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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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第二十六話 戦闘準備Ⅰ

「領地の増大、最低限この条件は飲んでもらわないと困る!」

「今回は防衛戦そうじゃぞ!? 領土が増えないのに領地の下賜など出来るわけなかろう!」


 黄金の輝き亭の一室。

 そこではマリアとリカルドの舌戦が繰り広げられていた。


「王家直轄地があるだろうが!」

「そもそも妾たちが負ければ国が滅ぶかもしれんのじゃぞ!」


 俺と話しているときとは違い、二人共目を吊り上げ、口角泡を飛ばしていた。

 もっと穏やかにに話が進むと思っていたのだが、二人の話は平行線をたどっている。


「その時は我々は独立するだけだ!」

「はっ! フルラネット辺境伯領が自給自足できているとはいえ、イコール自衛できるというわけではなかろうが!」


 マリアとリカルドの会談は最初こそ穏やかなものだったが、徐々にヒートアップし今ではお互い掴みかからんばかりの勢いだ。

 お互い背負っているものがあるからか、二人とも一歩も引かないのだ。

 俺は門外漢だし、口をだすべきじゃないと思い黙っていたのだが……。


「太郎様、申し訳ないのですが間に入っていただくことはできないでしょうか」

「ルーニーさん、その話し方気持ち悪いんですけど」

「公務中ですので」


 涼やかに微笑むルーニーさんだが、いつぞやの言動を思えば非常に胡散臭く思える。


「他の国の庇護を求めることだって出来るんだぞ!」

「弱って頼った先でどんな目に合うかわからぬ貴殿ではなかろう!」


 今ある領土を美味しく切り分けられるに決まっている。

 そう吐き捨てるマリアに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるリカルド。

 おそらくマリアの言っていることは事実なのだろう。

 そしてリカルドの言っていることも。


「私からもお願いします」

「エレナさん……」


 仕方ない。

 正直荷が重いが、二人を引き合わせたのは俺だ。

 責任は取るべきか。


「あー、ちょっといいか」

「ん、太郎、どうした?」

「言ってみよ」

「悪いね。二人とも自分の主張ばっかりしてるみたいだからさ」


 お互いどこまでなら譲れるのか、それを教えてくれ。

 俺はそう伝えたのだった。



 一時間後、そこにはお互いに渋い顔をしながらも握手を交わす両者の姿があった。


「ならばこの条件で」

「むぅ、仕方あるまいな……」


 お互い百パーセント納得行く結果にはならなかった。

 だが互いに我慢できる範囲、条件でなんとか妥結させることができた。


「お見事です」

「流石ですね」

「いや、お互いの妥協点を教えてもらえればあとはそこから積み上げるだけですし」

「そんな事はありませんよ」

「ええ、そうですよ」


 ルーニーさんやエレナさんが間に入っても相手から信用されない、むしろ不審をお互いに煽る意味がないらしい。

 そこで両方から信用のある俺に仲裁を求めたと。

 友情を利用しているようであまり気分が良くないけど、他に手もなかったしなぁ。


「太郎、助かった」

「うむ、妾からも感謝を」

「友人だからな」


 俺がそう言うと二人は吹き出すのだった。


「ふむ、ならば友人として頼みがあるのじゃが」

「なんなりと、お姫様?」

「やめよやめよ、似合わぬにも程がある」

「酷いね痛ってえ!?」


 なんとなく俺が膝をついて頭を下げ執事のマネごとをしてみるとマリアの言葉と同時に尻に衝撃が走る。


「失礼、足が滑りました」

「ルーニーさん……」


 こいつ喧嘩売ってんのか?

 マジで痛いんだけど!


