第二十三話 ボーイミーツ…ボーイ?
「王都だー!」
「主様、昨日も王都でしたよ?」
良いじゃないか。
昨日も王都と言ったって、早朝に出発だったし。
昨夜も王女殿下とリリーのせいであまり楽しめなかったしな。
今日は思う存分王都観光をやるんだ、俺は!
ちなみにオスカルは王女殿下のおかげで更に増えた書類と格闘中です。
「で、だ」
どういうことなの。
俺達は大人しく王都を楽しむつもりだったのに。
なんでこんなことになっているんだ。
なんだろうこの既視感。
ああ、そうか二日前に似たような状況に陥ったばかりだったね。
うん。
「兄ちゃん悪いことは言わねぇ、そこのガキとエルフの娘置いて消えろや」
「ああ、獣人はいらねぇから持って返っていいぞ。良かったな」
二日前と一字一句同じようなセリフを吐くゴロツキとチンピラ。
ちょっとだけ一昨日と違うことを挙げればそのガキっていうのが男ってところかなー。
マジ誰得だよ。
「くっ……、僕のことは良いから君たちは逃げろ!!」
「おーおー、かっこつけちゃってまぁ」
「だけどよ、逃がすと思ってんのか? あ゛あ゛っ!?」
あ、一昨日とは違う流れに。
いや、そうじゃなくて。
よくよく見ればゴロツキたちの着ているものもあまり上等なものではない。
そして彼らの手には刃物が握られていた。
「今回はガチってことなのか?」
「なに言ってやがんだ? 舐めてんのか? え゛え゛っ!?」
「エルフが魔法得意つったってこの人数相手じゃどうにもならねえぞ!!」
俺のつぶやきを拾ってくるチンピラ。
君、耳良いね。
狭い路地裏だから声が聞こえやすいのかな?
「主様、行きましょう」
「え、私置いてかれるの!?」
「みんな一緒です」
冷静に答えるルナだが、俺の袖を引く手は少し震えていた。
「獣人が人様の言葉使ってるんじゃねえ!」
「ふざけんなよっ!!」
怒気を上げてにじり寄ってくるゴロツキたち。
「まぁまて、話せば分かる」
「黙ってろよ?」
「こいつ、余裕ぶっこきやがって」
落ち着かせようとした俺のセリフは更にゴロツキたちを怒らせる結果に終わる。
なんでこの人たちこんなに怒りっぽいんだ。
カルシウム、取ってる?
「あ? 何だこりゃ?」
「飯の絵?」
だが、眼の前に出現した『メニュー』に足を止める。
「お、おい、なんだこりゃ!?」
「なっ!?」
そしてそのまま彼らを覆うように俺は『メニュー』を半球状に召喚した。
更に大量にメニューを召喚し厚みを増やしていく。
一枚では簡単に破れるメニューも、十枚二十枚と重ねれば非常に頑丈なものとなる。
ゴロツキたちが必死になって『メニュー』を叩く音が聞こえるが、問題はないだろう。
「なにこれ」
「危険は去った」
「いや、説明してよ」
リリーが半眼で俺を見つめてくるが、俺にもよくわからないので説明できないんだよな。
能力云々の説明はしたくないし。
「これは、君がやったのかい?」
「ん、まぁそんなところですね。怪我はないですか?」
「ああ、大した怪我はないな。おかげで助かったよ」
彼はそう言いながらホコリを払い立ち上がる。
やや色が抜けたような黒色の髪の毛、同じ色をした瞳。
立ち振舞や服装から見ても彼はおそらく貴族だろう。
青を基調に金色の獅子の刺繍が施されたその騎士服は、ロロの着ていたものより風格が漂っている。
「あーっと、俺は山田太郎です。どうしてこんなことになっていたのか教えてもらっても?」
「ふむ、僕は……、鈴木一郎だ。ちょっと少女がチンピラに絡まれていてね」
助けようとしたら逆に自分が囲まれてしまった。
そう照れくさそうに彼ははにかんだ。
ちくしょう。
野郎のはにかみなんてと思うが、それが妙に似合う。
イケメンな上に正義感も強いとか。
こいつ主人公かよ。
「っと、それで怪我はないかな?」
「触らないでくれる?」
「……」
出した手を叩かれ、呆然とするイケメン。
「おいっ!?」
「ふんっ」
ざまぁ! と、思わないでもないが彼をこんな状況に陥らせたのは他でもないリリーである。
そして彼女の主人の俺の責任でもあった。
「うちの奴隷が申し訳ありません……。しっかり言って聞かせるので許してください……」
「い、いや、こういう反応は初めてだったから少し驚いただけだよ。気にしないでくれ」
叩かれた手を擦りながら俺へ苦笑いを向ける。
くそう、イケメンは何やっても絵になりやがる。
「主様、主様の方がかっこいいです」
「お、おぅ、ありがとう?」
ルナ、人の心を覗き込むのはやめたまえ。
っと、それよりも、だ。
「そうだ、礼を言うのを忘れていました。うちの子を助けてくれてありがとうございます」
「はは、礼には及ばないさ。それに助けられたのはむしろ僕の方だしね」
そういいながら一郎はドンドンと自己主張を繰り返すドームに視線を向けた。
しかしこれどうしよう。
少し離れてから解除すればいいかな。
「とりあえずここだとなんだし、カフェに行かないか? 近くにいい店があるんだ」
「うっ!? なんかゾワッとした。ちょっとあんた、変な目で見ないでよ」
そう言って一郎はウィンクを投げかけてくるがリリーにバッサリと斬られるのだった。
だが、彼は不快感を表すどころかむしろ幸せそうな顔をしていた。
ああ、うん。
人にはいろいろあるしね。
他人の趣味に口を出してはいけない。
たろう、おぼえた。
「まぁそこそこね」
「はは、そうかい? 次はもっといいお店に案内するよ」
「結構よ」
「そ、そうかい?」
一郎の案内で向かったカフェでは相変わらずリリーに粉をかける一郎と鉄壁の防御を見せるリリーの姿があった。
「なんかすまん……」
「いや、これはなかなかいいものだ」
敬語はやめて欲しいという一郎に俺は一瞬躊躇したが、彼をめった切りにするリリーと満足気にする彼を見てその戸惑いは消え去った。
なんでも、こうやって否定されることで精神が落ち着くんだとかなんだとか。
偉い貴族も大変なんだな。
「それで、君の名前を教えて欲しいのだが」
「奴隷に名前を聞くってバカなの? 正気? 頭大丈夫?」
「リリー、言い過ぎ」
「そうか、リリーというのか……」
「うわっ、ゾワッとした! っていうかルナ、何勝手に名前言ってるのよ!」
一郎が噛みしめるようにリリーの名前をつぶやく。
それに合わせてリリーの両腕にに浮き上がった。
名前くらいいいじゃん、とは言い切れないかなぁ。
男の俺でも悪寒を感じるレベルだし。
「なら僕に任せてくれ!」
「あー、良いのか? 忙しいんじゃないの?」
「ははっ、遠慮するなよ。僕と君との仲じゃないか!」
その後、王都観光中だと伝えると彼は案内役を買って出てくれた。
いや、どんな仲だよ。
なんとか理由をつけて断ろうとしたがさすがは貴族、口が立つ。
結局俺が丸め込まれる形で王都の案内をしてもらうことになったのだった。




