 なんて言ったらいいのか。

 俺には慰めの言葉すらかけることができない。


「くくっ……」

「マリア?」

「くはははっ! 聞いたか太郎!」

「え?」


 マリアはグリッと顔をあげると喜色満面に笑い声を上げる。

 え、なに、壊れた?

 まじかよ。


「これで良い、これで良いのじゃ!」

「えーっと? ちょっと休憩しよっか?」

「バカを言うでない! よいか! これで彼奴(きゃつ)ら、戦争に勝っても何も言えぬぞ!」


 宮廷からその力、一掃してくれる!

 そう言うとマリアは腰を折って膝をたたきながらケラケラと笑い続けるのだった。



「ふー、笑った笑った。すまんの太郎、ダシに使って」

「いや……」


 しばらくして、落ち着いたマリアにルーニーさんがお茶を差し出す。

 あの、俺の分は?

 あ、無いんですか、そうですか。


「だけどよかったのか?」

「ん? あやつらの戦力など端から当てになどしておらぬよ」


 大貴族のまとまった軍ならともかく、未だ宮廷に残っている、残らざるを得ない貴族たちの戦力など当てにならないらしい。


「練度が低い分、足を引っ張るだけじゃ」

「そういうもんかね?」


 戦争は数だと思うんだけど。

 逆にそこが弱点となるってこともあるし、難しいな。


「うむ、しかしこれで妾も腹が決まった」


 もう後戻りはできない。

 そうつぶやき、彼女は力強く俺の目を見つめ、その手を握りしめた。

 俺は立ちくらみに耐えながら、その目を見つめ返す。


「太郎、お主には王宮の一室を与える。これから頼むぞ」

「お、おぅ」


 大したことはできない俺だけど、それでも少しは力になれることがあるはずだ。

 そう俺は心の中で呟いた。


 というか、一般人が王宮の一室もらうって、大丈夫なのだろうか?

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