「まったく、それで頼みじゃが、明後日時間をもらえるかの?」

「え、なんの用事?」

「それは明後日のお楽しみじゃ」

「ふーん……?」


 まぁ悪い話ではあるまい。

 俺は諾と答えると彼女たちと別れた。


 さて、もう一仕事、やらないとね。

 翌日、俺は王都を後にし第十七歩兵大隊の駐屯地へと向かった。



「ルナ様!」

「ん」

「ちょっと私を無視しないでくれるかしら?」

「ああ、リリーさんもいらっしゃい」

「それじゃしばらく頼むよ」

「あいよ、太郎も大変だな?」

「ま、自業自得だから」


 下士官の一人にリリーとルナの面倒を頼み、オスカルの待つ小会議室へ向かう。

 さてさて、どうやって説得するか。

 王都に獣人部隊を入れると問題になるとか言ってたしなぁ。

 まぁ、いざとなれば拝み倒すしか無いんだけど。



「……、王城前の広場に大隊を展開させろって?」


 下手をしなくても反逆罪に問われかねない。

 そう言いながらオスカルは目を白黒させる。


「ああ、頼む。王女様のお墨付きだから反逆罪とかにはならない」

「待ってくれ、一体どうしたっていうんだ」


 俺とオスカルは駐屯地の小会議室で膝を突き合わしていた。

 帝国が攻めてくる可能性、そして宮廷の対応能力の低下をオスカルに説明するために。


「……、まさかそこまでとは……」

「ああ、だから姫様が立つことになりそうなんだ。その時に力を貸して欲しい」

「そう、か……」


 少しの黙考。

 だが、オスカルは苦笑いを浮かべながら承諾してくれた。


「借りは返さないと、だからね」

「ああ、頼むぜ親友」


 そう言われちゃ断れないな。

 そういうとオスカルは肩をすくめるのだった。


「今から行けばいいのか?」

「いや、おそらく一ヶ月後くらいだと思う」


 敵襲来のタイミングですぐに展開できるように、何かしら理由をつけて王都内に居てくれとお願いする。


「なるほど、先日戦闘となった帝国軍の動きを考えると、その辺になるか」

「ああ、連中は王都東側からの強襲部隊だろう。それか本隊から目をそらすための陽動か」

「ふむ、太郎の魔法の索敵範囲はどれくらいか聞いてもいいかい?」

「もちろんだ。最初から教えるつもりさ」


 マップは限界まで引き伸ばせば、王国全域まで表示可能だ。

 もっとも、そこまでしてしまうとマーカーが小さくなって判別ができなくなってしまうのだが。

 そのため、ある程度表示範囲を狭め、表示範囲を移動させて索敵に当たることとする。

 負担は重いが、これも安定した生活を得るためだ。

 せっかく捨扶持もらえることになっているのに国が潰れてしまってはどうなるかわからないしね。


「まったく、本当に君は規格外だな」

「リリーたちにも言われたが、なんでもありってほどじゃないんだぜ?」


 むしろ出来ること結構少なかったりするんだよね。

 運が悪ければこっちの世界に来たその日に飛竜に食われて死んでいただろうし。

 それ以外にも1つボタンを掛け違えたらこの状況にはなっていなかっただろう。

 運が良かった、と思いたい。


「だが、それだともう索敵に引っかかっていないとおかしいんだがな……」


 そう言ってオスカルは首をひねる。


「うん?」

「国境から王都まで普通に進軍したら二ヶ月はかかる。強行軍で行くにしても、その後の戦闘を考えると無理はしないはずだ」

「だが、まだ連中の姿は見えないぞ?」

「輜重部隊を連れてこなければ可能だが……。もしかしたら大型飛空船を輸送に使うつもりなのか?」

「飛空船?」

「まぁ航空戦列艦を外征に持ち出してくることもないだろうし、ワイバーンライダーも皇帝の護衛からは離れないだろうから大丈夫とは思うが」


 ……。

 飛空船?

 航空戦列艦?

 それにワイバーンライダー?


「なにそれ?」

「ん? 知らないのか? 文字通り空を飛ぶ船なんだが。あとワイバーンライダーは騎士の憧れだね」


 航空船舶は貴重な大型の魔晶石を必要とするため、抜くに抜けない伝家の宝刀ということらしい。

 ワイバーンライダーも数が少なく、基本的に皇帝の近衛兵しかなれないそうだ。

 その上ワイバーンの飛行可能時間はせいぜい二時間から三時間程度だから遠征はできないと。


 ……、それってフラグっていいませんかね?


「なぁ、帝国の保有している航空戦列艦の数、そして移動速度はどれくらいなんだ……?」

「うん? そうだな……」


 超大型艦が一隻、大型艦が十隻、中型艦が三十隻。


「あとは小型船が百隻くらいかな。まぁ小型艦は遠征できるほど航続距離がないから」

「……」


 つまり最悪四十隻以上の戦列艦が攻めてくる可能性があるってことか?


「移動速度は馬の十倍くらいかな。ああ、でも大丈夫だよ」

「なにがよ……」


 嫌な汗が背中を伝う。

 そんな大軍に急襲されたら一瞬で王都は火の海になるのではないだろうか。


「前に言っただろ? 帝国では内乱があったって」


 それで信じられないことに多数の船が落とされたらしい。

 つまりそこまで数はないと?


「そういうこと。僕がさっき言ったのは戦前の数だからね。実際は結構減っているんじゃないかな?」


 貴重な航空船舶を内戦で使い潰すなんて正気の沙汰じゃない。

 オスカルは苦笑いを浮かべながら首を振った。


 仮に半分落ちてたとしても二十隻なんですが。

 その言葉をなんとか飲み込む。


「ケテル王国にも航空戦列艦はある。それも防衛に特化してるから仮に攻めてきても大丈夫だよ」

「ほんとかよ……」

「そうだ、近くに空軍の港があるから行ってみるかい?」

「一般人が行ってもいいのか?」

「ま、僕も王国軍人だからね、大丈夫さ」


 オスカルは荷馬車を用意すると言って会議室を出ていく。

 また荷馬車かぁ……。


「ええ!? また荷馬車!?」

「ちょっと、辛いです……」


 ですよねー。

 というわけで男二人で第三航空隊へと向かうことになった。

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