第二十四話 深まる友情
「ほー、これがマジックアイテムか」
「ああ、魔法使いなら興味あるだろう?」
「んー、まぁそうだな」
予想に反して一郎の王都案内は普通だった。
てっきりリリーに夢中になっているものだと思っていたが、俺やルナとも普通に話をしている。
「あ、これ可愛いかも」
「店長、これを一つ貰おう」
「……、いらないわよ」
そうでもなかったか。
なんとかプレゼントを贈ろうとリリーが興味を持つ物を買おうとするが、先にリリーにすげなく振られている。
ぬか喜びとなっているお店の人たちが可哀想だな。
「あー、それじゃ俺が買うわ……」
「……、ありがと……」
あ、俺からのは貰うんですね。
ルナにあげようかと思ったんだが、まぁ良いか。
リリーはふてくされながらも包装に包まれた箱を受け取り、胸に抱く。
俺が収納しようかと言ったのだが、持っていたいらしい。
まぁ欲しいもの手に入れたらしばらくは持っておきたい気持ちはわからないでもないので好きにさせる。
「ぐぬぬぬ……、だがこれはこれで悪くない……」
やめて!?
俺まで悪寒を感じたぞ!?
「おいおい、そんな顔をしないでくれよ」
「んじゃそんなこと言うな」
「まってくれ、僕たち友人だろ!?」
「え?」
「え?」
沈黙が場に満ちる。
「……、冗談だよ」
「そ、そうか、よかった」
彼はそういいながら口元を引きつらせ、ハンカチを取り出し額を拭う。
いや、まぁうん。
一度会ったら友達っていうし、間違いではないだろう。
きっと、たぶん、だったらいいなぁ……。
「そうだ、友人として、なにか困ったことがあったら相談してくれ」
「いいのか?」
「友人だからな!」
おおぅ、痛々しすぎてなにも言えねぇ。
あれか、貴族だからなかなか友達も作れないってことなのかもしれないな。
結局彼は丸々三日間俺たちの案内をしてくれた。
おかげで王都にはかなり詳しくなった。
かなり散財してしまったが。
一郎、もとい、リカルド=フルラネットは全部実家にツケていたが、俺は自分の財布からしか出しようがない。
まぁ、オスカルから支払い関係は一度ダヴォリ家に回すように言われてるからそうするけど、結局俺が払うことには変わらないんだよな。
少し節約しなければいけないような気がするが、金持ちが散財するのは義務だとリカルドから窘められてしまった。
食事も女の子が出店なんかで食べるものではないと一郎からの反対を受けて毎食レストランだったしな。
宿だって貴族御用達の最高級宿、黄金の輝き亭に泊まることになってしまったし。
ま、その分サービスは良かったから文句は言うまい。
でも個人的には眠らぬ小鳥亭の方が好きだな。
黄金の輝き亭は各部屋に侍女と下男が付いており、気が休まらなかったし。
いくら居ないものとして扱えと言われても一般庶民の俺には無理があったのだった。
リカルドとの楽しい日々も終りを迎える。
「若様、もうそろそろ仕事に戻りませんと」
「エレナ、今いいところなんだ。邪魔をしないでくれるかな?」
彼の侍女らしき女性が眉間にシワを寄せて苦言を呈する。
だが、リカルドは些末なことだとでもいいたいように目も向けず手をふるのだった。
「若様……、十歳になるまで」
「ヤメロッ!!」
「仕事をしていただけますか?」
「くっ……わかったよ、仕方ないな……」
リカルドより少し上の侍女さんは不敵に笑いながら首肯を返す。
友よ、わかるぞ。
自分の恥ずかしい過去を握られては反攻のしようがないものな。
「すまない太郎、ここまでのようだ」
「ああ、気にするな」
「それじゃ、また会える日を楽しみにしているよ」
「おぅ、またな」
宿屋の前で向かい合い別れを交わす。
いろいろあったが、そう言って別れるときには若干の寂寥感を覚えてしまう。
そういえば異世界に来て二人目の同年代の友人なんだよな。
ちょっと、いや、少し……、だいぶアレな感じだけど。
性格は悪くないし、話してて楽しかった。
また、会えると良いな。
そう思わせられたことに若干の敗北感を胸に抱くが、それもまた悪くないと思えた。
「それで、妾はのけものかの?」
「どうしてここにいる……。警備はどうした警備は」
宿屋に帰った俺たちを、マリア王女殿下が迎えてくれた。
王族がこんなに気軽に出歩いて良いのだろうか。
「ま、妾は黒髪でも黒目でもないからの。それにしてもずいぶんと仲良くなったのじゃな」
「リカルドのことか?」
「他におるまい?」
マリアいわく、リカルドはフルラネット辺境伯家の長男だそうだ。
外様貴族のため中央での権勢はあまりないが、その兵力は無視できないものらしい。
「王国でも一二を争う精鋭部隊を揃えておるしの」
「なるほどなぁ」
それにしてもリカルドのやつ、辺境伯家の長男だったとは驚きだ。
そりゃたまには息抜きもしたくなるだろう。
ただ、いくら誰も逆らわないといっても護衛も付けずに出歩いていたのはまずいのだろう。
仕方ないな、護衛代わりにたまには一緒に遊びに行くのも悪くないか。
友人だしね。
「さてと、夜も遅くなってきたしそろそろ帰れよ」
「太郎よ、今日は妾もここに泊まるのじゃ!」
「はぁ? 無理に決まってるだろ」
常識的に考えて欲しい。
王族の少女とどこの馬の骨ともわからない男がひとつ屋根の下とかありえない。
「マリア様は言い出すと聞きませんので」
「っ! ルーニーさん……、冗談でしょ?」
「いえ、冗談ではございません。マリア様の本日の宿泊先は間違いなくこちらになります」
というか気配消していきなり現れるのやめてもらえませんかね?
しかも驚いた俺を見て内心笑ってるだろ。
「聞いたかの? うちの執事は優秀じゃからな! これくらい朝飯前なのじゃ!」
「お褒めに預かり光栄です」
「ふふっ! そもそも彼奴が泊まれて妾が無理となるわけがないのじゃがな!」
……。
いや、優秀なのはわかるが、それはまずいだろうよ。
だいたいリカルドは男だ。
いくら男女平等と言ってもそこは区別されるべきだ。
この世界にそんな考えあるか知らないけどさ。
「山田様、ご安心ください。山田様が不安に思うことはすべて払拭済みでございます」
そう言ってルーニーさんは見覚えのある鍵を取り出した。
「これは……」
「はい、眠れぬ小鳥亭のスイートルームの鍵でございます」
「なんじゃと!?」
「もちろんお荷物はすべて運搬済みでございます」
食事はつけておりませんのでお好きに召し上がってください。
ルーニーさんはそう付け加え、俺たちを部屋から追い出すのだった。
しかしルーニーさん、優秀すぎるだろ。
さり気なく、それも問題にならない程度に嫌がらせをしてくるし。
それでいてフォローもしてくれるから憎むに憎めないんだよな。
宿屋は別となったものの、結局そこからさらに三日間俺たちはマリアに付きまとわれることになった。
いや、楽しかったけどね?
しかし貴族や王族の買い物っていうのは凄いな。
全部ツケなんだもん。
代金を取りにこさせることで贔屓にされていると周りに知らせるためっていう意味があるらしいけど。
俺にはちょっと合わないな。




